■ 頼むから黙ってろ

 輪廻転生塔日本支部転生管理課には色んな人が出入りしている。人の形をしていながらも実際には人の皮を被った妖怪で、本来ならば術やらなんやらでさっさと消えてしまいそうな存在や、現世で亡くなった人が働いていたり、中には動くのかと妖しいモノもいる。
 この度めでたくとは言い難いくらいの気持ちで転生課に就職してしまった俺、上平京は着々と仕事をこなし、優れた上司に恵まれ、平穏無事な職務生活を送っていた。

――なわけながなかった。
「ねーどこか遊びに行こうよー!」
「……」
「永遠と仕事していたんじゃ、いつか干しアワビみたいに干からびちゃうー」
「…………」
「そうだ、繁華街に行こうよ!あそこで可愛い女の子たちと戯れるのも息抜きになるよ! 京くんもきっと息抜きに…」
「戯言はいいので仕事してください!!」
 どんなに話しかけられても極限まで無視をし続けていたが、度が過ぎる上司の態度にいい加減怒りの沸点が早々に到達した。
 本日の業務内容は通常と変わらない書類整理。様々な理由からあの世に来てしまった人たちから生き返ることが出来る人を確認するための簡単な作業。なのだが、書類の量が半端なく多い。出来る限りの力で処理してきた仕事を、あろうことか転生課に押し付けてきたところがあるのだ。机が溢れるばかりの書類を目にした瞬間、俺の上司である閻魔は全て俺に押し付けてきた。自分は逃げようとしていたので先回りをして現在できる最大の剣幕を出した結果、しぶしぶと了承して仕事に取り組んでくれたのだった。
 書類を片付けてる間でも、このサボり常習犯の上司は構ってほしいのか色んな手段を使って絡んでくるので、仕方なく相手をしている。
 渡ってきた書類の半分をようやく目を通し終わって後は閻魔上司の印鑑を待つだけの時。何を想ったのか、閻魔は書類の谷間から覗いてきた。
「ねえ京くん」
「なんですか。仕事をする気にでもなりましたか」
あー仕事は十分にしているんだけどね。云われたくないことをはっきりと口にされた上司は暫しあさっての方向を向いて、視線だけ戻した。
「もう少し生きていたかったって思わなかった?」
上司の質問はあまりにも唐突過ぎて、俺は一瞬自分の身体の時が止まった気がした。
「いきなりですね」
 目を通していた書類を一旦置き、こちらを見つめる上司の顔を見る。
「もう死んでるんだから今更そんなことを蒸し返されても困ります」
「そうだね。でも、生きてやり残したかったことくらいある筈だよ?」
特に気にもしないことを次々と言ってくる大男に放って置いてくれと言いたいのにできないのはどこか現世に思い残したことがあったためだろうか。もしもいじめに立ち向かう勇気があった場合、俺は恐れずに行けただろうか。
考えてみたが、正直解らなかった。本当にそういうことがあったとしても、既に俺の肉体は焼却炉の中で黒焦げになっているわけだから、そんな体でアイツらの前に現れたらゾンビだの化け物だのと畏れられるだけ。
「あー。なんかやってみたくなるな……」
 冗談で済ませるつもりだが、実行してみたら泣き叫んで助けを呼んだり身近にある小石やら鉄パイプやらを使って攻撃してきそう。もしくは逃げるということもあるかも。それはそれで面白味がある。
 想像したらなんだかおかしくなって噴き出した。いつも仕事をしろという少年がいきなり笑うのを不思議に思ってか、閻魔は首を傾げる。
「どうしたの京くん?」
「いや、なんでもないです」
「えーなにー、気になるから教えてよー」
「気持ち悪いです! てか、頼むから黙って仕事してください!!」
 自分の作業机からこっちに移動しては肩を揺さぶってくるので無理やり引きはがす。愛情という名のスキンシップを拒否られた閻魔は哀しい顔をしていた。そんなこと言わなくてもいいのにーと背を向いて人差し指同士を突かせる動作をする。肩を落とす様子を見て言い過ぎたかなと思ってしまう。
「えっと……俺は大丈夫だから、心配しなくてもいいってことを言いたいんです」
 自ら命を絶った後に見知らぬ場所で働き始めた俺を案じてくれたのだろう。その気持ちだけでも嬉しかった。言葉に出すと恥ずかしいのでこの場では言えないが。
「でも、悩み事があったら相談してくれてもいいんだよ」
 曲がりなりにも君の上司だからさ。そう言って閻魔は立ち上がり、軽く俺の頭を叩く。振り払う気に慣れないその強さに、甘えてもいいのかなと思ってしまう。黙って叩かれる部下を可愛いなと思ったのかどうだか分からないが、彼は満足そうに笑うと手を頭から話して扉へ向かった。
「約束だからね。――じゃあ僕はこれから出かけるから後は宜しくー」
「はい……は?」
 素直に返事をしてしまったあとに何に対して返事をしたのかを理解する。出かけるから後は宜しく? つまりは部下に仕事を押し付けて自分は遊びに行くのではないか? まんまと口車に乗せられてしまった俺は「しまったー!」と頭を抱えて叫ぶしかなかった。


――――

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misy宅『転生なんて信じません』
 京くん、閻魔さま


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