■ 其が彼等の罪科

見渡せば、闇、闇、闇。
何もない、真っ暗な場所にいた。
どこか痛む箇所はないか。両手で体のあちこちを触ってみるも、特に怪我はなかった。
ここにいる理由はわかる。

自分は…死んだのだ。
あの崖から落ちた
大切な妹を守るために
大事な人を刺した罪で
敵討ちをするという少年に
突き落とされた

だから罪のために此処にいるのかと何となく考えていると、暗闇から足音が近づいてくるのが分かった
現れたのは自分と同じ年頃の少年。
あの崖から自分を突き落とした、少年だった。

少年はなぜ此処にいるのかと戸惑っているみたいだった。

「こんにちは」

とりあえず、挨拶をしてみた。
そしたら向こうはいきなり挨拶をされたものだから益々驚いていた。
挨拶ぐらいでこの様子は面白いと思わず「クスッ」と笑ってしまった。
あ、ムッと顔をしかめた。

「何で笑うんだよ」
「あ…怒ったなら謝るよ、ゴメン」

本来なら同じ歳の少年は罰の悪い顔で「謝るなら笑うな」と照れ臭そうに言った。

暗闇の中ということ以外、此処がどんな場所だか分からないから、他に誰かいないか歩いていたら近くまで来ていたらしい。
少年は体育座りをしながら出口が見つからないと話した。

「気がついたら此処に」
「部屋で寝ていた筈なんだ……。お前は分かるのか?」
「…此処は夢の狭間だと、思う」
「何だよ、その“夢の狭間”って」
「そのまんまだよ。夢と現実……彼の世と此の世の間」
「俺死んじゃったの!?」
「違う違う。君は眠っていた筈なのに此処にいたんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、大丈夫。まだ生きてるよ」

自身の安否が確認出来ずにいるが戸惑いながらも少年は頷く。

「お前は…………あの時」
「死んだよ」

そう、自分は死んだのだ
魂が宿る主体は既にない
命日となったあの日、自分は亡き者となった目の前の…少年によって

「良かったね、敵を打つことができてさ」

これで君のお兄さんも喜ぶだろう
そう言ったら、相手は信じられないという風な表情を見せた。
そりゃそうだろう。自分が殺した相手から思いもよらない事を言われたのだから。

「未練…無いの?」

恐る恐る少年は聞いてきた。
未練? そんなの…。

「あるに決まってるじゃないか」

妹の事。家族や友人。彼等を遺して先に逝ってしまったことに未練がないわけではない。
少なくとも、出来ることならもう一度、会いに行きたい。
会いに行くだけでいい。
言葉が交わせなくてもいい。

会いに行くだけで魂(こころ)が満たされれば、それでいい。

会いに行けないのは罪だから。
贖罪を抱えているから、自分は此の闇に閉じ込められている。
出られることはまず無いに等しい。
辛くないと言えば、嘘になる
けれど。

「仕方ないよね」

罪を犯したものに安寧の場所など設けられない。
分かっているからこそ、此処に居ることが悔しくて悔しくて。
少年も、何か罪があるから此処に来たのだろう。
だけど、彼はすぐに行ってしまう
彼にとっては夢だから。
生者と死者の違いが現れているから。

「戻りなよ」

そう言った。
まだ帰れる。此の闇から出られる。
光の中で生きていける。
生きながら償う事が出来る。
だから

「こんな処から早くでて、もとの世界に戻ったら」
「でも、お前は」
「僕は出られないから。君は違う、まだ生きてる」
「それだったら俺が…」
「駄目。償うチャンスがあるやつが何でわざわざ逆を選ぼうとするのさ。変えるんだよ」

生きているから道を見失う時があるだろう
生きているから新たに道を作り出せる

「さぁ、早く」

背中を押すようにいうと、少年は立ち上がって歩き出した。
姿が見えなくなるまで見送った
「……幸せに」
なるんだよ。
その罪を背負うからには、
ジブンよりもずっと最高の道を歩んでほしい











背中に罪科を刻んだ少年は、
闇からあるはずのない空を見上げた。

今日から歩み始めよう…
時は回る、回り始める。
ぜんまい仕掛けの時計のように……。



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