3(side C)
-side C

ひょんな事から冷蔵車に閉じ込められてしまったオレ達。

光彦の携帯で博士に助けを求めようとしたが、上手く繋がらず失敗。

それからみんなの持ち物を使って、安室さんへSOSを出した。けど、これは賭けだ。
すべては大尉にかかっている。

「ねこを行かせてからけっこうたつけど、助け来ねぇじゃんか!」

「あの暗号…むずかしすぎたのかなぁ?」

待てど暮らせど助けは来ない。

「…もしくは途中で首輪から暗号の紙が外れてしまったか…」

配達する荷物も減ってきて、隠れる場所がだんだんなくなってきてる。
時計型麻酔銃や、キック力増強シューズが使えればどうにでもなるが、こんな時に限って電池切れ寸前で更に、この寒さで電圧が下がって使い物にならない。

どうしたもんか……。

「だ、大丈夫だよ!きっと安室さんがきてくれるよ!」

茜さんはオレ達を元気付けようと笑ってくれるけど、体が小刻みに震えてる。

早くこっから脱出しねーと、いくら雪国育ちの茜さんでもやべーかもしんねーな。

何か他に手はないかと辺りを探ってみる。

「コ、コナンくん?あんまりいじるとバレちゃうよ!!」

歩美ちゃんに注意されるが、そうは言ってもこの状況を乗り越えねーと。

ん?これは……

「あったぜ!博士ん家に届くケーキ!!」

それからこれに、光彦が持ってたボールペンと、歩美ちゃんが持ってた綿棒で細工をする。
それを犯人たちは知らずに配達した。

「茜さん、もう少しで脱出できるから」

「頼りにしてるよ、名探偵くん」

オレの頭をわしゃわしゃと撫でるその手は、ひんやりとしていて心なしか、少し弱っているように思えた。



そして、なんやかんやでオレの策は功を奏して……。

『おい…なんでまた開けてんだ?』

どうやら赤井さんにちゃんと伝わったらしい。

犯人たちが戻ってきた。

『さっきの受け取り人に集荷を頼まれちまって…。
まぁ、小さな荷物だし構わないだろ?』

犯人が、集荷ボックスに赤井さんからの荷物を放り投げた。すかさずオレはそれを手に取り、梱包を破る。

「お、おい!?」

「コナンくん!?」

元太と歩美ちゃんが驚いて声を上げるが、そんなことは気にしてられない。

箱を開けると、思った通り…。

「け、携帯電話!?」

「なるほど?この状況なら一番頼りになる武器ってわけね…」

「ああ!
安全かつ確実に奴らを捕まえるには、直接オレの口から警察に状況を伝えたほうが…」

やっと希望の光が見えた。
けど、茜さんは心配そうにこっちを見てる。

「茜さん?」

「気をつけて」

どういう事だ?と思った瞬間、扉が再び開いた。

「そんなことさせるかよ」

犯人たちが戻ってきやがった!

ちっ、どうする?
シューズも時計型麻酔銃も使えない……。
何か手はないか。そう思考を張り巡らせていると


「……いい加減にしろよ。コラァ……」

徐に立ち上がった茜さん。
そしてふらふらとオレたちを庇うように前に出る。

その怒気を含んだ今までに聞いたことのない茜さんの声色に、少し恐怖を感じた。

「……人がジンさんの作ってくれるホットケーキを楽しみにしてるっていうのによォ、オイ、いい加減にしろよ!!
テメーらのこんなしょっぼいトリックなんざ、マリコさんたちにかかれば一発でバレるんだよ!やるんだったら、どこぞの地獄の傀儡師名乗るマジシャンにでも頼んだらどう?ばぁーか!」

茜さんがついにキレた。
キレたけど、言ってる事の半分も理解出来ねー。

「マリコさんたちって?」

「さぁ?」

歩美ちゃんたちも首を傾げている。

なんて呑気にしてる場合ではなかった。

茜さん、犯人を挑発しちゃダメだ!

「この女、言わせておけば…調子に乗るんじゃねぇよ!」

「うっさいばぁーか!やれるもんならやってみろ!」

もはや売り言葉に買い言葉。

そんなに犯人を刺激したら茜さん殴られる…!と思った瞬間に、クラクションの音が聞こえた。

「…出たな白い悪魔」

殴られそうになった茜さんは、けろっとしてそう言ってた。

白い悪魔って……。

それより、やっと安室さんがきてくれたんだ。

安室さんは早業で犯人たちをノックダウンさせた。
つえーな。さすが組織にいるだけはある。

「やだ、かっこいい……さすが推し」

小声で言ってるけど、オレにはバッチリ聞こえた。

「浮気はだめだよ」

「浮気じゃない!」

「じゃあコナン君!このことを警察に……おや、あなたは?」

茜さんと話をしていたら、犯人たちをガムテープで縛り上げた安室さんが声をかけてきた。

すると突然、茜さんが安室さんの前に躍り出る。

「デュフ……生安室さんだっ!……んん。
加賀美 茜、28歳 独身。
あなたを一目見た時から、心火を燃やしてフォーリンラブでした!
あ、握手してください」

「え?あぁ」

茜さん……。
あんたって人は……ハハハ。

安室さんに手を差し出すのを呆れて見る。

握手をしてもらった茜さんは、それはもう表情が緩みきっていた。

さっきまでの頼もしい姿はどこへやら。


「ねー、探偵さんも博士ん家でケーキ食べる?」

突然、歩美ちゃんが安室さんに声をかけた時、オレは慌てて止めようとしたが……

「今日は遠慮しておくよ……。
用もあるし……」

それは杞憂だったようだ。
安室さんは車に乗り込むと、そのままどこかへ行ってしまった。

「……あ、あらぁ〜……」

何か茜さんの、こう言っちゃなんだが、間抜けな声が聞こえたと思ったら、へなへなと座り込んでしまっていた。

「茜さん!」

「あ、あはは……緊張の糸が切れたみたい」

茜さんは、おどけてるけど、本当は怖かったのかもしれねーな。

「待ってて。今ジンを……」

ジンを呼びに行こうとすると、腕を掴まれそれを阻止された。
茜さんは首を、横に振る。

「ジンさんはダメ。哀ちゃんいるし……。沖矢さんを呼んで?」


こんな時でも、気を遣う茜さん。まぁ確かに、事情を知らない灰原は驚くだろう。

オレは頷いて家の玄関へ向かった。


「昴さん!茜さんが!」

「どうしたボウヤ」

「ちょっと手を貸してほしいんだ」

「おい、何があった」

昴さんに事情を説明しようとしたら、ジンまでやってきた。茜さんドンマイ……。

二人に今までの経緯を、かいつまんで話した。もちろん、茜さんが犯人たちに啖呵を切ったことも。

「……あの馬鹿」

盛大にため息をつくジン。
でも、その姿は茜さんを心配してるようにも見えた。

「とりあえず、昴さんは茜さんを迎えにいってあげて。…ジンは、その、怒らないであげて……」

「あぁ。分かった」

「……フン」

それからオレも、茜さんたちの元へ戻った。


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