一触即発の空気をわたしのお腹の虫がぶち壊してくれたおかげで、テキパキとカレーを作り、なんとか夕飯にありつけました。
赤井さんのカレーはとても美味しかったです。
ジンさんも無言だったけど、一応食べてたから良しとしよう。
夕食後、赤井さんの一言によりまたもや問題発生。
「風呂の準備ができた。
良かったら先に行ってきたらどうだ?」
「え?いいんすか?わたしが先で。
あれ、でもちょっと待って。わたしが先に入ると、後がジンさんと赤井さんでしょ?
え?何か恥ずかしいんだけど…」
わたしの後に二人が入るとか、なんか、嫌だ。
え?でも待って、逆だと二人の後にわたしが入るってことでそれはそれで
「…萌えるぜ…」
「馬鹿が。
さっさと行ってこい」
ジンさんに着替えを投げられた。
「ぶへっ……ちょっと投げないでよ!
てか、これは……
ま、まさか……噂の彼シャツというやつでは……え?ジンさんのやつ?」
ジンさんを見ると、何かすごいドヤ顔してるんですけど……。いつの間にというかどうやって用意した?しかもわたしの下着までも……。
まぁ細かいことは気にしたら負けだと思う。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて先に行ってきます…」
そうして、わたしはお風呂へ向かった。
パタパタとスリッパを鳴らしてリビングを出たんだけど、ふと思ったことが……
わたしは、再びリビングのドアを開けた。
「お願いだから流血事件は起こさないでね」
一言、釘をさしてバタンとドアを閉めて、お風呂場へ向かった。
わたしがいなくなった後のリビングは、想像したくないなぁ。
--side A
彼女がいなくなった後のリビングは、しんと静まりかえった。
ただひたすらに凍てついた沈黙が流れる。
それだけ彼女がジンの雰囲気を和らげていたのか。
異なる世界からやって来たという彼女はこの世界のことを知っていると言っていた。
そしてジンの恋人だという。
一体どうなっている。
まさかあの冷酷非情と言われるジンが誰かを愛するとは……。
だが、現に彼女といる時のジンは信じられないほど優しい目をしていた。
何より驚いたのは、ジンが組織に関わらないと言い出した事だ。さらには、彼女の日常を脅かすものは容赦しないとも…。
ジンにとって彼女はそれほどまでの存在ということなのか………。
そんなことを考えていると、彼女が風呂から戻ってきた。
「出たよー!
見て見て!ジンさんの彼シャツ。なんか、こう、好きな人の服着るとか萌えるね…ぐふふ。ほらほら、萌え袖!
あ、赤井さんお風呂ありがとうございます!」
ジンの服を着て、彼女はご満悦の様子。見るからに顔が緩んでいる。
「テメェは馬鹿か。
髪も乾かさねぇで」
彼女の髪は濡れたままだった。
「えー。ドライヤーの場所分かんないし、面倒。
大丈夫だって、1日ぐらい自然乾燥でも」
彼女はタオルでガシガシと乱暴に髪を拭いている。
あぁ、ドライヤーの場所を教えておけば良かった。
それを見てジンが軽く舌打ちをするのが聞こえた。
その気持ちは分かる。
「おい、ドライヤーは何処にある」
「……持ってくる」
教えるよりも自分で行った方が早いと思いドライヤーを洗面所から持ってきて、ジンに渡した。
「ここに座れ」
「え?あ、はい」
ジンは彼女を自分の前に座らせた。
そして、ドライヤーのスイッチを入れて彼女の髪を乾かし始めた。
あのジンが。
俺は夢でも見てるのか?
「ジンさん、ありがとう。もう大好きだぞ!」
「…チッ…世話が焼ける奴だ」
と悪態をつくジンだが、その表情には優しさが滲んでいる。
獰猛な狼を手懐けてしまう彼女はある意味恐ろしいな。
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bkm