黒崎一護。
荒削りだけど、いい太刀筋をしてる。
姫衣「ねぇ一護くん、あなた鬼道は使えるの?」
一護「あぁ!?使えねぇよそんなもん!!」
姫衣「なぁんだ、使えないのね」
残念そうに言いながら攻撃を避ける姫衣。
一護は汗だくになっている。
振っても振っても、刃はかすりもしない。
一護「はぁ…はぁ…何なんだよさっきから!!俺を殺すんじゃねぇのかよ!!」
姫衣「だぁって、いつでも殺せるもの」
その言葉に嘘はないのだろう。姫衣は完璧に一護の攻撃を見切って避けている。
懐に入ったと思えば避けられ、斬られたと思ったら離れていく。
先ほどから一護は、肌を傷つけないそよ風と闘っているような錯覚に陥っていた。
姫衣「おっと、逃げようったってそうはいかないよ」
一護「ちっ…」
足止めが目的だとしたら、これほど優秀な者はいないだろう。
しかし、もう20分以上は経過しているというのに誰もここへ来る気配はなかった。
姫衣「うん、大体わかった」
一護「はぁ…はぁ……あぁ!?」
姫衣「まだまだ発展途上って感じね。仲間の中に、先導してくれる人が誰かいるの?」
一護「先導…?なんでんなこと聞くんだよ」
姫衣「いいから答えなさいよ。そしたらまともに戦ってあげるわ」
一護「戦わなくていいから見逃してもらえねぇかな…」
一護は肩で息をしながら、汗をぬぐった。
一護「ここには来てねぇよ。ただ…」
姫衣「ただ?」
一護は、あの飄々とした顔を思い浮かべた。
戦いを教えてくれた、あの男の顔を。
一護「戦いを教えてくれたのは、 浦 原 喜 助 って人だ」
姫衣「浦原…喜助……?」
姫衣にとって、初めて聞いた名だった。
なのに、懐かしい感じがするのはなぜだろう。
名前を口にした瞬間、押し寄せてくる波のように圧迫感が胸に迫ってきた。
耳の奥で耳鳴りがする。遠い記憶が………
“…………サン”
一護「隙あり!!」
一護の声で我にかえり、思わず斬魄刀で攻撃を防いだ。
一護「はっ…ようやく感触が掴めたぜ」
姫衣「あ……はは…そうだった、ね」
今は戦闘中だった。集中しなきゃ。
汗なんてさっきまでかいてなかったのに…。
今は、額にびっしりと冷たい雫が浮いている。
姫衣「約束、守らないと、ね?」
苦し紛れに笑った顔は、獲物を見つけた獣の瞳をしていた。
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