◎ I WILL ALWAYS LOVE YOU(ゼロス)
どうして。
今にも消え入りそうな声でケイは言った。俺の背中に生えたオレンジの羽根は綺麗なはずなのに、なぜかとても汚れているように見える。
「どうしても何も、つまりこういうこと。見ればわかるだろ?ケイ」
「…わかんない…わかんないよゼロス…」
ただでさえ白いその顔をさらに真っ白にして、ケイは震えている。今にも泣き出してしまいそうなその顔を見ていると、胸が破裂してしまいそうなくらい痛い。それでも俺は、ここでコイツらの行く手を阻むのだ。
「ケイちゃんはもっと物分りのいい子だろ〜?分かってくれよ」
「わ…かんない…わかんないよゼロス!全然わかんない!」
「…わかんなくても、これは現実だってこった」
「嘘だ!嘘だ!嘘でしょ!?嘘だよね!?」
ほら、いよいよ泣き出してしまった。大きな瞳から大粒の涙がぼろぼろと溢れる。
―――まったく、可愛い顔が台無しだぜ、ケイ。
今日の俺の世界は、どうやら大雨らしい。これからきっと台風がきて、そして全部壊して粉々になるんだ。
「…こんな嘘つけるかってー…の!」
俺はケイに向かって、俺を支え続けてくれた太陽に向かって、最愛の人に向かって、魔法を唱えた。すかさずロイドが反応して、その場に呆然と立っていたケイを抱きかかえるようにして助ける。
ロイドの腕に抱かれるケイの瞳から、光が、そして笑顔が、消えた。
俺の太陽が、消えた。そう、俺が、消した。
「っ…ゼロスお前…!恋人なんだろ!!なんでこんなこと…!」
ロイドが怒りを露にする。そういう感情の起伏がハッキリしてるとこ、嫌いじゃなかったなーとふと思う。
「ここは生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ、そんなもん関係ないだろーが」
「そんなもん…?そんなもんだって…!?ふざけるな!ケイまで裏切る気かよ!!」
「お前らを裏切った時点でケイのことも裏切ってるんだよ」
「ゼロス…!許さねぇ!!」
そうだ、それでいいんだ、かかってこいよ。
ロイドのそれが合図だった。全てを終わらせる刃のぶつかり合う音が響いて、俺たちは傷つけあった。あいつらは妙に俺に攻撃を仕掛けるのを嫌がっていて、俺はそんなのお構いなしにあいつらに向かって攻撃をする。もちろん、死なせてしまわないように。
ある程度全員が動けなくなったところで、ジャッジメントを唱えれば、全員地面にうずくまったまま動けなくなっていた。
―――ケイ以外は。
泣き顔で俺を見つめながら、ケイは震えていた。まるで子どものように、怯えた小さな動物のように。
「…あとはお前だけだぜ、ケイ」
「なんで…こんなこと…」
「…なんで、だろうな」
ケイを守れるような立派な人間にもなれないどころか、俺はケイに刃を向けたのだ。もう戻れるわけがない、戻れるはずがない。俺が、俺の愛した世界を、壊したんだ。こうすることしか、俺には出来なかった。
「…さよならだ、ケイ」
「…やだ…やだよゼロス……やだ!」
「嫌なら自分でどうにかするんだな」
俺にはもう、お前を守れる資格も、価値も、ないんだ。
俺はもう一度ジャッジメントの呪文を唱えはじめた。知ってるんだ、ケイは自分のために誰かを傷つけるような人間じゃないこと。だけど、誰かを守るために誰かを傷つけるところがあるのも、知ってる。
だから俺はジャッジメントを唱えた。床に伏せってるこいつらに、当たるように見せかけるために。
「っ!やめてゼロス!ジャッジメントは…これ以上みんなを傷つけないで!」
「――――――…………」
「やめて…お願い…やめて……!」
ケイの右手に魔力がこもっていくのを感じて、俺は思わず微笑んでしまった。
「………これで、最期だ」
「やめて…やめてってば……!」
俺が右手を振り上げた瞬間、ケイの絶叫が響いた。
「もうやめて!!!!」
それからは、まるで夢の中に漂っているかのように、全てがスローモーションだった。このまま遠くに行ってしまいそうになったとき、俺を呼ぶ声が聞こえてゆるやかに瞼が開いた。
「ゼロス…ゼロス…!」
「…ケイ…」
俺の体を支えながら泣く、ケイの顔が見えた。
「なんで…ねぇなんで…」
震えている、泣いている。そうだ、俺が泣かしたんじゃないか。
ぼんやりと周りを見渡せば、すっかり傷も治って苦い顔をしたアイツらが俺を取り囲んで立っていた。
「なんで…ジャッジメント……唱えなかったの……」
儚い声でケイが言った。ならもしもジャッジメントを唱えていたらどうなっていたんだろう。
「……ケイ、お前、無茶苦茶、言うのな…」
「…う……ふぇ…」
「…泣くなよ」
これ以上泣いてる顔を見たら、俺は最期の最期まで後悔が募ってしまう。
「ゼロス…」
ロイドが今にも泣き出しそうな顔で立っていた。お前までそんな顔するのか、揃いも揃って泣き虫ばっかりだ。
「お前…最後に唱えた、魔術……」
「…間違えた、だけ、だ」
全員衣服は廃れているものの、特に外傷は見当たらない。さすが俺さま、心の中で自分を褒め称える。
これで最期、俺の世界はもうすぐ終わる。
「…ケイ」
かすれた声で、世界で一番愛した女の名前を呼ぶ。光が消える前に、どうか、俺の愛したその笑顔を、太陽を、見せて。
「…さよならだ」
「やだ…やだゼロス…さよならなんて言わないで……ずっとそばにいて…」
「ケイ、お前は…生きて、幸せになれ」
「っ、ゼロスも!ゼロスも生きるの!一緒に幸せになるの!」
こんな状況でプロポーズとは、ケイもやってくれる。思わず笑ってしまったが、声は声にならなかった。
「そして、ずっと、これからも、ずっ、と」
―――― 笑 っ て
世界の果て、最期に聞いたのは、ケイの悲痛な叫び声。最期に見たのは、太陽じゃなくて、雨を降らす、俺の嫌いな泣き顔だった。
I WILL ALWAYS LOVE YOU(オールウェイズ・ラヴ・ユー)2011.02.18 修正
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