お題集 | ナノ
 ONE MOMENT IN TIME(レノ・ルード)

「はあぁぁぁぁぁ…」
「…深いな」

溜め息をついていた私の横で、レノ先輩が苦笑いしていた。

「…そんなに深かったですか?今の」
「あぁ、かなりな」

そう言いながらレノ先輩の隣で、少し落ちてきていたサングラスを、人差し指と中指で上品に元に戻すルード先輩。こんなに優しくて品のある人間が、どうしてこんなにも人相が悪くてスキンヘッドなのか。出会ったときからの疑問で、そして私の中でどうも腑に落ちない部分だったりもする。

「溜め息ついたら幸せが逃げるらしいぞ、と」
「…レノ先輩、なんかそういうセリフ似合わないですね」
「うるさい」

レノ先輩の励ましのつもりなんだろうけれど、それでもやっぱり似合わないのだから仕方がない。少し照れたようにふて腐れる先輩がなんだか可愛くて、私はつい笑ってしまった。

「…何笑ってる」
「いやぁ、レノ先輩が照れてるとこ、かーわいいなあって思って」
「ケイの方が可愛いぞ、と」
「はいはいお世辞をどうもありがとうございます」

さらりと先輩の言葉を受け流すと、私は大きく伸びをして、また無意識に溜め息をついていた。

「また溜め息ついてるぞ、と」
「いやーははは」
「…何か悩み事か?」

サングラスの奥で、心配そうにルード先輩の瞳が細められた。こんなに優しいのに、やっぱり人相も柄も悪いなんて勿体ないなあ、なんてぼんやり思いながら、私はデスクの上にあった淹れたてのコーヒーをすすった。まあ人相か悪いところはともかく、こういう優しいルード先輩が私は大好き。

「んーまあ大したことじゃないんですけど、最近よく考え事とかしちゃって」
「お前が考え事に耽るのはいつものことだろうが」
「レノ先輩だっていっつも考え事してるでしょ、いやらしーことばっかり」
「それはオトコのサガってやつだぞ、と」
「ふふふ」

そんなの男なら当たり前だ、と胸を張って言い切ってしまうレノ先輩。こういうオープンなところが私は大好きだ。

「…で、悩みってなんだ?」

だけどこういう話をしてるとき、絶対に話が横へ流れていかないし、流れていかせないようにするところは大嫌いだ。だって目が少し怖いから。

「…大したことじゃないんですよ、ほんと、先輩たちにはくだらないようなことだと思います」
「そうか、聞かせろ」
「…強引だなあレノ先輩」

もう一度コーヒーをすすって、少し間をおいてから私はゆっくりと言葉を唇に沿わせた。きっと上手く伝えられないから、なるべく伝わるように、考えて、考えて、ゆっくりと。

「なんていうか、私、歴史に残るのかなあって。意味ってあるのかなあって思って」

案の定、二人には意味が分からないという顔をされた。なるべく言葉を選んだつもりだったけれど結局上手く伝えられない。どうやら私はコミュニケートの能力があまり高くないらしい。それでもなんとか言葉を選んで、なるべく、少しでも伝わるような言葉を探す。

「最近思うんです、自由になりたいなあって。そして、歴史の中のほんの一瞬でいいから輝きたくて、その一瞬が永遠であればいいのになって」

二人の顔を見ると、やっぱり意味の分からないという顔のままだった。それがなんだかおかしくて、伝わりませんよねーと私が笑うと、すかさずレノ先輩が「まったく」と言い切った。自分で聞かせろと言ったくせに、もうすっかり興味を無くしたような表情をしている。まったくどうして、なんて自己中心的な人なんだろうこの人は。

「まあでも、あれだろ」

私がコーヒーでも飲もうかとふと手を伸ばしたとき、レノ先輩が言った。

「今っていうもんをこの先もずっと、一生大事に出来たら、最高だと思えたら、それって最高の一瞬で最高の永遠じゃね?」

手を伸ばしたまま、私は固まってしまった。するとそこへレノ先輩と意見が一致したのか、ルード先輩も便乗してきた。

「歴史の中の一瞬が永遠なんてごく自然なことだろう、歴史は俺たちが生きてきたその時間よりもずっと長い。だったら自分たちの生きた時間は結局永遠で、そして歴史の中では紛れもなく一瞬だ」
「そーそー。その中で輝くというか、勝ち組になりたいんなら、結局今を生きて人生楽しむことしかないと思うぞ、と。そんなことどこのどいつも変わらないと思うが、特に俺たちみたいな明日死んでもおかしくないような生き方してるなら尚更分かりやすいだろ。どうせ死ぬのも今なんだ、今を見て今を生きて楽しまないとやってられない、それだけだぞ、と。なあルード?」
「俺もそういうことだと思う。ケイが思っている自由がどういうものかは分からないが…自由には当然責任も伴ってくるわけだから、結果的には俺たちは縛られてる。自由にも時間にも仕事にもプライベートにも、あらゆる全てのものに、だ。その中で歴史に自分を刻んでいたいのなら、過去よりも未来よりも、何よりも優先すべきは今だろう」

お、ルードいいこと言ったぞ、と!と嬉しそうにレノ先輩がはしゃいで、ルード先輩がサングラスの奥で少し照れる。頬も少し赤い。

私は腕を伸ばしたまま固まってしまっていたので、そのままとりあえずコーヒーの入ったマグカップを手に取り、黒く甘い液体を口に運んで飲み下す。お気に入りのマグカップに入れたコーヒーも、ぬるくなるとあまりおいしくない。

「…と、まあ俺たちはそう思ったわけだぞ、と」
「…ふふふふ」
「なんだ、人が真剣に答えてやったってのに」
「誰も答えをくださいなんて頼んでませーん」
「…ムカツク後輩だぞ、と」
「だけど、少し…少しだけなんだけど、なんとなく分かった気がします」

きっとこの悩みに答えはなくて、人それぞれで、だから全ての人間が分かり合えるわけではないんだろう。だけど少なくとも、私は二人の意見に賛同している。

「大事なのは今だって、それがきっと私の中の答えに繋がってるんだなって、そう思いました」

今私は、笑っている。

「そうだ、大事なのは今。座右の銘にしてもいいぞ、と」
「それは遠慮しときます」
「冷たい後輩だな、と…」
「あ、ねぇ知ってます?明日タークスに女の子が配属されるらしいですよ。金髪の可愛い子でした」
「え、マジで?」
「うん、マジです」
「……なぜそんなことを知ってるんだ」
「ツォンさんが教えてくれたんですよ。あの人私に甘いから、ちょっと可愛い子ぶったらなんでも教えてくれるんです」
「…」
「あー!ルード先輩呆れてる!」

レノ先輩の笑い声が響く中、私は冷たくなったコーヒーを飲み干した。

溜め息はとうに消えていた。

ONE MOMENT IN TIME
(ワン・モーメント・イン・タイム)

2011.08.07

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