◎ GREATEST LOVE OF ALL(クラウド)
「ひとりぼっちだったの」
「……いきなりどうした?」
「ひとりぼっちだったんだ、ずっと」
いつものことだが、ケイはいつも突然不思議なことを言い出す。
「ひとりぼっちでね、だから怖くって、誰かに憧れることで、その人を目指すことで寂しさを紛らわせてた」
「…セフィロス、か?」
「…救ってくれた、だから私もあの人みたいに強くなって、いろんな人を救いたいと思った、だからソルジャーになろうと思った」
メテオが支配する空の下、ハイウィンドの甲板で、ケイは小さな声で、だけどしっかりと通るその声で、今まで語ろうともしなかった自身のことを話し出した。誰かに聞いてほしいのか、それともただ吐き出したいだけなのか、俺にはわからなかったけれど、だけど今ここから立ち去ることはどうしてだか出来なかったんだ。
「だけどね、なれなかったよ。……結局向いてなかったんだ、私には。人を救う、だなんてさ」
ケイは自分を鼻で笑った。甲板には今、俺とケイの二人だけだ。
「だからね、そのときに思った…ううん、多分、開き直っただけなんだけど、私は寂しくてもひとりぼっちでもいいから、自分だけ信じて好き勝手に生きていこうって決めたの」
「…まあ、確かにケイは自由気ままだな」
「…それってほめてる?けなしてる?」
肩をすくめる俺を見てケイは笑うと、俺のところへ近寄ってきた。悪戯な笑顔が彼女の顔にうまく張り付いている。
「それでね、いつか子どもを生んだらその子達に未来を勝手に託しちゃうのが私の夢なの」
「えらく身勝手な夢だな」
「だけどそのためにはこのメテオをなんとかしなきゃいけない」
「まあな」
「そしてそのためにはあの人を倒さなきゃいけない」
「…」
「だからそのためには後ろを向いちゃいけない」
上手く張り付いた笑顔は少しずつ剥がれて、そして剥がれた先に見えたのは本当のケイの顔だった。
―――あぁ、そうか。
俺はこのとき、初めてケイの本音に気付いた。本当は不安なんだろう、本当は怖いんだろう、だけどいつも笑顔で隠れてしまって、本当のケイを見ることもなかったし、見ようともしなかったんだ。こんな顔をするケイを見たのは、多分これが初めてだ。
「……ほんとはね、嫌だよ。だって、私が目指した人だもん」
「ケイ…」
「ジェノバだろうがセトラだろうが裏切り者だろうがなんだろうが、私にとっては命の恩人で、私の師匠で、そして大好きだったひと…」
ケイは俯くと、俺の手を震える手で弱々しく握った。今までこの小さな手で、どれだけひとりぼっちという名の孤独と戦ってきたんだろう。
…セフィロスを追うたび、どれだけその痛みが彼女の心を苦しめたのだろう。
「…ねぇクラウド、私、本当は強くなんてないんだよ。強いふりしてるだけなんだよ…」
「―――っ」
俺はその瞬間、何かが詰まって、ケイを、ただただ抱きしめた。
「……!?く、クラウド!?」
「それでも、行くんだろ?」
「………うん、行かなきゃ、子どもに未来、託せないもの」
「だったらケイは強い、大丈夫だ」
「だ、けど」
「信じてるんだろ?自分を」
腕の中で少しだけ強張っていたケイの身体から少しずつ力が抜けて、少ししてからそっと俺の胸に頭を摺り寄せてきた。柔らかな匂いが鼻を掠めて、風に乗ってそっと消えた。つられてケイが消えないように、少しだけ腕に力をこめる。
「…うん。そう、だね…そうだよね…」
ケイの小さな手が、俺の背中に回った。
「…こんな話しちゃったの、クラウドが初めて」
「それは謝った方がいいのか?」
「ふふふっ、まさか!」
ケイは俺の腕の中からするりとすり抜けると、ドアに向かって駆け出した。そして相変わらずの悪戯な笑顔で振り返ると、振り向きざまにこう言った。
「ありがとクラウド!大好きよ!」
「な…!」
「子ども生むならクラウドとの子がいいかも!じゃあ頑張って世界救っちゃおうね!」
立ち去った彼女の跡に、優しさが残っていて、俺は思わずメテオを見上げて笑った。
GREATEST LOVE OF ALL(グレイテスト・ラブ・オブ・オール)2011.08.02
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