◎ SAVING ALL MY LOVE FOR YOU(ゼロス)
真っ赤な髪の毛に、澄みきった綺麗な青い瞳。
私が心から愛する人は、世界から望まれた神子様。
「ハロ〜ケイちゃん」
私たちがこっそり会うのはいつも真夜中。ゼロスさまは相変わらずの調子で、私を背後からそっと抱きしめると、甘ったるい声で名前を呼んだ。
「…もうハローっていう時間じゃないよ、ゼロスさま」
「いやあ、久々だしー?」
「…久々に会うからハローなの?それってちょっと違うような…」
「細かいことばっかり気にする人間になっちゃダメなんだぜーケイちゃん」
「ゼロスさまは気にしなさすぎだけどね」
呆れたように私が溜め息を付くと、ゼロスさまはクスクスと上品に、だけどあまり可笑しくなさそうに笑った。そしてそのまま私を押し倒して、唇に優しく荒々しいキスをした。
ゼロスさまは月に何度か、ふらりと私の家を訪れる。その日は決まって一晩中愛し合うの。求められたら求められた分、私は全てを全力で彼に捧げる。
相手は偉大な神子様、私はメルトキオで生活する一般庶民。人目を忍んで夜な夜な会うのが精一杯だけど、これは愛してしまった私が耐えなきゃいけないこと。いつだって求められてるのは身体だけだって知ってるけれど、それを拒めるわけもない。
親友には「あんなヤツやめときな」って言われるし、心の底ではそれくらい分かってる。だけどゼロスさまと会わない間に他の誰かと繋がったって、虚しさで満たされて、どうしようもなく泣けてしまうだけ。だったら初めから何もない方がいい、ひとりで寂しさに埋もれてる方がずっとマシ。
「ねぇ、ゼロスさま」
「ん?」
「…いつ、本当に迎えに来てくれるの?」
「…さあ?」
愛し合って繋ぎ合って求め合って、気付けば真夜中が過ぎていた。もうすぐ夜が明けてしまう、あぁもうすぐ彼が帰ってしまう。
ふらふらしてて遊び人なのも知ってるし、約束はいつだって口だけなのも知ってる。それでもいいからそばにいたいし、私のこと、少しでもいいから見てて欲しい。
「…じゃあ、次はいつ会える?」
「んー、また近いうちかなー」
「…そっか」
「なに〜ケイちゃんってば寂しい〜?」
ゼロスさまは笑いながら私の額に唇を落とした。いつも別れ際のキスは唇以外のところ、つまり彼が私を愛してるのは私と繋がりあっているそのときだけ。それでもいいよ、それでもいいの。
「じゃあな、ケイちゃん」
「…またね」
彼がベッドから抜け出して、慣れたように着替えると、最後に振り向きもせずに赤い髪を靡かせながらまだ薄暗い街に彼は消えていった。私はいつも布団にもぐりこんだまま彼の背中を見つめるの、それしか出来ないんだもの。
彼の澄んだ瞳の奥の闇に気付いてるからこそ、私は次を待つことしか出来ないんだ。
それでもいいよ、全てをあなたに捧げたい。
SAVING ALL MY LOVE FOR YOU(すべてをあなたに)2011.07.09
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