お題集 | ナノ
 EXHALE(Shoop Shoop)(しいな)

私は今日、失恋というものを経験した。

「……グスン」
「いい加減に泣き止みなよ」
「だっでぇ〜」
「だからアイツはやめときなって言ったんだ」
「ううう…グスン」
「ケイ、アンタはイイ子なんだから、もっといい男狙えるよ」
「でも…わだじ……」
「…とりあえず情けないから泣き止みな」

私はしいなと二人、夜な夜なこっそり、みんなに黙ってメルトキオを抜け出し、びゅびゅーんと飛んでアルタミラの浜辺に来ている。温かくて甘い缶コーヒーを飲みながら、初めての恋と初めての失恋を教えてくれた人のことを思い出しては涙に暮れる。呆れたようにしいなが溜め息をついた。

「…あれだけゼロスはやめとけって言ったのに、それでもゼロスがいいって言ったのはアンタだよケイ。自業自得だ」
「…分かってます…」
「女癖の悪さは最初に散々教えてただろ?これに懲りたら、もう見た目だけで男を判断するのはやめるんだね」
「ハイ…」

そう、一目惚れだった。初めてみたときから、私はすっかり恋してた。

そのときからずっと、しいなにはやめとけって言われてたけど、初恋だったし、感情なんてどうにもならなくて、結局私はゼロスに遊ばれただけで、終わってしまった。

「いい男を見る目をしっかり養うんだよ、この先アンタが変な男に捕まらないかアタシは心配で仕方ないんだから」
「ううう……しいな〜〜〜〜〜!!!」
「わ!なんだよもう!」
「しいながいてくれて、よかった〜〜〜〜!!!」
「ったく…」

泣きながらしいなに抱きつくと、しいなは溜め息をつきながらも私の頭をポンポンと優しくなでた。しばらく泣いて、わんわん泣いて、そして泣き止むとぐったりと疲れと気だるさが残った。泣くってこんなにしんどかったっけ。

「泣き止んだかい?」
「うん……でもなんか、しんどい」
「悪いものを吐き出して泣いたんだ、変に体力使ったんだろうね」
「なんかもう…ぐったり……」
「…よし!じゃあケイ、立ちな」
「へ?」
「いいから!」

しいなは私を立たせると、腕を引っ張りながら強引に海に向かって駆け出した。

「え?え?え?ちょ、しいな!?」
「せーのっ!!」
「ひゃあぁぁぁぁぁ!!?」

私の腕を乱暴に振り払って、乱暴に私の背中を押し出した。抵抗すら出来ないまま、私は夜のアルタミラの海へダイブ!

海に物体が落ちた音が響いて、そしてしいなが豪快に笑う。

「ちょ、何するのよしいなっ!」
「あははははは!」
「笑ってる場合じゃないでしょー!もうびしょびしょ〜…」
「あははは…はーおもしろ」
「面白がってる場合じゃないの!着替えとかないのにー!」
「だって泣き疲れたんだろ?じゃ、あとは全力で楽しいことして笑い疲れちまえばいいのサ」
「え?」
「そっちの方が、いい疲れが残るからね。泣いた後の疲れより、笑った後の疲れの方が気持ちいいもんだよ」
「しいな…」

しいなが軽くウインクしてみせる。いつも急にこんなことするから、いきなりすぎてびっくりするけど、こうやって私のことしいななりに元気づけようとしてくれるとこ、私は大好き。

「…うん、そうだよね、笑ってるほうがいいよね!」
「そうそう。ケイは笑ってるほうがずっといいよ」
「じゃあしいな」
「ん?」
「仕返し!」
「へ……わぁぁぁ!?」

再び海に物体が落ちた音が響いて、そして今度は私が豪快に笑った。

「あははははは!!しいな、びっしょびしょ〜!!」
「っ、よーくもやってくれたね…えい!」
「わあ!水かけないでよ!濡れる!」
「もう濡れてるんだから一緒だろ!」
「このー!」

そして私たちは、月の綺麗な夜の海辺で、夜が明けるまで、笑いあった。

缶コーヒーはすっかり冷めてしまってたけど、私の心は、前よりずっとあったかい。

EXHALE(Shoop Shoop)
(ため息つかせて)

2011.07.09 修正

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