お題集 | ナノ
 IF YOU SAY MY EYES ARE BEAUTIFUL(ゼロス)

「ケイの目って、いつもキラキラしてるよねぇ」

コレットが楽しそうに私に言った。

「えー、そうかなあ?」
「そうだよー。幸せな色してて、すっごくきれい!」
「自分では全然わかんないなあ…そういうの。……あ!」
「どうしたの?」

自分の目がきれいだとかキラキラしてるだなんんて、柄にもなく言われる理由、思いつくことがひとつだけある。

「…んーん、なんでもない!」
「えー、嘘だあ」
「ほんとに何でもないってば!」

でもこんな理由、恥ずかしすぎて言えやしない。それがいくら仲良しなコレットでも、絶対に言えない。

「本当に?」
「ほんとう!」
「んー」

疑わしそうにコレットは目を細めて私をじいっと見つめる。その視線を受けながら、私は曖昧に笑う。

「おーい!コレットー!」
「あ、ロイド!」

私たちの少し前から、ロイドが元気よく駆けてきた。コレットが嬉しそうに笑う。

「ほらコレット、お迎えだよ」
「うん!じゃあ行ってくるね!」

そして走ってロイドのもとへ行ってしまった。今日はロイドとふたりで近くの海に行くらしい。私は仲良く走り去っていくふたりの背中を見送った。

「…いいなあ」

私もあの人と、あんなふうに一緒にいられたらいいのにな、なんて。叶わない望みを飲み込んでみる。

…だけどどうせ叶わないのなら、少し声に出してみたっていいんじゃないんだろうか。

私だって、幸せな夢をみたい。そんな望みを叶えてみたい。小さな声で、私の今1番の望みを口に出してみる。誰にも聞こえないように。

「…私もゼロスとデートしたい…なー、なんてね」

そして叶わない望みが、また胸をチクリと痛める。ひとり寂しく散歩でも行こう、私はそう思って少し溜め息をつきながら振り返った。


―――振り返った瞬間、呼吸の仕方を一瞬忘れた。


「………ゼ、ロス」
「やっほ〜ケイちゃん」
「………え?えっと……何やってるの?」
「いやー、コレットちゃんがいなくなるのを見計らってた」
「…は?」

見計らってたって…え?え?
も、もしかして…

「ずっと…近くにいた、の?」
「そういうこと〜」

あぁ、神様、今私が口を滑らせてしまった願いを、どうか揉み消してしまってください…!

「そ、そっか!そうか!うん、何か用!?」
「行くぞケイ」
「は、はい!?」

いつもならケイちゃんって呼ぶのに、ゼロスは私の名前を呼び捨てにした。それだけで私の心拍数はえらいことになっている。

そんな私のココロの事情を知ってか知らずか、ゼロスは私の手を強引に握ると、鼻歌を歌いながら歩き出した。なされるがまま、私はゼロスに着いていく。握られた手が熱い。

「ちょ、ゼロス!?なに!?どこ行くの!?」
「さあ?」
「さあって…」
「ケイはどこ行きたい?」
「ど、どこって言われても…急にどうしたの?」
「デート」
「え?」
「したいんだろ?」

手をつないだまま振り向いたゼロスは、したり顔で、でもすごく優しく笑ってた。私の手から伝わる熱が顔まで昇って、まるで爆発寸前の爆弾みたい。心臓がうるさく鳴り響いて、私は少しの間言葉を忘れてしまった。

「黙ってたらどこへもいけないだろ〜?」
「……聞いて、たんだ」

もう最悪だ。聞かれたこともそうだけれど、この想いをからかわれているようで悲しくなった。

「…ゼロス、私のこと、からかってるでしょ」
「なんで?俺さまいつだって本気だぜ〜?」
「本気って…」

何に対しての本気なのか、さっぱり分からない。だけどゼロスは私の手を引きながら、相変わらず鼻歌を歌っている。とても上機嫌らしい。

「で、ケイはどこ行きたい?」

別にどこへ行きたいわけでもなかった。ゼロスと繋いだ手が熱くて、恥ずかしくて、だけどとても嬉しくて、幸せで。このままずっと時間が止まらなければいい、だなんて、思ってしまう。

「…どこでも」
「ん?」
「どこでもいい」
「なんだよ〜それじゃあデートにならないぜぇ〜?」
「ゼロスとこのまま一緒にいれたら、どこだっていい」

素直な想いが唇から零れた。それはとても小さな声だったけど、確かに言葉になって、そしてゼロスの耳に吸い込まれていった。驚いたようにゼロスが私を見つめる。

あぁ、きっと今、私、顔が真っ赤で、とんでもなく恥ずかしい顔をしてるのに。お願いだからこんな恥ずかしい顔してる私なんて見ないで。

恥ずかしくて恥ずかしくて、私は俯いてしまった。だけど今の言葉を取り消せるほど、私は強くはない。

「…見ないで…」
「…」
「…」
「…やべ」

少しの沈黙の後、ゼロスが小さく呟いた。気になって、少しだけ顔を上げてゼロスを覗き見た。

ゼロスは真っ直ぐに前を向いて、空いた方の手で自分の口元を覆っている。その隙間からちらっと見えたゼロスの顔は、その真っ赤に燃えた髪に負けないくらい、真っ赤だった。

「…ゼロス」
「…」
「顔、まっか」
「!」

ゼロスが真っ赤な顔で私を見る。あの俺さまで女好きなゼロスのこんな顔を見たのなんて当然初めてで、可愛くて、おかしくて、私はついつい笑ってしまった。

「っ、笑うなって!」
「ふふふ…!だってゼロス、かわいくて」
「可愛いのはケイちゃんの方でしょーが!」
「んな!私可愛くなんてない!」
「さっきのケイちゃんが可愛すぎたから俺さまこんな風になっちゃったの!」
「だからっ!私可愛くなんてないの!」
「っだー!もう!」

強く手を引かれたと思ったら、気付いたときにはもうゼロスの腕の中にいた。ゼロスの少し焦った鼓動の音を、温もりの中で聞く。狂いそうなほど、優しい音。動けなくなって、何も分からなくなって、分かってくる。

「…っ、ゼロ…」
「あれは、反則」
「は、反則って…なにが…」
「顔真っ赤にしたケイちゃんに、このまま一緒にいれたらいいなんて言われたら、そりゃ誰だっておちるって」
「お、おちるってそんな…私別に、そんなつもりじゃ…」
「だから、尚更」

どうしていいか分からず、私はゼロスの腕の中に納まったまま口をまごまごとさせるばかり。

「…なぁケイちゃん」
「…ん?」
「あんなこと、俺以外に言うなよ」
「…」
「…え、返事、ないわけ?」
「それって…自惚れても、いい、の…?」

自信がなくて、語尾がどんどん小さくなる。そんな私を見て、ゼロスはおかしそうに少しだけ笑うと、さらに強く私を抱きしめた。

「じゃあ俺さまも自惚れるかな」
「…じゃあ、ゼロス以外に言わない」

そう言っておずおずとゼロスの背中に手を回すと、ゼロスは嬉しそうに笑った。

きっと私たちは、ここから、始まっていく。

IF YOU SAY MY EYES ARE BEAUTIFUL
(恋するまなざし)

2011.11.18

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