◎ ALL AT ONCE(レノ)
それは本当に些細なことだった。だけどその些細なことで、全てが終わったの。
今まで二人で築いてきてものが全て、塵のように儚く消えた。与え合った言葉、笑顔、涙。分かち合った喜び、悲しみ、痛み。そして二人で描いた未来と夢。抱きしめあった腕の温もりも、あなたが零した唇の数も、熱く冷め止まぬ雨の夜も、どれもこれも綺麗なままで私の記憶を支配している。
今になってようやく気付いた、あなたが戻らないことがどれ程苦しいことなのか。傷付け合ったあの時は何も気付けなかったのに。この辛さを知っているのは、きっと私だけ。あなたがもしも知っているなら、今すぐ私を抱きしめに来てくれるはずだもの。
本当に、何もかも突然すぎた。
未だに止まない涙は、二人の夢を連れ去っていく。一緒に生きたかったのに、一緒なら生きていけると思ったのに。あなたと出会ってから、愛した人はあなただけ。忘れることも、他の誰かを愛することも出来ないの。ひとり、この絶望を漂うしかないのね。
そして振り向けば、あなたは他の誰かと一緒。今まで私に向けられていたはずの微笑みが、今あなたの腕に絡まる彼女に向けられている。赤い髪を靡かせて、あなたは今日も飄々と歩いてる。青く力強いその瞳に、優しさと愁いを忍ばせて。彼女はあの優しい微笑みを、瞳を、彼を、私から音もなく奪い去った。
私の元に残ったのは、綺麗すぎる思い出だけ。
「…レノ」
名前を呼べば振り向いてくれるような気がした。手を伸ばせば届くような気がした。
『 ケイ 』
あぁもう私の名前を呼んでくれることもないのね。さよならなんて、言えないよ。
私は泣いた。
ALL AT ONCE(オール・アット・ワンス)2011.03.27
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