隣で眠る彼の髪を、そっと撫でる。月灯りに照らされた彼の寝顔は、今日も愛しい。
「…」
私はそんな彼の唇にそっとキスをした。愛情なんて永遠じゃないことくらい分かってるけれど、そんな永遠に縋りつきたくなるくらいに愛しい人。
「…グリムジョー…」
なんとなく呼んでみた。返事が返ってくるだなんて、期待してなかったのに、
「なんだ」
不機嫌そうに目を薄く開いて、彼は答えた。驚いて私は目を丸くする。
「…起きてたの?」
「テメェが起こしたんだろうが」
「そっか、ごめん。呼んでみただけなの」
おやすみ、そう呟いて、私はグリムジョーに背中を向けて目をつむった。不器用だけど優しいことを私は知ってるから、いつも彼から離れられない。なのに不安になるのは、あなたがいつも遠いから。エスパーダに入れてすらいない私は、あなたにとって必要な存在なのかな。
胸に渦巻く感情を押さえ込んで深めに布団を被ると、背中から温もりに包まれた。
「…グリムジョー?」
抱きしめられているということはすぐに分かった。普段あまり愛情表現なんてしないのに、突然どうしたんだろうか、驚きを隠せない。
「どうしたの?」
「なんだ、こうしちゃ悪いのか」
「そんなことないけど…」
「じゃあ、いいだろ」
顔だけを無理矢理ひねってグリムジョーの顔を覗き見ようとするけれど、きつく抱きしめられているためうまく振り向けない。私は諦めて、グリムジョーに回された腕にそっと触れた。男らしくて力強い腕。どうあがいたって、私は彼に近づけない。
「…好きよ」
聞こえないくらい小さな声で呟いたつもりが、彼の耳には確かに届いていたらしくて。
「…今日はやけに素直だな」
そんな返事が返ってきた。そして緩められる腕の力。
私はもぞもぞと腕の中で振り返り、体ごとグリムジョーに向き合った。グリムジョーは真っ直ぐに私を見つめている。私も、真っ直ぐにグリムジョーを見つめ返す。
「…素直は、ダメ?」
「別に」
「じゃあ、お願いしてもいい?」
「…」
グリムジョーは答えない。
「あのね、真正面から抱きしめて欲しい」
そう言ったら、グリムジョーはバカにしたように鼻で笑った。まぁ、そうなるよね。仕方ないからまたグリムジョーに背を向けようとした。
しかし、私が背中を向けるより早く、グリムジョーに真正面からきつく抱きしめられていた。
どくん、と心臓がはねる。素肌が触れ合って、あったかい。
「…グリムジョー、今日珍しく優しいね」
「テメェがシケた面してるからだろうが」
あぁ、こういうところがあるから、私は彼をやめられない。
「…釣り合わないなって思っちゃうとき、あるのよ。私はグリムジョーの価値を下げてるだけなんじゃないのかなって」
腕の中で呟いた。今のは重かったかな、嫌われたかな、とふと思う。
「ケイ」
珍しくグリムジョーが私の名前を呼んだ。いつもは決して呼ばない、私の名前。それだけで蕩けそうになる。
「テメェは俺の側にいればいいんだよ。ごちゃごちゃ余計なこと考えてんじゃねぇ」
「…グリムジョー…」
「分かったな」
「…うん」
そう言うと、グリムジョーはまた目を瞑って眠りについた。そんな彼の唇に再びキスをすると、私もそっと目を瞑った。
月夜のコエ
(優しい想いに包まれた、静寂を愛おしいと思った)
2011.11.18