今日もぽかぽかいい天気。
武田軍は相変わらず賑やかです。
幸村さまも信玄さまも元気です。
もちろん私も元気です。


そして私は、恋、してます


私は部屋の縁に座って、のんびりお饅頭を食べてました。うん、おいしーい。ホントは幸村さまも誘って、一緒にお茶したかったんだけどね。残念なことに、信玄さまと、

「ゆぅぅきむるわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「おぉぉぉやかたさむわぁぁぁぁぁ!!!!!」

って言い合い(というか殴り合い)してるから、一人でのほほんとしてました。そんな時、天井から聞き慣れた声がしました。

「あれ、今日は旦那と一緒じゃないんだ?」
「今、幸村さまは信玄さまと愛を確かめ合ってるのです」
「誤解を招く言い方するね」
「知ってて言ってくる貴方が悪いのですよ猿」

その声の主は、猿飛佐助。武田忍軍の長で、私の上司にあたる人です。

「忍なのに、よく堂々とお茶が出来るね蓮華ちゃん。しかも上司に猿って何さ」
「うるさいです、夢吉と一緒に山へ帰ったらどうですか猿」
「…夢吉かわいそー」
「あぁそうですね、夢吉と貴方みたいなのを比べたら夢吉に失礼ですよね。蓮華ちゃん反省です」

…………。

「…蓮華ちゃん、鬼」
「『闇の鬼女』とかいう異名がついちゃったいましたからね。鬼なんじゃないです?」

私がいうと、佐助はハァって盛大なため息をつきました。でも、私だって、好きでこんな反応してるんじゃないんですよ?

本当はちゃんと目を見て話したいし(今は佐助に背中向けてます)普通に答えてあげたいのです。だけど、私って素直じゃないから、折角こうやって話しかけてくれてるのに、毎回こんな反応しちゃうんです。

「…蓮華ちゃんさぁ、俺の事嫌ってる?」

あぁ、また困らせちゃいました。本当はこんなに好きなのに。

そして素直じゃない私の答えは……。

「馬鹿ですか?」
「ハァ?」
「私は忍なので、他人に対してすきもきらいも感じません」
「でも旦那には優しいよね、いつも笑ってるし」
「馬鹿ですか?愛想笑いです」
「その割りには楽しそうだよね?」
「馬鹿ですか?目悪いんじゃないですか?」
「忍だから寧ろ目はいいよ」

…………。

「…馬鹿ですか、馬鹿ですね」
「あのね、一応俺、蓮華ちゃんの上司なんだけど」
「私、認めていないです」
「ほら俺の事嫌いなんじゃん」
「好きでもないし嫌いでもないって言ってるじゃないですか。ホントに馬鹿なんですか?」
「まあ漢字もろくに書けない蓮華ちゃんよりは頭いいけどね」

か、かっちーん!!!
今のは頭きました!

いくら好きだと言っても、言っていい事と悪い事があります。私は頭が……とてつもなく、悪いんですよね。多分いろんな意味で幸村さまよりも悪いかもしれません。

…あ、これは幸村さまに失礼ですね、申し訳ないです。

まあとにかくそんな私に向かって遠まわしに『頭が悪い』って言ってるようなもんですよ今のは!

私は勢いよく振り返って猿を睨みつけました(きっと額には青筋が浮かんでることでしょう)。でも、目の前に佐助はいませんでした。

「…あら?」

何処に消え去ったんでしょう、あの猿公。

「どこ向いてンの、蓮華ちゃん」

気付けばあの声は、私の後ろ…寧ろ耳元で、しかも低くて甘い声で囁かれていました。そりゃあ、好きな男にそんなことされちゃあ…ねぇ?


きんちょーしちゃいます よ!


「ぎぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!何!?何ですか!?」

思いっきり避けました、私。

「そりゃもちろん、頭の出来が違うから」
「は、はれんち――――――!!」
「何もしてないから誤解を招くこと言わない!旦那が来たらどーすんのさ」
「わ、私が幸村さまに言いつけてやります!『猿がはれんちな事してきました』って!」

とか言いつつも、緊張しすぎて……腰が抜けたかもしれません。だって立てないんですもん。

「蓮華ちゃん忍でしょ?気付きなよ気配くらい」
「さ、佐助は気配消すの上手すぎなんです!」
「あ」
「な、何です…?」
「蓮華ちゃん、今俺のこと『佐助』って言った」
「あ」

あぁ、言ってしまいました。
佐助にこの想いがばれてしまうのが怖くって、いつも猿と呼んで誤魔化していたのに。

「き、気のせいです!」

そう叫んだ瞬間、目の前が真っ暗になりました。しばらくして、それが佐助に抱きしめられてるって気付きました。

「っ、ちょ、さす…っ!、は、離してくださいはれんち!!!」
「………った」
「は!?」
「名前呼んでくれて良かった」
「は、はい!?」
「だって、蓮華ちゃんが名前呼んでくれたの、かなり久しぶりだったし…」

その発言に、思わずぽかんとしてしまいました。

「あー普通に嬉しいわ、俺。今なら死ねるかもしんない」

そんなことを平気で言う佐助に、なんだか悔しさが生まれたので、腕の中で悪態をついてやることにします。

「…………好きだから素直になれないんです」
「うん、知ってるけどね」
「…は?」

な、何をおっしゃいます?

「し、知ってるって…な、なにを…」
「いつもいつも旦那に俺の事話してたらさ、そりゃ誰だって気付くって」
「な、何でそれを…っ!?」
「天井裏から聞いてました」
「…そーですか」
「いやーでもでもまさかホントに俺の事好きとはねー」
「…馬鹿ですか?そ、そんなの冗談に決まってるじゃないですか」
「ホントーに?」
「ホントーに、です」
「……馬鹿ですか?」
「私のネタ取らないで下さい!」
「俺は蓮華ちゃん好きなのにな」
「……へ?」
「俺は、蓮華が、好き」
「〜〜〜し、知ってます!」
「嘘つきー」
「ホントです!」

あーあ、つまりは相思相愛だったわけですか。もう、全然気付かなかったです。私、馬鹿ですね。

「素直になりなよ、もうちょっと」
「す、素直です!」
「ふーん……」
「な、なんですかそのいやらしー顔は…」
「素直に、させてやるよ」
「はへ!?」

佐助は私をひょいっと抱き上げました。

「ちょ、ちょっと佐助!どこに行くんですか!?」
「そりゃーもちろん……ね?」
「っ、ね?じゃなーい!!!」

私の叫びは、虚しく響きました。

その後どうなったかは、ちょっと、お話できません。



馬鹿ですか?
(やっぱり佐助は馬鹿です!)
(馬鹿で結構です)
(馬鹿で変態です!)
(…なんかやだ)


2008.03.04
2011.09.20 修正
(2/3)
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