なんだか上手く眠れないまま、やけに朝早くに起き上がった。暇すぎてスマホを手にとって、やめた。代わりにタバコに火をつける。しばらくぼうっとしたまま時間が過ぎて、朝の7時を迎えたのを見送った。時計の長針が3時を過ぎても、6時を過ぎても、スマホは鳴らない。何もやることがなくて、何をしていいのかも分からなくて、ただ無性に暇だった。

朝一番からパチンコ屋に乗り込む。出だしはいい感じに打ち始めたのだが、結局負けた。残金を確認して、全額の四分の一がなくなったので仕方なく店を出る。そして店を出てからふと気付いた。その日財布に入っていた全額の四分の一負けたらその日はもう打たない、なんて、もう律儀に守らなくてもいいのだ。もう一度打ち直そうかと思って店を振り返ったが、やめた。なんとなくそんな気分じゃない。

昼過ぎには家に帰って、適当に飯を食って寝た。起きたら時計は5時を過ぎてて、慌てて起き上がって出掛ける準備をはじめたのだが、玄関で靴を履きかけてようやく思い出す。もう終業時刻に合わせて、わざわざ迎えに行く必要もない。玄関先で立ち尽くしたままどうしようかと悩んだが、家にいたってやることがないので、結局靴を履いて家を出た。

散歩がてら、いつもの道を一人で歩く。ずっと左手にあった温もりが今はなくて、どうしても手持ち無沙汰だ。タバコをくわえかけて、やめた。歩きタバコだなんだといって、もう口うるさく言われることもないというのに、どうしても吸う気にならなかった。仕方なく空を見上げる。夕焼けが沈みかけていた。そんな夕日を見ながら綺麗だねと言って笑っていた顔が浮かぶばかりで、どうしようもない虚無感に襲われた。空を見るのをやめて、足元に視線を落とす。

帰りによく立ち寄った飲み屋の前を通り過ぎ、自然に足はあいつの家へ向きかけて、やめた。進路を変更して自宅を目指す。空は夜に変わっていた。なんとなくポケットに手を突っ込んで、いつもなら耳元にあるはずのスマホを握る。鳴りもしないと分かっているのに。

いつの間にかぽっかりと空いてしまった心の隙間。俺の中から、あいつがすっぽり抜け落ちた。こんなはずじゃなかったのに、どうして今更、胸が痛い。あいつがいなかった日常に戻るだけだ。自由で縛られない、あの日々に戻るだけだ。たったそれだけのことなのに、あいつのいないすべての時間が無駄に思えた。最後に見た泣き顔を思い出して、唐突に抱き締めたくなる。それさえも叶わないことに、苦笑さえ零れない。

俺はぐっと伸びをして、それから深く息を吐く。弟たちが待つ俺の自宅は、もう目の前だ。


「就職すっかあ」


自然と零れていた声は驚くほど明るくて前向きだ。不思議なことに、それが苦だとも思わない。スーツを着て、指輪を買って、ついでに花束でも買って、慣れない愛の言葉を引き連れて会いに行ったら、君は笑うだろうか。きっと、馬鹿だの遅いだのと言いながら、泣いて笑うんだろう。そんな顔を見てみたいと思うのだから仕方ない。

夜が明けたら、死ぬ気で頑張ってみることにするよ。


君がいない世界
(失ってから気付くもの)

2016.04.07
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