【06:デイドン砦と平原の主】

帝都を後にした三人と一匹は、デイドン砦に向かう途中に見つけた、冒険王という旅籠にいた。兄妹二人、馬車で旅をしながら宿を提供しているらしい。

宿に泊まりたいとぐずったのはケイだった。朝帰りでそのままろくに眠りもしないまま、かなり過激な一日を過ごしたのだから、疲労が限界を迎えていたのだあろう。それはユーリやエステルも同様で、かなりずっしりとした疲労感を感じていた。しかし急ぎの身である。宿泊してゆっくりすることは出来ないが、数時間ほど休ませてもらえないかとたずねれば、あっさりと了承を得ることができた。

ケイは出発時に起こすようユーリに頼み込むと、遠慮なく馬車に乗り込んであっという間に眠ってしまった。ユーリとエステルはあまり眠気はなかったので、休憩がてらのんびりと座って、旅籠の妹カレンが用意してくれたお茶を飲んでいる。広々とした世界と高らかな空を眺めながらぼうっとしていたユーリだったが、エステルがなにやらそわそわとしているのを見て声をかけた。

「どうした?」
「え?あの…」
「言いたいことがあるなら言えよ」
「あの……ケイは、その、わたしのこと、どう思っているんでしょうか…」

城で散々怒鳴ったかと思えば、ころころと笑いかけたり、庇うような真似をしたり、そういった行動を起こすケイに、エステルはついていけないのだろう。エステルの不安はもっともだった。ユーリも少し悩んだような仕草を見せる。なんせケイの怒りを露にした表情を見たのは、驚くことにあれが初めてだったのだから。あれから少し記憶をさかのぼってみたものの、ケイがあんな風に他人を怒鳴りつける瞬間さえ、思い当たる節がない。幼い頃から一緒に過ごしてきたというのに、ああいうケイに対しての対処の仕方がまるでわからないのだ。

「どうだろうな。ま、ちょっと虫の居所が悪かったんだろ。それに、ケイのご機嫌取りながらこの先一緒にいたって、エステルがしんどくなるだけだぜ。あんまり気にしない方がいい」
「そう、ですね…」
「そんなに気になるなら、本人に聞けばいいだけのことだしな」

それが一番難しいことだというのは承知の上での発言だった。エステルは手元のお茶を見つめながら、何やら悩んでいるようだ。なかなか大変な旅になりそうだ、と肩を落としながら、ユーリはお茶をすすった。



しばらくして、すっかり眠りこけていたケイをたたき起こしてから、三人と一匹は再びデイドン砦に向かって歩き出す。かなり深い眠りについていたらしく、短時間の睡眠ではあったがケイはすっかり元気を取り戻していた。お腹がすいたらしく、パンをかじりながら歩くケイに、エステルは思い切って声をかけた。

「あ、あの、ケイ」
「うん?」
「あの、ケイはわたしのこと、どう思ってるんです?」

本当に聞くか、とユーリは僅かに眉を寄せてエステルとケイを見つめる。ケイはパンをかじりながら、うーんと首をかしげて、大したことではないというかのようにのんびりと答えた。

「好きか嫌いか、っていわれたら嫌いかな」
「そ、そうですか……」
「でも勘違いしないでほしいんだけど、あたしは貴族っていうくくりの人間がみんな嫌いなの」
「どうしてです?」
「自分勝手で傲慢で、思いやりも愛情もないから」

きっぱりとそう言い切ったケイをユーリは思わず見つめた。かなりの貴族嫌いだということは知っていたが、こうもはっきりと言いきったのを聞いたのは、これまた初めてだったからである。

「そ、そんなことないありません!」
「エステルはそっち側の人間だからね。そりゃ愛情をもって、せっせと甘やかされて育ったんだから、そんなことないって言えるでしょうよ」

かなりトゲのある言い方に、ユーリはケイの貴族嫌いも相当なものだと改めて思い知らされた。こうなればエステルのこともあるので、一度話を聞いてみるのもいいのかもしれないな、と思いながら、二人を様子を眺める。身長もほとんど変わらない、同じグリーンの瞳を持つ二人は、生きてきた世界などまるで違うのだろうが、なんだか似ているようにさえ思うから不思議だ。

「フレンの部屋片付ける、とか言い出したとき、あれが一番腹立ったね。やりたきゃ勝手にやれよと思った」
「でも、あのままじゃフレンに申し訳ないじゃないですか…」
「…もしかして、片付けるって言い出したことに対して、あたしがあんなに怒ったと思ってる?」
「違うんです?」
「そりゃそれにも腹立ったけど、あたしが腹立ったのは、人にやらせるのが当たり前、みたいな態度だったこと」
「え?」
「お嬢様には当たり前に使用人がいて、あれこれ何でもやってくれるんだろうけど、あたしたちはエステルの使用人じゃないの。あたしたちが片付けもドアの修理もやったとして、エステルは何してくれた?手伝ってくれた?割れた食器片付けた経験ある?」
「……」
「ね。貴族様特有の、そういう態度が嫌いなの。甘えんなって感じ」

何も言えなくなったエステルは俯いてしまう。ケイはそんな様子を気にするでもなく、最後の一口だったパンを飲み下すと、でもまぁ、と続ける。

「エステルは悪い子じゃないんだろうなーとも思ってる」
「え?」
「フレンを助けたい一心で、お嬢様の立場なのに頑張って行動したわけでしょ。そういう行動力は認めてるし、すごいなとも思うよ」

ケイに褒められるとは思っていなかったのだろう、エステルは目を丸い目をパチパチと瞬かせると、信じられないというかのようにケイを見た。

「それに、よろしくしてるわけだし、よっぽどバカな行動やら言動やら起こさない限り、嫌いだからって冷たくあたるつもりもない。あたしもちょっとは、エステルに歩み寄ってみようかとは思ってるとこ。時間はかかりそうだけど」

驚いたのはユーリも同じだった。下町でも飛びぬけて貴族が嫌いだと思われていたケイが、その貴族であるエステルに歩み寄ろうとしているのだから。エステルは何に感激したのか、突然ケイの両手を自身の両手で包み込み、ケイに向かって宣言した。

「ケイ!わたしもケイに歩み寄ります!」
「え、あ、はい」
「そして頑張って好きになってもらいます!」
「う、うん、期待してる」

エステルの気迫に押され気味なケイにユーリは吹き出すと、ラピードもやれやれと言ったように声を上げた。とりあえず、なんとか二人も落ち着くところに落ち着いたらしい。貴族に対する偏見もピカイチで、エステルに対してはかなり刺々しい言い方になるケイだが、彼女なりに一生懸命なようだ。



そんなこともありつつ、三人と一匹はようやくデイドン砦にたどり着いた。ぐるりと一体と囲むように作られた立派な砦で、宿や酒場なども設けられている。旅人が多いこともあってが、行商人の姿も見受けられる。

砦には騎士団の連中がちらほらと見られた。ユーリたちを追ってきたのかもしれないので、出来るだけ目立つ行動は控えるようにユーリはエステルに注意を促した。そしてさらりと砦を抜けようとしたのだが、行商人に興味をもったエステルがそちらに駆け寄ってしまった。やれやれ、とユーリとケイは肩を落とす。ケイは怒鳴ってやりたい気持ちもあったが、そんなことをして注目を集めるのも面倒だった。

「ユーリ、あたしちょっと情報集めてくるわ。エステルよろしく」
「あのなぁ…」
「ついでに必要なものも適当に買い足しといてね〜」

ケイは笑顔でひらひらと手を振ると、一人歩き出した。マイペースも困ったものだと思いながら、ユーリはエステルに近付く。行商人に古い本を読ませてもらっているようだった。ユーリが近付くと、行商人はユーリに武器を見せ付けたりしているのだが、そんなこと気にもとめることなく、エステルは本に夢中だ。武器の押し売りを受けながら、ユーリは苦笑いで溜め息を吐くのだった。

一方ケイは、あれこれと情報を集めた後、城壁の上部を散策していた。集めた情報によると、ここには平原の主というのがいて、砦の壁を巨大な敵だと思っていて、ぶつかってくることがあり、そうなると門を閉めてしまうので、それからしばらくは門を開けないらしい。門が閉まると厄介なのでさっさと渡ってしまいたいのだが、ユーリはエステルに手を焼いているので、なかなかそういうわけにもいかないらしい。

「…お姫様だもんねぇ」

ぽつりと呟いた独り言は、誰の耳に届くこともなく風に乗って消えた。貴族ではなく、エステルは立派な皇族の姫君なのだから、外の世界が楽しくて仕方ないのだろう。楽しい気持ちは理解できるが、もう少しフレンのことも考えてやって欲しいものだと苦笑いをこぼしながら、ケイは橋が見下ろせる場所まで移動する。すると、そこには不思議な雰囲気を漂わせる男が静かに佇んでいた。長い白髪が風になびく。じっと世界を世界見つめる赤い瞳に、ケイはすっと体の奥が冷えていくのを感じた。

無だった。
そこには確かに男がいるのに、その男から伝わるすべてが、まるで無だったのだ。男はケイの視線に気付いたのか、少しだけケイに目線を寄越すものの、興味なさげに再び世界を見つめる。

「…何を見てるの?」

ケイの口は自然と開いて言葉を発していた。男は世界に目を向けたままで、静かに答えた。

「人の営み。飽くなき生きることへの執着……。どうして、人はそうまでして生きる?独占された技術を奪い合い、大切なものを傷付けてまでして……」
「……魔導器のことね」

ケイは男の傍に歩み寄ってみた。男が離れる気配はない。隣りに立って、同じように世界を見つめる。美しく広大な大地に広がる緑、柔らかな雲を浮かべる青い空、頬をなでる清らかな風。守られた結界の中でも同じような空気を感じられるはずなのに、どうして一歩外にでるだけで、こんなにもすべてが輝いて見えるのだろう。

地下深く、僅かな明かりだけが灯された部屋での記憶が蘇って、ケイはまぶたを閉じた。世界の景色は消え、暗闇だけを刻んだあとに、緩やかにまぶたを開ける。そして目が焼き付ける景色は、暗闇のあとには眩しすぎるくらいに美しい。

こんな美しい世界を、乱すことなど出来るのだろうか。ケイは心の中で、誰にも知られず吐き出した。

「魔導器があってもなくても、人は争う生き物よ。自分と違う生き物はみんな敵。あたしたちは、そういう生き物なの」

自分に言い聞かせるかのような口ぶりで、ケイもまた男をその目には映さずに声を放つ。

「だけど、あたしには敵を作る自由もない。定められた運命の上を歩いてるだけ。生きてる価値も、意味もないわ。生きることに執着なんてない」
「……」
「あたしは、死ぬためだけに生きてるんだから」

そう言って男を見上げれば、ケイに興味を示さなかった男も、ケイを見つめていた。世界を捉えていたはずの赤い瞳は、今はまっすぐにケイだけを映している。男がそっと、口を開きかけたときだった。

「こんなとこにいたのか」

ケイが声の方を振り向けば、そこにいたのはユーリたちだ。ユーリはケイの隣りに立つ男を見て眉をひそめ、睨むように男を見た。男はそんな視線など気にも止めないようで、そのまま何も言わずに去って行った。ケイはそんな男の後姿を無表情で少しだけ見送ると、すぐにいつもの笑顔でユーリたちの元へ駆け寄った。

「ハァイ、ユーリ。そっちは終わり?」
「ああ。ところで、あれ誰?」
「知らない。ただ世間話してただけ」
「あっそ」

どことなく不機嫌なユーリにニヤニヤと笑いながら、自分より大きなユーリの頭をわしゃわしゃとなでた。

「やきもち?かわいいですね〜ユーリさん」
「バカ!やめろ!」

ユーリはケイの両手をあっさりと片手でゆるく拘束すると、不機嫌そうにケイを見下ろした。ケイはニヤニヤとしたままユーリを見つめている。そんな二人の様子をじっと見つめていたエステルは、あごに人差し指を添えて首をかしげながら言った。

「ケイとユーリは、恋人なんです?」
「ワァオ、そう見える?」
「はい。だって、とても仲良しなので」
「だってさ、ユーリ」
「残念ながら、ただの幼馴染みだよ」
「そうなんです?」

グリーンの瞳をぱちぱちと瞬かせて、恋人じゃないのが信じられないくらいだ、といわんばかりにエステルは目を丸くした。恋人にしてはボディタッチだってかなり少ないというのに、どこをどうみれば恋人に見えるのかは二人にはさっぱりだったが、男女がこうして仲良くじゃれあっていることも、エステルにはあまり経験がなかったのだろう。ケイはユーリに拘束されていた手をするりと抜くと、そのまま容赦なくエステルの頭をわしゃわしゃとなで回した。エステルが小さく驚きの声をもらすのもお構いなく頭をぐしゃぐしゃにすると、満足したところで手を離す。当然エステルは驚いたようにケイを見つめるばかりなのだが、ケイはニコニコとしている。

「愛情表現」
「え?」
「頭わしゃわしゃってするのは、愛情表現なの。覚えときなさい」

ケイはエステルにそう言うと、さっさと行ってしまう。ぽかんとしてケイの後姿を見つめるエステルと、さっさと行ってしまったケイを見て、ユーリはぷっと吹き出した。要するに、ケイはエステルに対しても愛情表現を示したということだ。エステルはまだ頭が状況に追いついていないようで、ぶつぶつと愛情表現という単語をくり返している。

「良かったな」

ユーリはエステルにそれだけいうと、ケイの後をのんびりと追った。エステルはその言葉にようやく意味を理解したのか、みるみるうちに顔をほころばせて、弾んだ声で答えた。

「はいっ!」

そんな声を背中に受けながら、ケイは一人、誰にも知られることなく悲しげに笑った。



城壁を下り、ようやく砦を抜けてハルルに向かおうとした矢先、問題は起きた。カンカンカン、と警鐘が響き渡り、何事かと橋の向こう側を見れば、何かの大群が凄まじい勢いで砂嵐を巻き起こしながら砦に向かってくる。ケイは街で得た情報を思い出した。そう、大量の魔物を引き連れた平原の主が迫っていたのだ。当然このままでは危険だ。砦にいた兵士たちが慌しく動き、門を閉じようとしていた。

「あれ、全部、魔物なの……?」
「帝都を出て早々に、とんでもないもんにあったな。オレ、なんか憑いてんのか?」

震えるエステルの声に続いて、ユーリも声を放った。いつもはきゃいきゃいとうるさいケイも、初めてみる光景に息を呑む。

しかし、門の向こうに取り残された人がいるのを見た瞬間、ケイの思考は一気にクリアになって、足は勝手に動いていた。門の兵士は自分さえ助かれば他人の命などどうでもいいと思っているのだろう、門を閉じることをやめない。閉じかけの門を抜けて砦の外に出たケイは、動けないでいる人間を二人確認した。男性と、まだ小さな女の子だ。ケイは真っ先に震える女の子に駆け寄った。恐怖で足がすくんでしまっているのだろう、動けずにいる女の子を抱きかかえると、女の子ごと男性に駆け寄ろうとした。するとケイよりも先に男性に駆け寄ったのは、エステルだった。ケイは驚いて目を丸くする。

「エステル!?何してんの危ないでしょ!」
「ケガをしているんです!治さないと…!」

エステルは治癒術を展開し始める。ケイは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、意を決してエステルを振り向かずに駆け出した。

「早くしなさいよ!」
「はい!」

男性をエステルに任せることにして、ケイは門に駆け出した。門はユーリとラピードがなんとか止めていたようで、閉じる途中で止まったままだ。この間も、平原の主と大量の魔物はどんどんと迫ってきており、もう肉眼で確認できるほどまで近付いていた。エステルも無事に治療を終えたようで、なんとか門を間に合いそうだ。

ケイとエステルが無事に人を助け、門をくぐったときだった。ケイが助けた女の子が、大きな声で泣き叫んだのだ。

「お人形、ママのお人形〜!」

ママ。
その言葉に反応し、ケイが弾かれたように振りかえると、女の子がいたあたりにぽつんとピンクのぬいぐるみが落ちていた。エステルが慌てて取りに走ろうとするのを、ユーリが止める。

そんなやりとりになど目もくれず、ケイは迷うことなく再び門の外に出た。ユーリはケイが駆け出したことにハッとするが、もう遅い。

「バカ、戻れ!」

ユーリの叫びを背中に受けながら、ケイはぬいぐるみを拾い上げて、急いで戻ろうと必死に走る。すると、もう待ちきれなかったのだろう、門が徐々に閉まっていくのが見えた。目の前には閉まっていく門、背後には物凄い勢いで迫り来る魔物の群れ。かなりの危機的状況に、ケイは一瞬恐怖で震えた。僅かに駆けるスピードが緩まってしまい、慌てて立て直すが、もう門は閉まりかけている。せめて人形だけでも、と思って人形を投げようとしたとき、ケイの耳にユーリの声が響く。

「来い!!!」

張り裂けんばかりの声に、咄嗟にケイは応えたいと思った。走る勢いはそのままに、締まりかけの門の隙間をすべるようにすり抜けようとすると、自分の力ではないものに、凄まじい勢いで引っ張られる。

ケイがユーリの腕の中に納まるのと、門が閉まるのと、魔物の大群が門にぶつかる音が響いたのは、ほぼ同時だった。ケイは何が起こったのか分からないまま、ユーリの腕の中で放心状態になっていた。ユーリは力いっぱいケイを腕に閉じ込めたまま、はーっと長く深い安堵の息を吐き出す。

「……このバカ」

ケイの耳元に静かに落とされた声は、優しさと労わりで満ちていて、ケイはようやく意識を取り戻す。

「……ごめん」

スリリングだったね、くらいの冗談を言ってやろうかとも思ったが、この状況でいえるわけがなく、せめて謝ってみせた。ユーリは少しずつ腕の力を緩め、ようやくケイを解放して目を合わす。グリーンの瞳が申し訳なさそうに自分を見つめていて、言いたかったはずの言葉も、怒りさえも消えていくのを感じ、かわりに軽いデコピンをお見舞いした。

「無茶しやがって」
「いやぁ、つい」
「無事でよかった」
「まったくだね」

そんなことを言い合って、ようやく二人に小さな笑顔が戻ってきたとき、エステルが物凄い勢いでケイに抱きついた。ケイは突然の衝撃に耐え切れず、エステルに押し倒されるような形になって倒れこむ。

「え、エステル!?」
「よ、よかった…」
「は?」
「ケイが、無事で、ほんとに…!」
「…は?泣いてるの!?ウソ!?」

ケイは驚いてエステルを引き離す。エステルはえぐえぐという擬音語が似合うくらいに泣いていて、ケイは慌てたようにエステルの涙を拭った。

「な、なんで泣くの…」
「だ、だって、ケイあぶな…!」
「…うん、わかったごめん、あたしが悪かった」

ケイはエステルに押し倒された状態のまま細い背中を抱き寄せて、背中をぽんぽんと叩いてやる。ユーリは呆れたようにそんなケイの隣りに腰を下ろした。

「めちゃくちゃ目立っちゃったねぇ」
「どっかの誰かさんがヒーローごっこしちまったからな」
「それを言うならエステルもでしょ」
「ぬいぐるみ、オレが行こうと思ってたのに」
「あら、ユーリの手柄を横取りしちゃったわけだ。そりゃ申し訳ない」

いつもの軽口を叩きながら、エステル越しに見た青い空に、ケイは生きている実感を噛み締めた。
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