【12:シャイコス遺跡から地下遺跡へ】
アスピオを後にしたユーリたちは、魔核ドロボウの容疑者でもあるリタを加えたメンバーで、さらに東に位置するシャイコス遺跡に向かっていた。当然、道中魔物の襲撃も受けていたのだが、攻撃魔術に特化したリタのサポートもあり、以前よりずっと楽に進むことが出来ていた。アスピオという薄暗い街で研究ばかりしているリタが戦いなれているということには驚かされたが、リタに言わせれば、魔導器の研究をしているくらいなのだから、魔術を使って戦えるのは当然のことらしい。魔術を使うわりに軽やかな身のこなしには感服させられた。
アスピオを出て少ししたとき、ぶすっとした表情でさくさくと魔物を倒しながら進むリタの姿を見て、カロルはひそひそと言った。
「なんか、リタってちょっと怖いよね」 「そうでしょうか?」 「まあ、あんなもんじゃねぇの。なんか機嫌悪いみたいだし」 「それは、ユーリが無作法をしたからですよ」
たしなめるような物言いで言い聞かせるエステルだったが、ユーリはふいとそっぽを向いた。
「魔核ドロボウに礼を尽くす気はねぇからな」 「違ってたらどうするの?」 「そんときゃ、あやまるよ」
小声での会話だったのだが、先頭を歩くリタにも確かに聞こえていたようで、ユーリのセリフを聞いたリタはぐるりと振り返った。ジロリとユーリを睨みつける。
「その言葉、忘れないでよ」 「あ、聞いてたんだ…」 「聞こえただけよ。あたしが怖いとか」
吐き捨てるようにそう言うと、リタはまた前を向いてさくさくと歩き出す。そんな小さな背中を見つめながら、ユーリは顔を歪ませてカロルの耳元で囁いた。
「気をつけろよ、カロル。ありゃ、根に持つタイプだ」 「や、やだなあ。脅かさないでよ…」
ユーリの言葉に顔をひくつかせるカロルを横目に、ケイは一人で軽く駆け出すと、リタの隣りに立ち先頭を歩く。リタは怪訝そうにケイの顔を見上げるものの、ケイはそんな視線など気にも留めていないようで、ニコニコとしながらリタの顔を見つめていた。アスピオでも散々人に避けられていたリタは、こういった他人の対応に慣れていなかった。とりあえず睨みあげたままで、訝しげに声を発する。
「……なによ?」 「うん?なにも」 「だったら、なんでそんなにジロジロと人の顔見るのよ」 「かわいいなあって思って」 「はあ!?」
突拍子もないケイの発言にリタはあからさまに眉をひそめた。しかし、その顔はみるみるうちに赤くなっていく。
「な、何言ってんのよあんた!」 「だから、かわいいなって」 「そういうことじゃない!」
憤慨した様子でケイに言うリタだったが、ケイからしてみればそんなリタさえ可愛いものだ。くすくすと笑いながらリタの頭に触れるが、リタはそれを勢いよく撥ね退ける。それでもケイは笑みを絶やすことなく、目の前の少女を見つめていた。蔑むような視線なら慣れているリタも、興味ありげに見つめられて困惑は晴れない。結局ケイを睨みつけるのが精一杯で、最終的には顔を赤くしたままふいと顔を逸らしてしまった。そんなリタに臆する様子も見せず、ケイはいつもの調子で尋ねた。
「ねぇ、リタっていくつ?」 「…15だけど」 「わっかいな〜。それで研究しながら一人暮らしって、大変じゃない?」 「別に。もう慣れてるわ」 「たくましいねぇ」
突き放すような口調でも変わらないケイを、リタはちらっと横目で覗く。するとリタの視線に気付いたケイが、うん?首をかしげて、綺麗な笑顔を向けた。それは思わずリタが見とれてしまうほどの美しさで、リタは言葉を失って固まる。それと同時に、どこかでケイに似たような人物の顔を見たような気がして、思考は完全にそちらへ逸れてしまった。
「リタ?どうかした?」
ケイの言葉にハッとしたリタは、なんでもないといって再び顔を背けた。かわいいなあと呟くケイを、もう一度ちらりと見て、すぐに視線を逸らす。やはり、見覚えのある顔だった。しかし、一体いつどこで見たのかは思い出せない。それに、ケイという名前にも聞き覚えはなかった。気のせいだろうか、とは思いつつも、胸の奥はもやもやとしていてスッキリしない。リタの小屋で、黒板の術式を見て感心していたケイの声を本に埋もれながらも聞いていたので、リタは少しだけケイという人間に興味を持った。
小屋でリタが放った魔術を相殺させたのがケイだということも彼女は気付いていたのだが、なんとなく聞き出すタイミングを逃してしまって、聞き出せないまま今に至る。しかし、聞き出したところでケイが素直に答えるとは限らない。もう一度、びっくりするほど綺麗な顔を見上げれば、ケイはリタの視線に気付いてにっこりと笑った。リタは呆れたように溜め息をつく。
「…あんた、あたしが魔核ドロボウだって疑ってるんじゃないの?」 「え?疑ってるよ。でもなんか、リタじゃないような気がしてるから、別に警戒してない」 「全然わかんないわよその理屈」 「まぁまぁ、仲良くやりましょ」
へらへらと呑気に笑うケイの姿を見てもう一度溜め息を吐いたリタは、調子狂う、と小さくぼやいた。
シャイコス遺跡は、白い石畳と白いアーチが並ぶ美しい遺跡だった。かなり古いもののようで、コケや草が生い茂り、所々地面の石もはがれたり、建物が崩れて原型を留めていない部分もあるのだが、神聖な空気で満ちている。繊細な彫刻で描かれた太く立派な柱に、今も動き続ける噴水、階段の横には女性の姿を象った石像もあり、それらは綺麗なままで整列していた。
遺跡には騎士団の姿も盗賊団の姿も見られず、人の気配も声も感じない。しかし、遺跡の石畳のはがれた所は土がむき出しになっており、そこには複数の足跡が見られた。誰の足跡かはわからなかったが、騎士団か盗賊団か、もしくはその両方のものであることは伺えた。
リタと共に先頭を歩いていたケイだったのだが、美しい遺跡に魅了され、あちこちを探索しながら歩いていたため、すっかり最後尾になっていた。一人ではしゃぐケイの姿を見たユーリは、このままじゃ置いていかれかねないと思いながら、無理やり手を引く。まだまだ遺跡を見ていたいのだろう、ケイは不服そうに唇を突き出してユーリを見つめるが、そんな顔をしたって無駄だった。
一人でどんどん遺跡の奥に進んでいくリタの後を着いていくと、一つの立派な石像の前で立ち止まる。羽根を生やして水瓶を傾けている女性の石像だ。きょろきょろとあたりを見渡すが、騎士団も盗賊団の姿も見当たらない。さらに奥に進めばいるのだろうか、と首をかしげていると、リタが険しい表情でなにやら考え込んでいる。あごに指を添えながら、リタは言った。
「まさか、地下の情報が外にもれてんじゃないでしょうね」 「地下?」 「ここ最近になって、地下の入り口が発見されたのよ。まだ一部の魔導士にしか知らされてないはずなのに……」 「遺跡の地下!?なにそれなにそれ!」
ケイはユーリに手を拘束されたまま、キラキラを目を輝かせる。そんなケイに呆れた様子を見せながら、ユーリはリタに視線をやった。
「それをオレらに教えていいのかよ」 「しょうがないでしょ。身の潔白を証明するためだから」 「身の潔白ねぇ……」
ぽそりと呟いたユーリの言葉には反応せず、リタは石像の近くを調べ始めた。そんなリタにカロルはちょこちょこと近付くと、地面にすれたような跡があるのを発見する。
「地面にこすれた跡があるね」 「発掘の終わった地上の遺跡くらい盗賊団にあげてもよかったけど、来て正解だったわ」 「なら、早く追いかけないと。これを動かせばいいんでしょ?」
素直なカロルは、すれた跡の反対側に回ると、石像を力いっぱい押し始めた。しかし、まだ力も弱く小さなカロル一人では、その体の何倍もある石像を一人で動かすのは到底無理な話である。ユーリはケイの手を離すと、そんなカロルの隣りに立ち、一緒に石像を押してやった。女性陣とラピードは手伝う様子もなく、ケイは呑気に頑張れ〜と応援している。
男と子ども、二人掛かりでようやく石像を動かすと、石像の下には地下へと続く階段が伸びていた。かなり深い階段のようで、先は暗く見ることが出来ない。
「カロル、ユーリ、ご苦労であった!」
ケイは笑顔で言うと、待ちきれない様子でさっさとその階段を駆け下りていく。リタは勝手に行動するケイに怒鳴り声をあげながら後を追い、エステルも置いていかれると思い慌ててその背中を追った。休憩する暇も与えてくれない鬼畜な幼馴染みに溜め息をつきながら、ユーリは座り込むカロルを立たせてやると、二人が立ち上がるのを待っていたラピードと共にその後を追いかけた。
長く続く階段を下りきると、アスピオよりもずっと薄暗い地下遺跡が広がっていた。地上の白く美しい遺跡とは正反対の、整備された様子のない崩れかけの遺跡だった。地下水が流れ込んで出来たプールのような巨大な水溜りが見える。ケイはキラキラした瞳のまま、飛び跳ねんばかりの勢いで声を上げた。
「きゃーーーー!!!すっごーい!!!これが地下遺せ……!」 「バカ、こんな響くところでデカイ声出すな。盗賊団の連中に逃げられたらどうすんだ」 「ふへ、ごめんごめん」
思いっきり声を上げたケイの口を、ユーリは後ろから思いっきり塞ぐと、やれやれと溜め息を吐く。エステルも遺跡に興味津々のようで、思わずいろんなところに足を進めてしまう。そんなエステルの背中に声をかけたのはリタだった。
「そこ、足元滑るから気をつけて」
リタの指摘に、今にも駆け出してしまいそうだったエステルは慌てて足を引っ込める。その様子をまじまじと見つめていたユーリの視線に気付いたリタは、涼しい顔でユーリを見た。
「なに見てんのよ」 「モルディオさんは意外とおやさしいなあと思ってね」
ユーリのセリフを聞いたリタは、ふんっと顔を背けて、気だるそうに息を吐きながら言った。
「……やっぱり面倒を引き連れてきた気がする。別にひとりでも問題なかったのよね」 「まぁまぁそう言わず。リタひとりじゃ、あの石像押せなかったんだし」 「……」
へらへらと笑いながら、ごもっともなことを言ったケイにリタが言い返せないでいると、そんなリタにエステルが声をかけた。
「リタはいつも、ひとりで、こういった遺跡の調査に来るんです?」 「そうよ」 「罠とか魔物とか、危険なんじゃありません?」
歩き出すリタに倣ってその後ろを追いかけると、リタは歩いたまま振り返ることなく答えた。コツコツと複数の足音が地下の遺跡に反響する。
「何かを得るためにリスクがあるなんて当たり前じゃない。その結果、何かを傷つけてもあたしはそれを受け入れる」 「傷つくのがリタ自身でも?」 「そうよ」 「悩むことはないんです?ためらうとか……」 「何も傷付けずに望みを叶えようなんて悩み、心が贅沢だからできるよの」
キッパリと言い切ってさっさと先を行くリタの背中を見つめながら、エステルはぽそりと呟いた。
「心が贅沢……」 「それに、魔導器はあたしを裏切らないから、面倒がなくて楽なの」
意味深にそう言ったリタの言葉に、ケイはわずかに眉を寄せた。含みを持たせた彼女の物言いに、僅かな闇を感じながら、それはきっと聞いてはいけないことなのだろうと悟り、不躾なセリフは吐かないことにした。
そして、ケイは前を歩く小さな背中を追いながら、自分の手のひらを見つめた。リタは魔導器は裏切らないと言い切ったが、果たしてそれは正しいのだろうか。焼けただれたままの指先がじんじんと痛む。魔導器がただの道具なのだとしたら、それらには心も、そうしてこういった痛みもないのだろうか。
考えても埒が明かないな、と思ったケイは、ふうっと軽く息をはいて、暗い地下遺跡を眺めながらぼんやりと歩いた。
遺跡を進むと、そこで発掘前の魔導器を発見したのだが、それらにはすべて魔核がなく、原型を留めていないほどバラバラになっていて、使い物にならないものだった。古代ゲライオス文明に生まれた魔導器だが、なぜそれがこうして遺跡に埋められているのかは、未だに謎に包まれているのだとリタは言う。
術式により魔術を発現する魔核、そしてその魔術を調整する筐体(コンテナ)、二つが揃って初めて魔導器と呼ばれて利用できるものになるのだが、リタいわく、魔核も筐体も完璧な魔導器は、そうそう発掘されないらしい。目の前に転がっているのは、ほとんどが使い物にならないくらい破損したものや、魔核のないものだ。筐体は現代の技術でも再生可能なのだが、魔核はそう簡単には復元できない。簡単な魔核の復元だけは成功しているのだが、それでもまだまだ研究は足りないのだそうだ。
壊れた魔導器をあれこれを探りながらそんな話をしたリタは、それからようやくユーリの顔を見た。
「つまり、あたしなら、盗みなんてバカな真似はしない。そんなヒマがあるなら、研究に時間を費やすわ。完全に修復するためのね。それが魔導士よ」
そこまで熱く語ってからハッとしたのか、リタはそっぽを向いて顔を赤らめた。どうやら熱弁してしまったことが恥ずかしいらしい。そんなリタの姿を見ながら、ケイはかわいいなあと小さく零す。本心なのだから仕方ないのだが、まだリタへの疑いを完全に払拭できていないユーリは、すっかりほだされているケイとは違って言い方にトゲを含ませる。
「立派な信念だよ。けど、それで疑いは晴れないぜ」 「……口では何とでも言えるもんね」
まだユーリとリタの雰囲気は重苦しく、見かねたエステルが他にも魔導器がないか探してみよう、と明るく提案した。するとリタは何かを思いついたのは、ポケットから指輪のようなものを取り出して、ユーリに手渡した。ケイも興味津々でその指輪を覗き込む。
「この指輪についてるの、魔導器の魔核と同じやつだね。もしかしてソーサラーリング?」 「ああ、知ってたの?」
ケイが珍しそうにソーサラーリングを見つめていると、リタは感心したようにいった。ユーリは手渡された指輪の意味も分からず、頭にハテナマークを浮かべてケイを見た。ケイはそんなユーリの顔を見て、本当に何も知らないんだな、と苦笑しながら教える。
「術式を文字結晶化して必要に応じて照射することで、魔導器にエアルを充填させることが出来るの。騎士団時代にこういうのもあるって習わなかった?」 「さあ、記憶にないな」 「ほんと、知性の足りない男だなあ」
やれやれと肩をすくめるケイを見つめながら、眉をひそめたのはリタだ。騎士団、というセリフに耳を疑う。そんなリタの様子に気付いて、説明したのはエステルだ。
「ケイとユーリは、昔、騎士団にいたんですよ」 「はあ?あんたらが騎士団?バカ言わないでよ」 「それが、本当なんです。わたしもお城で…むがっ」
お城、という単語を言いかけたエステルの口を、ケイはガシッと塞いだのだが、当然リタの顔は険しくなるばかりだ。
「お城……?」 「いやぁ、ソーサラーリングなんてレアアイテム、本物を拝めるなんて嬉しいわ〜。ねぇ、エステル」 「は、はい、そうですね!」
ケイが庇ってくれたことを理解したエステルは、咄嗟に誤魔化すもののより一層リタにジロリと見つめられる。そんな様子に助け舟を出すように、ユーリはリタに声をかけた。
「んで、これをどうすんの?」 「あんた、持ってて。遺跡のカギを説くのに重要になるし、この先も使わなきゃいけないから」 「なるほど。よかったねユーリ、信頼の証ですよ」
茶化すようにケイが言えば、そんなんじゃないわよ!とリタは怒鳴り、足を踏み鳴らしながらさらに遺跡の奥へと進んでいった。ソーサラーリングはごく限られた人間にしか与えられていないものなので、それを遺跡調査に赴くリタが簡単にユーリに手渡してしまうところや、これまでの言動、態度をみても、彼女が魔核ドロボウである可能性は限りなくゼロに近い。だとすると、真犯人がいるということだ。ユーリとケイは顔を見合わせて、まだまだ長い道のりになりそうだと、困ったように小さく笑い合った。
そして一行は、ソーサラーリングを使って鍵を解いていき、ようやく遺跡の最深部にたどり着いた。そこには巨大なゴーレムが、静かに佇んでいる。このゴーレムも魔導器のようだ。リタはそのゴーレムに向かって駆け出し、あちこち調べ始めた。ユーリとケイも近付いて、動かないゴーレムの様子を見る。ケイは新しいものにすぐ興味を示すため、相変わらずペタペタと触っていた。
「こんな人形じゃなくて、オレは水道魔導器がほしいな」 「ちょっと、不用意に触んないで!この子を調べれば、念願の自立術式を……あれ?」
そういうと、リタは愕然とした様子でゴーレムの一部を見つめる。
「うそ!この子も、魔核がないなんて!」
ショックを隠せないリタはその場で固まってしまった。すると突然、ラピードが尻尾を姿勢を低くして唸り声を上げた。高く掲げられた尻尾は威嚇の合図だ。ラピードの見つめる先に視線をやれば、白いマントの人物が慌てて物陰に隠れる姿が見えた。ユーリはその一点を見つめたままスッと目を細めると、リタのことをモルディオではなく、「リタ」と呼んで声をかける。
「おまえのお友達がいるぜ」
ユーリの声に硬直から解けたリタは、不機嫌そうにずんずんと前に出て行き、物陰に向かって声を上げる。
「ちょっと!あんた、誰?」
苛立ちを隠すことなく声を上げたリタにびくついたのか、マントの人物は大人しく物陰から出てきた。
「わ、私はアスピオの魔導器研究員だ!」 「……だとさ」 「おまえたちこそ何者だ!ここは立ち入り禁止だぞ!!」 「はあ?あんた救いようのないバカね。あたしはあんたを知らないけど、あんたがアスピオの人間なら、あたしを知らないわけないでしょ」 「……無茶苦茶言うなあ」 「でも、一理あるよね」
確かに、アスピオでは名前を出しただけであの態度を取られるリタだ、知らないものはいないのだろう。そんなリタの声にぼそっとつっこんだのはカロルで、そのカロルに言葉をかけたのはケイだった。マントの人物、声からして男でろうそれは、わなわなと手を震わせて、突然動かないゴーレムのそばに駆け寄った。
「くっ!邪魔の多い仕事だ。騎士といい、こいつらといい!」
とうとう本性を現した男は、駆け寄ったゴーレムに、あろうことか魔核をぶち込んだのだ。さっきまでピクリとも動かなかったゴーレムが、魔核によって起動し、機械的な音を立てて立ち上がる。
「うっわーっ、動いた!」
カロルが悲鳴のように叫ぶ。ゴーレムが動き出したと同時に、ユーリたちはさっと攻撃態勢に入ったものの、一足早くゴーレムが動き出し、一番近くにいたリタを殴り飛ばした。吹き飛んだリタの小さな体は痛々しい音を立てて柱にぶつかり、がっくりとうな垂れてしまう。
「リタ!!」
エステルはリタに駆け寄って、慌てて治癒術を展開する。淡く優しい光がリタを包んで、彼女の痛みを一瞬で消し去った。どうやら頭は打たなかったらしく、殴られた際に受身をとったようなので、大事には至っていない。しかし、リタはエステルに施された治癒術を見て表情を硬くすると、その左手を勢いよく掴んだ。目の前で起こった現象を受け入れられずに、ただただエステルの左手首で輝く武醒魔導器を見つめている。
「あんた、これって……」 「な、なに!?」 「今の……」 「え、えっ?ただケガを治そうと……」
リタとエステルがそんな会話を繰り広げている間にも、ゴーレムは容赦なくユーリたちに襲い掛かっていた。食らえばひとたまりもないような強力な一撃を必死にかわしながら、カロルはリタとエステルに向かって叫ぶ。
「ちょっと!サボってないで手伝って!」
カロルの声に立ち上がったリタは、とりあえず今起こったことを頭の端に寄せることにして、汚れた服を払う。
「あ〜、もうしょうがないわね!あたし、あのバカ追うから!ここはあんたらに任せた!」 「任せたって、行けねぇぞ!?」
飛び出そうとするリタは、ゴーレムに行く手を阻まれ動きを封じられる。腹立たしげにしたうちをすると、リタは仕方なくゴーレムに向き合った。
「残念ながら、仲良く遊んであげるしかないみたい」 「速攻ぶっ倒して、あのバカ追うわよ!」
リタの言葉を合図に、ユーリたちは一斉にゴーレムに向かって行くのだった。
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