「もう、いい加減にしてって言ってるでしょう!!」
「そりゃこっちのセリフだっつの!!」
「よく言うわ、さっきまでしつこくしてきたのはどっちよ!?」
「いちいちそんな可愛くねえ態度とるからだろーが!」
「可愛くなくて結構よ!ゼロスの顔なんて当分見たくもないわ!」
「じゃあ当分会いにきてやらねえからな!」
「誰も会いに来てだなんて頼んでないもの。どうぞご勝手に」
「…あーそうですか。じゃあ勝手にするよ、お前も勝手にしろよケイ」

初めてケイと喧嘩した。なんかその日はやけにむしゃくしゃしたから、久々にハニーたちと遊んだ。でもやっぱり心の中がもやもやしてて、気分もよくなかった。

その日から3日間、ケイとは一切会わなかった。



「…」

ある日、俺は考え込んでいた。喧嘩をしてからというもの、夜はまともに寝付けないし、食事も喉を通らない。気付いたらいつものベンチまでやって来ていて、ケイがいなくて落胆した。きっと心のどこかで期待してるのだ、ケイが来てくれると。

「…はあ」

軽く溜め息をついて、そっとベッドから抜け出した。気持ちを落ち着かせるために、一度外へ出よう。そう思い、俺は屋敷を後にした。



夕暮れ。
俺はいつもケイが座っているベンチに腰かけ、風に当たっていた。夕食時なので、人通りは少なく、はしゃぐ子どもたちの姿もない。1人、世界に取り残されてしまったような気分になる。

目を瞑ると、暗闇が視界を覆って、微かに光る景色すら写らない。その暗闇は無でしかなかったけれど、なぜか、どこか心地よかった。

そんなことを考えながら、心地よい風のせいで、少し眠気に襲われたときだった。



「きゃあああぁぁぁ!!」



聞き覚えのある声に、俺ははっと目を覚ました。メルトキオの外からの本当に小さな声だったけれど、はっきりと聞こえた。街の喧騒に飲まれそうなほど小さな声を聞き逃さなかったのは、奇跡だったのか、はたまた愛の力だったのか。

くさいセリフだけど、俺は後者だと思いたい。

「っ、ケイ!?」

俺は勢い良くベンチから立ち上がった。




「やだ…こないでってば!!!」

メルトキオの外に出てみると、少しはなれたところにケイがいた。見れば数匹の魔物に囲まれている。距離はそこそこあるものの、急げば間に合う。ケイのところまで必死に走った。

魔物の一匹がケイに襲い掛かった。ケイはしゃがみこんで顔を覆っている。

「ケイ!!」

無意識のうちに大声で叫んでいた俺は、ギリギリでケイを抱きかかえ攻撃を避けた。ケイは驚いて俺を見つめていた。

どうやらケイイは無傷だったらしいが、助けるのが少し遅かったので俺の背中に傷がいったらしい。そう深い傷でもないと判断したので、俺はケイを降ろし、魔物へ立ち向かった。




しばらくして、魔物を倒し終えた俺は、座り込んで俺を見つめるケイのところまで行った。ケイの前に座って少し怯えるケイをそっと抱き寄せた。

「このバカ…なんでメルトキオの外にいるんだよ…」
「…ごめん、ね」
「心配させんな…」
「うん…ごめん、なさい」
「怪我してねえか?」
「私は平気…それよりゼロスが…!」
「ん?ああ、これか?これくらい大したことねえって」
「でも…!」
「俺の心配する前に自分の心配しろ」
「でも……」
「ケイが無事なら、俺も無事だから」

こんなの大した怪我じゃねぇし、と笑って俺は自分に向けてファーストエイドをかける。そして、震えて上手く立てないであろうケイを背中にのせた。

「わ、私1人で歩ける!」
「ダーメ。震えてる女の子を無理矢理歩かせるような男じゃないし、俺さま」
「ゼロスだって疲れてるでしょう」
「俺さまは平気だって。それにこの前怒らせたし…そのお詫びってことで」
「……ゼロス」
「ん?」
「この前は…ゴメンね」
「…こっちこそ、悪かったよ」
「私、ゼロスの顔見たくないだなんて…すごい酷い事言っちゃった…」
「俺さまも可愛くないって言っちゃったしな〜お互い様だって」
「…私毎日ベンチに行ってたの、謝ろうと思って…」
「…マジで?」
「私が待ってたらゼロスが来てくれて…でもなんだか怖くて隠れてたの…ホントにごめん」
「…あー俺さま今すっげえ幸せ」
「どうして?」
「ケイも同じこと考えてベンチ行ってくれてたんだなって思って」

思わずにやける俺を、ケイは照れたように軽く叩いた。
そっとケイの顔を覗き込めば、ケイも笑っていた。



初めての喧嘩は桜色
(優しい色は、僕らの距離を縮めた)

2011.09.15 修正

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