「ケイちゃんっ」
「…また来たの?」

あれから俺は、毎日のようにケイに会いに行っている。ケイはいつも広場のベンチに腰掛けて本を読んでいるのだ。

「毎日毎日よく来るわね」
「まあね〜ハニーたちと遊んでもいいんだけど」
「…ホント呆れるわ。まだそんなバカなこと言ってたの?」
「ハニーたちは俺さまが大好きだからさ」
「私は好きじゃないわ、静かに本が読めないんだもの」
「…俺さまとその本、どっちが大事?」
「本に決まってるでしょ?分かりきったことを聞かないで」
「…俺さましょんぼり」

毎日似たような会話しかしなかったけれど、俺にとってはそれでも幸せだった。ケイと居る時間だけが、いつも鮮明に色づいていく。

「今日は何しに来たの?」
「ケイちゃんに会いに来た」
「はいはい、嬉しいわありがとう」
「愛情がこもってない…」
「その愛情が勿体ないもの」
「…ホント、俺さま泣きたくなってきちゃった…」

そう言ってケイの足元に座り込んでうずくまれば、呆れたような溜め息が聞こえてきた。でもケイは優しいから、こういうのに弱いのをオレは知ってる。うな垂れた俺の頭にそっと手を乗せ、俺の髪を優しく梳く。

「本を読みたいの、静かにしててね」
「ケイちゃんがこうしててくれるなら静かにする」
「甘えたなのかただの我侭なのか…ホント困った人ね」
「んーケイちゃんの手好きー」
「はいはい、嬉しいわありがとう」

文句を言いながらも、優しく梳いてくれるその手が気持ちよくて、思わず眠気が襲ってきた。

「……眠い」
「お屋敷に帰って寝てきたらいいじゃない」
「…膝貸して」
「え…きゃ、ちょ、ちょっと!」
「おやすみ〜」
「…もう…」

有無を言わせずそのままベンチの上に寝転がり、ケイの膝に頭を乗せた。香水なんかじゃない、甘くて癒されるケイの香り。呆れながらも優しく髪を梳いてくれるケイの優しさ。そして梳いている白く細い手―――

もう全部が愛しくて仕方ない。

「…おやすみ、ゼロス」

最後にケイが優しく呟いた言葉を耳に残し、オレは眠気に身を委ねた。



君の全てが愛しくて
(この時間が永遠に続けばいいと願った)

2008.03.06
2011.09.15 修正

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