「嫌い」

女からその言葉を聞いたのは初めてだった俺は、耳を疑った。

「…はい?」
「だから、嫌いなの。あなたみたいな軽い男」
「軽いってね〜まあ否定はしないけど」
「本気でもない女に声かけて楽しい?」
「まあね〜みんな俺さまが大好きだから」
「呆れた人…でも私はあなたのこと嫌いよ、だから話かけないでね」

それじゃ、と言って女はクルリと振り向き行ってしまった。

「待った」
「…何よ」
「君、名前は?」
「あなたみたいな礼儀のなってない人に名前を名乗る必要はないわ」
「俺さまはゼロス・ワイルダー。さて、麗しの君の名前は?」
「…ゼロス・ワイルダーって、もしかして例の神子さま?」
「そ!」

女は驚いた表情になる。なんだ、結局この女も他の女を同じか。所詮は神子っていう肩書きを聞いて性格を豹変させるのか。

「へぇ、神子さまって思ってたより軽い人なのね」
「…へ?」

思っていた答えと違う言葉が出てきて、思わず拍子抜けてしまった。さらりと言い切った彼女は、相変わらずの調子で俺に言った。

「私はケイよ、2度と会わないことを願うわねゼロスさん」
「ちょちょ、俺さま神子なのにそんな態度とっちゃう?」
「神子さまって言っても普通の人間でしょう?」
「世界を再生するのに?」
「そんなの選ばれなかったか選ばれたの違いよ、身分なんて関係ないじゃない」
「ほ〜ハニーはなかなか変わってるね〜俺さまそういう子大好き」
「残念ながら私は嫌いよ、あなたみたいな軽い人」
「そんな風に連呼されるとね〜…俺さましょんぼり」
「勝手に落ち込んでればいいでしょう。それじゃあさよなら」

ケイはまたクルリと振り向いた。

「なぁケイちゃん」
「もう、何よ。言いたいことがあるならさっさと言いなさい」
「…俺さまが神子だからって特別扱いしないの?」
「…どうしてそんなバカなことをする必要があるの?」
「俺さまの周りにいる子はみ〜んなそんなんだからさ、ケイちゃんは違うのかなって」
「当たり前でしょう。そんな気持ちの悪い女達と一緒にしないで」
「…なかなか言うね…」
「だってあなたは神子である前に"ゼロス"じゃない。神子だからって特別扱いする人がどうかしてるわ」
「…」
「話はそれだけ?じゃあもう行くからひきとめないでね」

またケイはクルリと振り向いた。

「ケイちゃん」
「もうっ!何なのよ!」
「…ありがとな」
「…何が?」
「べっつに〜。ま、いろいろと!」

俺はきっと、そうやって扱ってくれる子を求めてたんだ。ケイは初めて会ったのに、求めてた言葉をくれた。本当に嬉しかった、ただ単純に嬉しかったんだ。

俺の言動を不思議に思ったのか、ケイはしばらくぽかんとしていたけれど、急にぷっと笑い出した。初めてみたケイの笑顔は、他のどの女よりもずっと輝いていて、太陽みたいだなって、なんとなく思った。

「変な人」
「そう?」
「でもさっきよりずっといい顔してるわよ」
「え?」
「そっちの方がかっこいいんじゃない?ゼロス」

彼女の口から紡がれた俺の名前。この名前に、愛が宿っているのかとさえ思ってしまう。それほど穏やかで、優しいケイの声。

「そうだ、さっきの撤回してあげるわ」
「何を?」
「嫌いじゃなくて、嫌いかもしれない」
「それでもショック…俺さまマジへこみよケイちゃん……」

ふふっと笑ってケイは言った。

「じゃあ行くわ。…また会いましょ、ゼロス」

柔らかく微笑むと、ケイはさっさと行ってしまった。そんな彼女の後姿を見送りながら、俺は自分の確かな感情に苦笑いしか出来ない。

「ったく…どうしてくれんのかねぇ」

まさかこの俺が、本気で誰かに心を奪われるなんて。

「…覚悟しとけよ、ケイ」

いつか必ず、お前の心をさらってやるよ。
そう誓いながら、俺は清清しい気分で自分の家へ帰って行った。



君がくれた言葉
(それはとても温かくて、泣きたくなるほど優しい言葉)

2008.03.06
2011・09.15 修正

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