「んじゃ、行ってくるわ」

俺は朝から昼まで、ケイの家にいた。ケイは当分会えないから、と言って店を休んでくれたのだ。

特に何をするわけでもなく、ただケイと他愛もない話をしたり、くだらない噂話をしてみたり、そんな感じだった。

「もうこんな時間なのね」

時計を見てケイが小さく言った。
そこまで送るわ、と言ってくれたケイと一緒にメルトキオの門まで行くと、そこにはもうロイドくんたちがいて、元気に俺に手を振っている。

「ケイも一緒に行くのか?」
「まさか、見送りにきただけよ」
「そりゃケイを危険な目に会わせるわけにはいかないからねぇ」

ロイドくんやしいな、全員とも軽く会話を交わしたケイ。
その後リフィルさまが急にこう言った。

「…さ、ロイド。私たちは先にグランテセアラブリッジに行きましょう」
「え?何でだよ先生」
「そこでゼロスと待ち合わせよ。さあ行くわよ」

ぶつぶつ言うロイドくんと、意味を理解した他の連中をグランテセアラブリッジに行かせるリフィルさま。振り返って、軽くウインクして行ってしまった。

「…なんか、変な気を使われちゃったわね」
「…だな」
「行かないの?」
「ま、気使ってくれたみたいだし、もうちょっと残る」
「なにそれ」

笑うケイが可愛くて、俺はそっと華奢なその体を抱きしめた。

「…帰ってくるから」
「…うん」
「全部終わったらケイんとこ、真っ先に帰ってくる」
「うん」
「だから絶対待ってろよ」
「待ってるわ」
「…そうだ、コレ返さねぇとな」
「これ…」

俺はポケットから、あの時渡されたブレスレットを取り出した。それを腕の中に納めたままのケイに返す。

「…また行くんでしょう?持ってて」
「いや、こんな大事なもん持っとける自信ねぇわ」
「自信がないだなんて、ゼロスらしくない発言ね」
「そうか〜?」
「そうよ、今まで生きてきて初めて聞いた気がするわ」
「なんか俺さまが完璧人間みたいな言い方するのね〜ケイちゃん」
「ゼロスはそんな感じだったじゃない」
「まあそうだけどな…とりあえず、返すわそれ」
「本当に…帰ってきてくれるの?」
「不安?」
「うん…なんだか帰ってきてくれないような気がして…」

そう言って俺の胸に顔を埋めるケイを俺は抱きしめてやることしか出来なかった。ケイは変に鋭いから、きっとなんとなく、俺の不安が伝わってるんだろう。

「…じゃあそのかわり、ケイちゃんにこれ預けとくわ」
「これ…指輪?」
「そうそう、ちなみにもう片方は俺さまが持ってるから〜」
「…ぶかぶかなんだけど」
「そりゃそうでしょーよ、ケイちゃん用の指輪持ってるの、俺さまだし」
「…どういう意味?」
「…帰ってきたら、こっちをケイの指に嵌めてやるよ」
「え…」
「だから、ケイはそれを俺さまの指に嵌めてくれよ」
「ねぇ、ゼロス…それって……」
「…さ、そろそろ行かねぇとさすがに俺さま叱られるから、行って来るわ」

俺はケイを離し、そう言って小さく微笑んだ。少し困惑した表情のケイだったが、ゆるゆるとその表情を和らげる。

「いってらっしゃい」

微笑むケイの顔は、どこか寂しげだった。なんだかその表情がたまらなくて、ケイを引き寄せて柔らかな唇にそっとそれを重ねた。本当に一瞬、軽く触れ合ったそれは、きっとキスとは言えない。

ケイは突然のことに驚いた顔で俺を見上げる。

「次会うまで寂しくないように、ってな」
「…ばか」
「でひゃひゃひゃ!まあ行ってくるわ。…またなケイ」
「…またね」

ケイから離れ、俺はアイツらが待つ場所へ向かった。俺は振り返らなかった。今ここでケイの顔を見たらきっと、この先には行けなくなる。


「…大丈夫だからねゼロス、みんなを信じてね!!絶対…絶対、帰って来てね!!」


今まで聞いたことがないくらい必死のケイのその言葉が、痛いほど俺の心に突き刺さる。思わず振り返りそうになるのを懸命にこらえて、かっこつけて軽く手を振った。


あぁ、やっぱりケイには適わねぇ。

俺は彼女の色をした空を見上げて、少しだけ笑った。



信じるきっかけ
(それは君の声が背中を押したこと)

2011.11.19 修正

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