「あとどれくらいメルトキオにいるの?」
「明日の昼くらいまでの予定」
いつものベンチにケイと座っている。相変わらずケイは本に夢中なので、俺はいつものようにケイの肩に頭を乗せていた。相変わらず優しく髪を梳くケイの手は心地がいい。
「じゃあ明日またいなくなるのね」
「もしかしてケイちゃん寂しい?」
「まさか。もう平気よ、きっと」
「なんで」
「だってまた帰ってきてくれるでしょう?」
「…愛されてるねぇ俺さま」
「残念、信じてるのよ」
「そんな変わらないだろ」
「だいぶ変わるわよ」
クスクスと笑うケイが可愛くて、キスしようと試みる。が、軽く頭を叩かれてしまったので諦めた。
「…キスくらい別にいいじゃねーの」
「ダメよ」
「…俺さましょんぼり」
「しょげてもムダ」
「…ケイのけちー、酷い人ー」
「暴言とか飛ばしてもムダ」
「ケイちゃん超可愛いなーキスしたい」
「おだててもムダ」
「…ちぇ、ケイなんて嫌い」
「私も嫌い」
「!!!!」
「冗談よ」
ケイは俺の髪を梳きながら、そう言って笑った。
――――ちくしょう、可愛いな。
「なんでキスさせてくれねぇの」
「じゃあゼロスはどうしてしたいの?」
「ケイちゃんのこと愛してるから」
「他の女の子にも散々言ってるじゃない」
「あら〜ヤキモチ?」
「ゼロスじゃないもの」
「ひっど!俺さま本気なのはケイちゃんだけよ〜」
「はいはい、嬉しいわありがとう」
聞きなれたセリフを聞いて、俺はさらにしょげた。大人気なくてもいい、この際なんだってしてやる。
「そんなに拗ねることでもないじゃない」
「ケイがキスさせてくれるまで帰さねぇ」
「本当に子供ね」
「なんとでも」
「まったくもう…」
呆れたようにケイは本を閉じ、俺の方を向く。そして俺の髪を軽くかき上げて額にそっと唇を当てた。
「…これで満足ですか」
若干顔を赤らめてそういうケイに、またあっさり心を持って行かれた気がする。彼女はずるい。
「ケイちゃん、そういうのは口にするもんでしょーが」
「誰も口にするなんて聞いてないわ」
「じゃあもう一回」
「もう絶対にしない」
「ケチめ」
「ケチで結構よ」
そう言って舌を出したケイ。
可愛すぎたので、ムリヤリ抱き寄せ唇を奪おうとする。
…が、上手くかわされ少し強めのチョップをお見舞いされた。
「…地味に痛い、それ」
「変態ゼロス」
「キスだけで変態はないでしょ〜」
「ムリヤリしようとするから変態なの」
「ケイちゃんが許可してくれないから」
「恋人じゃないじゃない」
「そんなもんでしょーよ」
「私、ゼロスに告白してないしされてないもの」
「俺さま毎日告白してるんだけどな〜」
「好きとか好きじゃないとかじゃないの」
「じゃあなに」
「恋人になるとかならないとか、そういうの」
結構真剣にそう言いきったケイを、俺の腕の中にスッポリと納めた。俺のことを信じきったその真っ直ぐな瞳が、痛くて辛いから。
「悪い、それまだ言えねぇわ」
「そっか」
「ちょっと期待してた?」
「そうね、そうかも」
「こっちにも心の準備ってもんがあるわけよ、それが出来たらちゃんと言う」
「うん」
「待っててくれるか?」
「今まで待ってきたもの、待てるわよ」
「約束な」
「約束ね」
歌うようにそう宣言したケイを抱く腕に少しだけ力を込めた。
ごめん、ごめんな、ケイ。
もしかしたらその約束、果たせないかもしれない。
俺は、俺を信じてくれてるコイツらを、
―――裏切るかもしれねぇから。
偽り混じりの大事な約束(世界と君を天秤にかけたとき、俺は君を選べるだろうか。あいつみたいに)2011.09.15 修正
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