「おかえりなさいませゼロスさま」
改めて、俺はこの屋敷に帰ってきた。
前に帰ってきたときは、手配書に顔が載っていたから、なんやかんやであまり安心は出来なかったのだ。手配書も外されたし、心置きなくメルトキオを出回れる。
手配書に顔が載っていたとき、メルトキオに帰ってまず1番したかったことなんて決まってる、ケイに会うことだ。でも手配書に載ったままじゃさすがに会うのは難しく、結局会わずに今まで過ごしてきたんだけど、限界、もう限界だ。
ケイに会いたい。
「ゼロスさま」
不意にセバスチャンに呼ばれた。
ちなみに、今俺たちは俺の屋敷にいる。
「どうした?」
「ケイさまのことでお話が…」
気を使って小声にしてくれたものの、しっかりと全員に聞き取られていたわけで。
「…セバスチャン」
「…はい」
なんとなくその場の空気が読めたセバスチャンは、奥の部屋へ行き、しばらくしてから紙を持ってきた。セバスチャンがものであろうその紙を手渡された俺は、そこに書かれた文字を読み始める。
「…………」
やられた。
真っ先に俺はそう思った。
俺は思わずニヤけてしまう口許を片手で必死に覆う。
やばい、嬉しすぎる。
俺はその紙を綺麗に折ってポケットにしまうと、いそいそと玄関に向かう。
「悪いねーみんな、俺さまチョット出かけてくるわ」
「…噂のケイかい?」
「うっせ。しいな、邪魔すんなよ」
「分かってるサ、ようやく会えるってときに邪魔するほどバカじゃないよ」
「じゃあロイドくんとがきんちょ頼むぜ、心配だからな」
「…アタシじゃ面倒みきれないよ」
「なら私がみておくわ。ゼロス、折角会えるのだし早く行きなさい」
リフィルさまも、今回は味方についてくれたらしい。不満そうに俺をみるロイドくんとがきんちょの視線も、残念ながら痛くも痒くもなかった。
俺はいつものベンチに座ってケイを待つ。不思議と緊張はしていなかった。むしろ期待が上回って、早く会いたい、そればかり。
しばらく待っていると、見慣れた青が目に入った。空に溶け込んでしまいそうなほど綺麗な、青。ずっとずっと恋焦がれ、会いたかった、愛しい、青。
その青は俺に気付くと、目をパチクリとさせた。相変わらず、重たそうな本を持っている。
「……………ゼ、ロス……?」
「よっ、ケイちゃん」
自分でも驚くほど、俺は優しい顔をしていたと思う。
ケイは少しずつ顔を歪める、そして何かが切れたかのように、俺の方へ向かって走ってきた。いつだって俺より大事にしてた本も放り投げて、俺に思いっきり抱きついてくる。
それをしっかりと受け止めてやれば、今にも泣き出しそうな顔でケイは俺を見た。
「っ、ゼロス、よね?」
「もう忘れたのケイちゃん、酷いね〜俺さましょんぼり」
「忘れるわけ、ない、でしょ」
「他の誰かにでも見えた?」
「見えるわけ、ない」
「…ゴメンな、遅くなって」
「…うん」
ケイは俺の胸に顔を押し付けた。俺の背に回していた腕にそっと力を込めて、掠れた声で言った。
「ずっと……会いたかった…っ」
「…俺さまもケイちゃんに会いたかった」
答えるようにケイを抱きしめる腕に力を込めた。
「なのに、手配書に顔は載ってるし…」
「うん」
「連絡の、ひとつも、ないし…」
「うん」
「わたし、もう、忘れ、られたのかなって、思った…」
「そんなわけないでしょーよ」
「凄く、心配、したのよ…ばかゼロス…」
「…ゴメンな、ケイ」
肩を震わせながら泣くケイが、可愛くて可愛くて。ずっと待ち望んだものがここにあるって、心からそう思えた。
「ゼロス、」
「ん?」
「帰ってきてくれて…生きててくれて、本当に、ありがとう」
「…ん」
柔らかなケイの髪を梳いて、俺はケイの耳元で言った。
「しょっちゅう俺さまの夢みてたんだって?」
「な、」
「よく俺さまの屋敷に来て、セバスチャンに愚痴いいながら泣いてたって?」
「っ、」
「ずっと俺さまに会いたいって、言ってたんだよな?」
「…っ、聞いたの?」
「聞いた」
「…バカな、子、だって思う?」
「嬉しかった、ケイがそう思っててくれることが」
ケイは珍しく、声を出して泣いていた。ここまで心配させたことが何か申し訳なくて、でもここまで心配してくれて本当に嬉しくて。
ケイは顔をあげ、綺麗に涙を流しながら言った。
「おかえりなさい、ゼロス」
「ただいま、ケイ」
2人で顔を見合わせ、笑った。
ただいま大好きな君(おかえり大好きなあなた)2011.09.15 修正
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