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こんなに こんなに 
貴方に会うのが怖かったなんて
そんな事 言えるもんか 今更
私以上に 貴方の方が怖い気持ちで いっぱいなのに



 ● ●



「はじめまして、三番隊から配属されました。神風蓮華と申します」

わたしは深々と頭を下げる。真面目で根暗、といった感じの暗い空気が辺りを包み、みんなこぞって嫌そうな顔をした。中には、影でコソコソ言いながら私を見ている人も居る。

そう、それでいい。

このまま嫌われた方がいい。その方が、私はまだ気楽で居られる様な気がする。それに、私みたいな女と一緒に居て欲しくないとも思う。一緒に居れば、一緒に居た人も穢れてしまうかもしれない。私と同じように、誰かを汚すのはもう嫌だ。

今まで居た三番隊とは全く違う雰囲気、人々、空気…その全てがこれから始まる悪夢の恐ろしさを物語っているようにも思えた。

九番隊は今の私にとって新しい場所。昔の私にとって懐かしい場所。複雑な心境で私はこれからを過ごさなくてはならない。

私の自己紹介も終わり、東仙隊長も私に自己紹介する。それも「良く来てくれたね、ありがとう」と言う様な笑顔で。そこまで私は東仙隊長に気に入られているらしい。そんなに誰かに気に入られてしまうほど、私は偉くもないし優しくもないのに。私はこんなにも、最低で最悪な存在なのだから。

「とにかく良く来てくれたね、神風君。これから宜しく頼むよ」
「はい…こちらこそ、宜しくお願い致します…」

私は深々と頭を下げる。

「そんなに畏まらなくてもいいさ」
「しかし…新参者ですので、簡単に慣れるのは少々…」
「まぁ、自分のペースで頑張ればいい」
「はい…ありがとうございます」
「と、いうわけだ。みんな仲良くしてやってくれ。私からは以上だ」

東仙隊長は笑顔でみんなに向かってそう言う。つられてみんなも笑顔になった。東仙隊長は、昔と変わらず凄い人だな、と黒く染まった心でぼんやりと思った。

「じゃあ、次はこの隊の副隊長からの挨拶だ」
「え…」

副隊長からの、挨拶?

確かに隊長が挨拶をしたのに副隊長が挨拶をしないなんて、そんなことはあり得ない。だけど、そんな事されなくてもいいのだ、だって私は彼を良く知っている。

昔の彼も、そして、今の変わり果てた彼のことも。

会いたくない、見たくないと、脳内が拒絶を起こす。しかしそんな私のことなんて、誰も気付きもしないし、気にも留めない。東仙隊長の言葉を聞いて、一人の男性が私を見る。男性は私の方に歩み寄ってきた。私の心臓がうるさく喚いている。

男性は私の顔を見て、少しだけ顔が引きつらせた。何か悩んだような、心が痛んだような、そんな顔。彼は私の元へ来るなり、私の顔を堂々と覗き込む。

「お前、どこかで俺と会った事ねぇか?」
「え…あ…ない…と思います…」
「そっか?じゃあいいんだけどな…」

彼は考え込んだような顔をする。私はそのまま彼を見つめていた。


あぁ、この人はこんなにも変わってしまったのか、と思いながら。


「…おい、どうした?」
「え?あ、何でも、ない……ありません…」
「何だそりゃ?お前変な奴だな」

彼は薄く笑った。しかしもうその笑顔にあの頃の輝きは微塵も感じられない。

「とにかく、これからお前はこの九番隊で頑張れって事」
「…はい…」
「そうそう、俺の名前は檜佐木修兵。宜しくな」
「……宜しくお願い致します…」

心が、ひどく痛んだ。この名前を耳にするのは二年ぶりだ。ずっと聞きたくなかった名前、ずっと言われたくなかった名前。


『檜佐木 修兵』


私が傷つけてしまった人、私の大事な人。私が彼の全てを壊してしまったのに、彼は私を私だと気付かずに笑いかける。しかしそれはあの頃の輝きを失くしてしまった、からっぽの笑顔。それだけ彼の心をボロボロにしてしまったのだ。

この、私が。

「…大丈夫か、お前?」
「あ、はい…平気です…」
「いきなりここに配属って言われたんだよな?不安はたくさんあるだろうけど、頑張れよ」
「…ありがとう、ございます…」
「って事で、俺からは以上だ」

彼はそう言って私の前を後にした。

「では、今日はこれで解散。神風君には、明日から働いてもらう」

東仙隊長が言うと、みんなは散り散りになった。彼もその中に混じってこの場を去る。

「神風君」
「あ…はい、何でしょう?」
「無理矢理この隊に引き入れたことは、本当に済まないと思っている」
「いえ、別にその様な事…もう済んだ事ですし…」
「じゃあ何故君はそんな悲しそうな声で言葉を放つんだい?」
「え…」
「…いや、済まない。きっと急なことだったらか、不安が大きいんだろう」
「…はい」
「仕事は明日からで構わないよ。今日は、後で隊首室に来て欲しい」
「分かりました…」

そう言って、東仙隊長は部屋を出ようとする。

「そうそう、もう少し落ち着いたらで構わないよ。落ち着くまでここに居るといい」
「あ、はい…では、また後でそちらに向かいます」
「あぁ、じゃあ後で」

東仙隊長は私を安心させるかのように笑いかけると、そのまま部屋を出た。私は部屋に一人取り残される。力が急に抜けてしまい、ペタンとその場に座り込んだ。

堪えていた涙が、一筋流れた。

「…修、兵…」

小声で、それはそれは小さな声で、私はその名を呼んだ。あぁ、二年もたったというのに、私はまだこの名を呼ぶことに躊躇いを持たないのか。

涙が伝っては落ちる、それを繰り返す。

私が貴方の全てを奪った人物だと、貴方はそれを知らない。だから私の前で、作り笑いが出来るんだね。

私が貴方の全てを奪い、全てを壊した。優しく、明るく、輝いていたその笑顔さえも、壊してしまった。

「…ごめんね、修兵…」

涙は止まる事無く溢れ出る。二年ぶりに感じた懐かしい貴方の霊圧は、私を怖がらせるだけのものに変わってしまっていた。昔はあんなに安心感があって大好きだった、貴方の霊圧だったのに。

私の恐怖はこれから始まる。貴方という恐怖に怯えながら、私は歩まなくてはならない。



私の目の前にあるのは、貴方という恐怖。
(ねえどうして涙は枯れないの?)


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