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私は 生きていても いいの?
貴方の人生を 踏みにじったのに

私は 今 自分を捨てて 隠れている
貴方の恐怖から 逃げている

私は 今 幸せを装っている
貴方の傍を離れ 偽りの幸せを背負って

だけど 心の中では
いつだって もがいて 苦しんで

だけど 結局 生きている



 ● ●



ここは私が属している三番隊、私が『幸せ』を手に入れた場所。

『幸せ』といっても、『偽り』の。

私は自分で自分の『幸せ』を壊してしまったうえに、自分の大事な人の『幸せ』までも壊してしまった。そしてその大事な人の心は傷付き、私に殺意を抱いてしまった。

まぁ、当然だと思う。大事な人の、希望も、幸福も、笑顔さえも、私は壊してしまったのだから。大事な人の全てを奪ったのは私。のに何の罪も償わないまま私はこの三番隊へ逃げてきた。

私は元九番隊三席で、現在、三番隊の平隊員。この差は何なのか、その全てを知っているのは、私とこの三番隊の隊長、そして『あの人』だけ。三番隊の副隊長は、真実を何も知らないのに、こんな私によくしてくれる。

「蓮華、蓮華ちゃん」
「あ、市丸隊長…何か御用ですか?」
「それがなぁ…仕事頼まれて欲しくてなぁ」
「構いませんよ」
「でもなぁ…」
「どうなさいました?」
「…九番隊へ持っていく書類なんよ」
「え…」
「…アカンよなぁ?」
「…ちょっと…私では、荷が重過ぎるかと…」
「ほな仕方ないな。イヅルでも行かせるわ」
「すいません…」
「蓮華ちゃんが気にするような事やあらへんよ」
「ありがとうございます…。じゃあ、私まだ仕事が残っていますので、これで…」
「あぁ、そやね。忙しいところわざわざありがとな」
「いいえ、では失礼いたします」

私は市丸隊長に一礼して、そのまま隊首室を後にする。三番隊は、とても居心地がいい。私みたいに穢れていても、私を受け入れてくれる。でもそれはきっと、みんな私の事情を知らないから。

もし、私が必死に隠しているこの事情がみんなに広まってしまったら、私はもう三番隊にすらいられなくなってしまう。


私の今の性格は、『暗くて大人しすぎるから近寄りがたい』と、誰もがそう思うだろう、否定はしない。仕事もサボらず毎日真剣に取り組んでいるから。その上、黒く背中まである髪をお下げにしていて、前髪をピンで留めて、黒い四角の眼鏡を掛けている。そんな見た目の地味な女の性格が、『暗くて大人しすぎるから近寄りがたい』なのだ。気味悪がられるのも無理はない。

しかし、三番隊のみんなは、そんな私を認めてくれた。嬉しさもあったが、同時に申し訳なく思った。私のように穢れた女を認めてしまっていいのか、と。三番隊はともかく、他の隊に私が行けば、直ぐに嫌われ、嫌味を言われる。

地味なうえにこの性格だ。私自身、別にその嫌味が嫌なわけではない。それが正しいと思うし、嫌ってくれた方が気は楽なのだ。だから言われてもあまり気にしない。


今でこそこんな嫌われ者な私だが、昔はこんなに暗くなかった。むしろ今とは真逆の性格で、こんな真面目人間ではなかったのだ。こんな眼鏡もしていないし、髪は短い方が楽だと言って肩に掛からない程度まで切っていた。デスクワークが嫌いな私は仕事も毎日のようにサボり、とにかく楽しく過ごせればいいと、そんなタイプの人間だったから。

あの頃の私の性格を一言で言えば『明るくて元気で気の強い女』だと、きっとみんな、口を揃えてそう言うだろう。


どうしてたった二年で、こんなに変わってしまったのか。それは私の過去にある。今はまだ、開ける事が出来ない…いや、触れる事すら出来ないパンドラの箱。私も、市丸隊長も、そして『あの人』も触れられない。

そんな私の、醜い過去。

でも、その箱を開ける時というのは、残酷だけれど必ずやって来るもので…。

私はまだそんな事は勿論知らない。知ることすら許されなかったのかも知れない。唯一の救いは、時が来るのはまだ少し先というだけの事。



だから今はまだ、この『偽りの幸せ』の中で。
(偽りの幸せが今の幸せ)


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