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いつだって笑っていたかった
いつだって傍にいたかった
いつだってみんなでいたかった
そんな思いも叶わぬまま
私は今ここで生きている
必要もなく生きている



 ● ●



次の日、私はもう出勤していた。いつまでもこんなところで寝ているわけにはいかない。溜まった仕事も終わらせないといけないかったし、逃げ回っていてもどうしようもなかったから。

出勤した私に待っていたものは、陰湿な手を使ったイジメだった。

書類の束の間に、鋭い刃が挟まっていたり、持っていたお金がなくなっていたり、全く関係のない盗みの罪を背負わされたり、嫌味や暴言を綴った汚い紙を机にたくさん乗せられていたり。

そんな日々を送り、九番隊に入って日数も過ぎたころ、いい加減イジメにも慣れてきた。慣れというのは、本当に怖い。

そんなとき、長期の任務で現世に行った修兵が帰って来た。私が仕事復帰した日に、修兵は現世に行っていたので入れ違いという形になったのだ。二週間という長いようで短い期間の任務を終えた修兵と私は、また自然と関わりをもつようになる。そして私の悪夢は再び訪れるのだ。

「よう蓮華、久しぶり」
「…お久しぶりです、檜佐木副隊長」
「傷は良くなったか?」
「はい、随分とよくなりました。まだ完治してはいませんが…」
「そうか。仕事とかで困ったこと、あったか?」
「いえ、特にございませんでした。では私はまだ仕事が残っていますのでこれで」

簡単に修兵への挨拶をすませた。必要最低限の会話だけを淡々と済ませておけばいいのだから。これ以上の罪を重ねないためには、これが一番いい方法だ。

「あ〜檜佐木副隊長〜!長期の任務、お疲れ様でしたぁ♪」

遠くで吐き気を催す声が聞こえた。霜月亜季だ。

「ん?おう」
「副隊長は頑張りやさんですもんねぇ♪亜季ちょー憧れますぅ」
「そうか?んじゃ俺まだ報告あるから、またな」
「え〜!?亜季、も〜っと副隊長とお話したいのにぃ〜!」
「仕事が先だ。じゃあな」
「ぶー!じゃあまた今度一緒にご飯でも行って、ゆっくりお話しましょうね♪」
「今度な」
「約束ですよぉ〜?じゃあ亜季はコレで失礼しま〜す♪」

耳をすまさなくても聞こえる、気持ちの悪い甲高い声。修兵はお前なんかに気はないんだよ、と内心思った。だって修兵には大切な人がいるのだから。

いや…いたのだから。

「あ、おい!蓮華!」

霜月が去った後、ふいに修兵に声をかけられて私は振り返る。そして修兵が此方に歩いてきた。

「…なんでしょうか」
「今日暇か?」
「仕事の後に用事は入っておりませんが…」
「んじゃ晩飯、行くぞ」

驚いた。あれほど修兵を避けたのに、嫌われる行動をとったのに。

「…霜月先輩とご一緒しなくてよろしいのですか?」
「聞こえてたのか?」
「先輩がとても大声で話しておられたので」
「んー…まあ俺アイツ苦手だし…大丈夫だろ」
「私なんかよりはずっといいでしょう。人気もありますし」
「可愛い子ぶるやつダメなんだよな。てかお前のどこがダメなのかがサッパリだ」
「可愛くもないですし、明るくもないですし、仕事も出来ませんし」
「俺から見れば大したことじゃねぇけど…まあいいや。晩飯、強制な」
「強制と申されましても…」
「じゃあ終わりの時間くらいに迎えに来るわ」

それだけ告げると、東仙隊長の元へと報告に行ってしまった。思わず溜め息が零れる。まだ私は修兵から離れられないのか、まだ彼は私を嫌ってはくれないのだろうか。



夜になって、私の仕事が終わったころ、修兵は本当に迎えに来た。そして私を連れ町へと繰り出す。修兵がお勧めの店だと言った古びた店に足を踏み入れる。古風で趣きのあるお店だった。

修兵が適当に料理を注文し、料理が運ばれてくる。お互い無言のまま料理に手を伸ばす。

「蓮華」
「なんでしょうか」
「お前、なんでイジメられてること言わなかったんだ?」
「…何のことでしょうか」
「惚けんなよ、コッチはお見通しだ阿呆」

そう言って、修兵は軽く私の頭を小突いた。

「仕事で困った事あるか、聞いたよな?」
「…はい。しかし困ってはいませんでしたし…」
「イジメられて困らねぇヤツなんていねぇだろ」
「私にも非があるのでしょうから…」
「ないな。怪我して仕事休んだのも、大方あいつらのせいだろ」
「そんなことは…」
「嘘つくな。もう東仙隊長も知ってる。でも証拠がねぇから何にも出来ねぇ」

悪いな、と修兵は謝った。どうして私みたいなやつに、こんなに良くしてくれるんだろう。どうして放っておかないのだろう。

「とりあえず、何か証拠を掴むから、それまでにまた何かされたら言えよ」
「いえ、そのときは自分で何とか致しますので…」
「言・え・よ?いいな、絶対だぜ?副隊長直々の命令だ」
「…わかりました」

ここまで言われたら降参せざるを得なかった。溜め息を付いて私は承諾した。何かあっても、とりあえず修兵には報告しなければいいんだから。

私の返事を聞いて修兵は、まあ信用は出来ねぇけど、と付け足した。どうやら私の考えはそろそろお見通しらしい。私はそれを無視して、食事をすすめた。その間、特にお互い会話をしなかった。




夜も更けてきた。食事を終えた私たちは、自室に戻ってきた。帰り道は同じなので、修兵は私を自室まで送り届けた。

「すいません、ご馳走になりました」
「気にすんな」
「…普通は気にします」
「そうかよ。んじゃまた明日な」
「お休みなさいませ」

帰っていく修兵の背中をしばらく見届けて、私は部屋の中に入ろうとした―――



―――刹那、ものすごい殺気を感じあわてて外を見渡す。



殺気のする方へ視線をやると、少し遠くで ニヤリと 怒りと 憎しみを含んだ 笑みが見えた。

「霜月…亜季…」

霜月は表情を崩さぬまま、ゆっくりと後ろを向いた。そして禍々しい空気を漂わせながら帰って行った。



「 殺 し て や る 」



そんな呟きを残して…。



あぁ哀れな獣への制裁は続くのだ。
(逃げ続けた代償は大きい)


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