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気付いたら
そこには『あの人』が居て
気付いたら
『あの人』が笑ってて
そんな夢を 見ていた
それは 一時の 幸せだった



 ● ●



「…ん…」

私が目を覚ましたのは朝だった。体中がひどく痛い。まだ眠りから覚めきらない頭で昨日の事を思い出す。

「…私…あのまま厠で…その後は…?」

うまく働かない頭を必死に動かす。そこへやって来たのは、四番隊の卯ノ花隊長。

「目が覚めましたか?」
「…卯ノ花、隊長…」
「お久しぶりですね、蓮華さん」
「はい…お久しぶりです、卯ノ花隊長…」

昔と変わらない柔らかな表情で卯ノ花隊長は笑う。卯ノ花隊長は『あの人』が勤めていた隊の隊長だ。

「あの…卯ノ花隊長が…私をここへ…?」

私は痛む体を起こして聞いた。

「…まだ寝ていなくてはダメですよ。傷が深いんですから」

卯ノ花隊長は私を助けた人の名を言おうとはしない。

「お願いします、卯ノ花隊長…教えて下さい…」
「…」
「誰が…誰が私をここへ連れてきたんですか?」
「…」
「……修兵、ですか…?」

それでも卯ノ花隊長は教えてくれない。そんな卯ノ花隊長を、真っ直ぐに見つめ続けていると、彼女は諦めたように溜め息をついた。

「…檜佐木副隊長ではありません、それは本当です」
「じゃあ…じゃあ誰なんですか!?」
「…」
「私、修兵以外の人で思いつくのってギンくらいしか居ませんけど…」

そこで一旦言葉を切る。

「でも…ギンじゃない気がするんです…」
「…蓮華さん、もうこの話は終わりましょう?」
「いやです…教えて下さい…だって、もし修兵に私の正体が知られてしまったら…」

もし、その人が私の正体を知ってしまったら、修兵に知られるのはもう時間の問題だ。

「…聞けば、貴方が辛くなる。私はそう思うのです」
「え…」
「だから、言えません。分かって下さい蓮華さん…」

その人の正体を知って、私が辛くなる?

「…誰、なんですか…?」

押しに押して、卯ノ花隊長はようやく口を開く。

「…その人は古くから貴女のことをよく知っています…今の貴女のことも」
「え…」
「そしてその人は貴女に好意を寄せていた」
「……ま…さか……」

私は四番隊舎を飛び出した。このとき、頭で思うより体が先に行動していたにも関わらず、体の痛みなんてすっかり忘れていた。

私は知っている。卯ノ花隊長が言っていた人物を。私みたいなヤツに、好意を寄せていた人物を。



―――俺、お前の事好きだから



今もまだ、ハッキリとこの言葉を覚えている。二年前、あの事件より半年ほど前に言われた言葉。



―――…ゴメン、無理っぽいや!



私が傷つけた。あれほど優しさを貰ったのに、あれほど大切に想ってくれてたのに。こんな軽い言葉で傷つけた。

本当は気まずいし会いたくなんてない。確かに今会ったら私は辛い思いをするだけだ。だけど少しでも早く会いに行かないと。

ちゃんとお礼を言わないと…


私は我を忘れていたので、傷の深さなんてお構いなしに瞬歩を使っていた。屋根を通って、目的の隊の隊首室付近まで来れたとき、やっと自分の傷の痛みを思い出した。私は苦しいのも痛いのも必死に堪え、強引に窓から侵入する。さすがにその行動にはビックリしたらしく、驚いた表情で私を見る、二人の人物。

十番隊隊長、日番谷冬獅郎と、十番隊副隊長、松本乱菊さんだ。

「蓮華!?アンタ何でここに…!?」
「…お久し…ぶりです…乱菊さん…」

あれだけの傷を負って瞬歩を使ったため、息がかなり荒い。そんな私を見て乱菊さんは慌てて水を出してくれた。それを一気に飲み干す。

乱菊さんも私の正体も知っている人物の一人だ。ギンつながり、というのもあるだろうが、勘のいい乱菊さんは私を見かけた時から気付いていたらしい。

そして―――――……

「…冬獅「何の用で来た?」
「…私を助けてくれたのって、冬獅郎だよね?」
「知るか」
「嘘つかないでよ…生かしてもらえたこと、ありがたく思ってるんだから」
「本当にそう思ってるんだったら、いい加減檜佐木に白状しろよ」
「…相変わらず厳しいね、冬獅郎」

二年前から何にも変わってない。彼はきっと、このままでいいんだ。

私と冬獅郎は昔から仲が良かった。私の正体を冬獅郎が知っているのは乱菊さん同様、勘らしい。私を見た瞬間から私が『蓮華』だと気付いたのだ。

そして冬獅郎は、こんな愚かな私に好意を寄せていてくれた。でも私はそれを受け入れられなかった。恥ずかしくて、頭の中混乱して…なんて言い訳をして軽く流してしまった私は、本当に最低な女だ。

「…白状出来たらこんな苦労してないよ」
「お前…本当に変わったな」
「人間変わるもんだよ、たった二年で」
「変わりすぎだろ、いくらなんでも」
「変わらなきゃ…ダメだったんだもん」
「もうお前は俺の知ってるお前じゃねえな」
「…そうだね」
「…俺が惚れてたお前じゃねえ」
「…そう、だね…」

冬獅郎はさっきから一度も私の目を見て話さなかった。仕方ないことだって理解はしてる。だって、私が彼を失望させてしまのだから。

「…とりあえず、お礼だけ言いに来た…ありがとね」
「俺は何もしてねえよ」
「ホント…冬獅郎は何にも変わんないね。良かった」
「…」
「じゃ…私もう行くね。乱菊さん、お邪魔しました」

私はそのまま隊首室を出て行こうとする。…出て行こうとしたのに、私はその場に倒れてしまった。

「蓮華!?」

乱菊さんが驚いた顔をして駆け寄ってくる。冬獅郎も険しい顔で此方へ来た。

「アンタ大丈夫!?」
「あ、はは…平気です、このくらい…もう仕事行かなきゃ…」
「馬鹿!この状態で何仕事なんて言ってるのよ!」
「でも…また東仙隊長たちに怒られるのやだし…」
「ガラでもないこと言わないの!今日はもう四番隊に居なさい!」
「でも「俺が四番隊まで送る。松本、ちょっと仕事頼む」

そう言って冬獅郎は私をおぶった。痛みのせいか、頭が上手く回らないので何が何だか分からない。

「とう、しろう?」
「悪ィな松本。行ってくる」
「蓮華は怪我人なんですから、あんまり傷に響く事はしないであげて下さいね」
「そのくらい分かってる」

冬獅郎は滑らかな瞬歩で私を四番隊まで連れて行った。傷に響かない、本当に滑らかな瞬歩で。




あっという間に四番隊についた私は、こっぴどく卯の花隊長に叱られた。私が叱られてる間に冬獅郎はもう居なくなってしまっていたけれど。

「まったく…後先考えず行動するのは変わりませんね」
「…そうですか?」
「こんな傷を負ってるのに、ここまで無茶するのはあなたくらいですよ」
「…無茶ですか?」
「この傷で瞬歩を使っておいて、無茶ではない、と?」
「…無茶でした、すみません…」

素直に謝ると、卯ノ花隊長はクスクスと笑った。

「もう九番隊には報告を出してありますから、今日はゆっくりお休みなさい」
「昔からいろいろすみません…」
「そう思うのならもう少し自分を大事になさい」
「…スイマセン」
「傷も癒えていませんし、疲れているでしょう。もうお休みなさい」
「…はい」

卯ノ花隊長にそう言われ、私はそのまま眠りについた。



助けられてばかりの私は弱い獣。
(私は誰も救えなかったのに)


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