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捕まってしまった
とうとう捕まってしまった
私はもう 囚われた獣
逃げる事なんて出来ない
反抗すれば
殺される
逃げ場はすでに 塞がれた
● ●
「…何を…する気ですか…!」
どうやら床に倒されたときの打ち所が悪かったらしく、痛みで上手く起き上がれない。この状況でそんな状態じゃ、かなりまずい。
「何する気ですってぇ?簡単じゃない♪」
霜月はケラケラと高笑いする。私の姿を楽しそうに見ながら、醜い高笑いする。
「チョ〜ット痛い思いするだけよ♪」
「そーそー!チョ〜ット今よりぐちゃぐちゃな顔になるだけ!」
「神風みたいなブスなら、逆に可愛くなっちゃうかも?」
「あはははっ!超ウケる〜!」
四人は私をおもちゃを見るような目で見る。役に立たない邪魔なおもちゃを壊す、そんな状況。
「さぁ…立ってよ、神風サン♪」
霜月は私の髪を掴んで強引に引っ張る。そして私を立たせると、四人のうちの二人が抵抗できないように私を押さえ込む。そして、残った一人が私を殴る蹴るの暴行を始めた。時には壁や地面に叩きつけられる。霜月は笑って見ているだけ。
厠に鈍い音が響き、床や壁には、血が飛び散る。私は抵抗しなかった。
抵抗なんてしようと思えば簡単に出来る。こんな奴等なんか、本気を出せば一人一秒で殺せる自信があった。
でもしなかった、しちゃいけないから。もし此処で私が抵抗したら?そんなのどうなるかなんて分かってる。私の霊感に気付いて、修兵や他の隊長達が来るに決まってる。それだけは、何としてでも避けたかった。
どれだけ時間がたっただろう?
もう痛みさえ分からないほど、体がおかしくなっている。私の体はゴミを投げ捨てるような感覚で、床に叩きつけられた。そんな私を、嬉しそうに見つめる霜月たち。
「いい眺め〜♪」
霜月が嬉しそうに言う。
「どう亜季?ここまでやれば十分じゃない?」
「そうよ、これ以上やるとさすがにヤバそうだし」
「もう夜になって来てるよ。誰か来ちゃったらマズイじゃん?」
他のメンバーは少しやりすぎたという自覚もありどうやらもうこれで終わりたいらしい。私もそうしてくれるとありがたい。
「そぉねぇ…」
霜月は考え始めた。目がかすんでよく見えなかったが、薄気味悪く笑った顔がぼんやり映った。
そして霜月は言った。
「これじゃあまだまだ足りないわぁ♪」
他の三人は驚きを隠せないらしい。
「え…ちょ、亜季…それはホントにマズイってば!」
「そうよ!誰かが通ったりしたらどうすんのさ!」
「亜季、今度でいいじゃん!ね?」
「五月蠅い」
いつもの霜月の声ではなかった。これが本当の『霜月亜季』なんだろう。他の連中も見たことのない霜月を見て怖がっている。低く、冷たい声。
「で、でも亜季…」
「亜季に逆らうの?」
「そういうわけじゃ…」
「ホントに…やめとこうよ、亜季…」
「ふーん…」
「…アンタたちも同じ目にあいたいの?」
霜月が発した言葉を聞き、もう誰も反抗しようとはしなかった。
「…それでイイのっ♪もう亜季に逆らっちゃダメよぉ?」
さっきとはまるで別人。その霜月の変わりように怯える彼女たちから、ひしひしと恐怖感が伝わってくる。
「さぁてと…」
霜月は私に目線を戻す。
「お待たせしました神風サン♪最後までお祭り…楽しんで行ってね?」
そう言って霜月は、自分の斬魄刀を…抜いた。
「…!?」
「神風サン…背中、貸して?」
驚いた、本気で私を切るつもりらしい。他の連中は怖がって声も出せず、震えていた。
「ねぇ…亜季のタメに背中貸してよ?」
――――怖い
こんなに恐怖を感じたのは、あの日以来かもしれない。背中なんて貸したくもないし、まして思うように体が動かないんだから立てるわけがない。
「亜季の言う事…聞けないの?」
霜月から笑みが消えた。
「…みんなぁ、このブス立たせてくれなぁい?」
「あ…亜季…?」
「立たせて?大丈夫よ、亜季が斬るから…ね、立たせてくれるよね?」
「―――――っ…」
連中は怖がって何も言い返せないでいた。そして三人が私を立たせる。
「…悪く思わないでよ…アタシらだって自分の命の方が大事なんでね…」
三人のうちの一人が私にそっと耳打ちした。そしてその直後、耐え難い痛みが背中に感じられる。
ザシュッ
肉が切れる音がした。なぜか悲鳴すらあげられなかった。背中から、勢い良く血が溢れ出すのが嫌でも分かる。
「ヒ…っ!」
三人は恐怖のあまりか、思わず私から手を放した。
「…まだ…足りないわぁ…」
霜月はそう言って、倒れている私に斬魄刀向け、私の肩を刺した。肩からも血が流れ出す。
「亜季…もぉ…やめて…っ」
「これ以上は…ホントに…」
「ホントに…死んじゃう…」
「こいつのこと死ねばいいって言ってたのは誰なのぉ?」
霜月は不気味に笑う。
「まぁ、みんながそこまで言うんならぁ亜季やめてあげてもいいよぉ?」
にっこりといつもの笑顔で笑う霜月。霜月は斬魄刀を鞘にしまうと、バケツに水を入れ始める。
「祭りの後は…お掃除しなくちゃ、ね?」
私の頭に冷水が勢い良くふりかけられた。空になったバケツは、私の頭に投げつけられる。霜月はキャハハハと奇声を上げ厠を出て行く。他の連中たちも、強張った表情でそれに続いた。
私はもうほとんど意識が残っていなかった。死ぬのかな、ぼんやりとそう思った。もう先程の恐怖心も薄れ、何故か死ぬのが怖いと思わなかった。
―――今、そっちに行くよ。
ただそれだけ思ったのを、はっきりと覚えている。そして私は、朦朧とする意識に逆らうことなく目を閉じた―――
「…ぃ…ぉぃ……おい!!」
声がした。私はそれに気付きそっと目を開ける。ああまだ生きてるんだ。相変わらずしぶとい女だな、私。
「おい、お前!大丈夫か!?」
「…しゅ……へ……」
誰かは分からなかった。でも無意識のうちに名前を呟いていた。『修兵』と―――
けれど、それは修兵じゃなかった。それに気付いたのは、朝四番隊で目が覚めてから。
私の制裁は、これで終わったの?
それともまだ続くの?
私は捨てられた、用のない嫌われた玩具。
(壊れた玩具は捨てられる)
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