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心にもう一度鍵をかけて
これ以上 気を緩めてはいけない
いくら彼が 私に近づいてきても
私がそれを拒絶しなくては
じゃなきゃ 彼も私も苦しいから



 ● ●



翌朝、誰よりも早く私は九番隊の隊首室前に来ていた。昨日の事を謝らなくてはいけない。

「…おはようございます、東仙隊長」
「神風君かい?」
「はい、朝早くに申し訳ありません。入っても宜しいですか?」
「あぁ、入りたまえ」
「失礼致します」

私は隊首室に入った。二年前は、よく此処で東仙隊長に遊んでもらっていたものだ。そんな懐かしいことを思い出しかけて、やめる。鍵をかけたのだ、優しい思い出はもういらない。

「…昨日の事について、謝罪に参りました」
「…そこに座りなさい」
「失礼します」

東仙隊長に言われた通りイスに座った。東仙隊長と向かいあって座っている状態で、少しの沈黙。

「…まず、昨日君は何処に居た?」

東仙隊長が口を開く。

「…朝、早めに九番隊の詰所に来ました。でも逃げ出してしまいました」
「それは何故?」
「副隊長に会いました」
「それだけか?」
「私は副隊長が苦手です。だから怖くなって、思わず逃げ出してしまいました」

半分は、本当。そして半分は、嘘。青い目を見られるのが嫌だった、とは言えなかった。もしかしたらばれてしまうかもとは思っていたが、それでも嘘を貫き通す。

「…その後は何処へ?」
「三番隊の隊首室に行きました」
「何をしていた?」
「泣いていました。そこへ市丸隊長が来て、傍にいてくれたんです」
「…」

東仙隊長は何も言わない。私は残りの出来事を、すらすらと話していった。

ただ一つ、『あの人』の墓に行った事以外の事を、全て。

「…そして今日ここに謝罪に参った次第です」
「…そうか」
「昨日は、本当に大変な事をしてしまったと自覚しております」
「…」
「本当に申し訳「よし!じゃあ今日から張り切って仕事をして貰おうか」

あまりに明るい声で謝罪の言葉を遮られ、思わず私は顔を上げた。

「え…?」
「檜佐木からも君の件については報告を受けている。君のことは彼に一任しているし、彼なりに責任もとってくれるとのことなので、昨日の件は不問とする」
「え…責任…て…」
「責任といっても大したことじゃない。君が気にする必要はないよ」
「で、でも私のせいで副隊長になにか処罰が下るというのは、よくない、と思います…」
「……なるほど」

東仙隊長は笑みをたたえたまま、意味深に頷いた。その真意が読めない私は、多分とても情けない顔で東仙隊長を見つめているのだろう。

「…昨日君に任せようと思っていた仕事を彼が仕上げてくれた」
「…は…」
「責任をとってもらっただけだが?」
「…」

なんだかうまくはめられたような気がしてならなかったが、別に処罰的なものではなかったらしく、少しだけ胸をなでおろす。これで降格だなんてなったときには私が首をつるしかない。

「はい…ありがとうございます」
「じゃあもう仕事に行っておいで」
「はい、失礼致しました」

私は隊首室を出て、自分の机に向かった。

自分の机に向かってそのままみんなに挨拶していく。みんな不思議そうに私を見ていた。朝から一人ひとりに挨拶していくだなんて、変な奴だな、そんな目で。

隊首室を出る時、東仙隊長に渡された書類を終わらせるため、私は自分の机に座り、そのまま筆をすべらせる。ふと、辺りを見回す。

おかしい、修兵がまだ来ていない。少し不思議に思ったが、居ないのはこちらにとっては好都合だ。少し気を落ち着かせる事ができた私は、黙々と仕事に集中した。



「…ねぇ亜季、あの新入りなんかキモくない?」
「そうねぇ…確かにキモち悪いわぁ。亜季あーゆーの超ひくー」
「しかも、檜佐木副隊長が世話係なんでしょ?」
「えぇ!?嘘っ!!亜季の大好きな檜佐木副隊長に!?」
「わざわざ世話してもらうとか…なんか優遇されてない?ありえないよねー」
「…亜季、もう怒った…っ!新入りのくせに檜佐木副隊長に易々近付くなんて許さない…」

そう、私は気付かなかったのだ。女の四人組が、私に目をつけていた事を。そして、私の悪夢は、この日を境に、さらに恐ろしいものに変化を遂げる。



昼休み、まだ仕事が少し残っていたので、終わってから食事にしようと思っていた私は、まだ書類と向かい合っていた。そんな時だった。

「あー、居た居たっ!!神風さーんっ♪」

甲高い声が、詰所に響いた。私が二年前から嫌っている、平隊員の『霜月亜季』だ。

いつもぶりっ子で四人で固まって行動している、そのぶりっ子の集団のリーダー的存在。二年もたったのに、まだ全員平隊員とは情けない、九番隊の恥さらしだと真剣に思う。

…まあ、私が言えた義理ではないけれど。

「…何の御用でしょうか、霜月先輩」
「やだあ〜霜月先輩なんて堅苦しく呼ばないで♪亜季でいいよっ!」
「…しかし先輩ですので…」

なんとなく、嫌な予感がする。

「えぇ〜?亜季でいいのにぃ〜」
「それより何の御用でしょうか」

霜月の話を軽く流して問えば、霜月はひどくつまらなさそうな顔をした。

「むぅ…まぁ、いいや。ね、お昼一緒に食べないっ?」
「…?」

まさかあの霜月がこんな地味な女に声をかけるなんて、まずありえない。怪訝に思って、誘いを断る。

「仕事が終わるまで食べないと決めていますので…遠慮しておきます」
「そんな堅い事言って〜食べようよぉ〜」
「誘っていただいたのは有難いんですが、まだ仕事があります」
「…もしかしてぇ…亜季たちと食べたくないの?」
「そういうわけでは…「神風さん…ひどい…!」

突然霜月はわなわなと震えだした。

「どうしてそんなこと言うの…どう、して…!」
「な、にを、」
「ぅあぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

すると突然、霜月はわんわんと泣き出した。

「亜季っ!?どうしたの!?」

すると詰所にたくさんの人がやってきた。九番隊の人から、近くにいた他の隊の人まで。

「ぅ…ひっく…神風さんがぁ……」

泣きまねをする霜月。私を睨みつける他のギャラリー。

「一緒にご飯食べよって…誘っただけなのにぃ…ぅぅ…」
「どうしたの亜季!?何か言われたの!?」
「いきなり…いきなり…」





私に話しかけんなブスって…」
「うっそ!?」

更に私を睨みつけるギャラリー。そしてみんな、心配そうに霜月の周りに集まる。

一応、霜月は可愛いで有名。みんな性格を知らないからバカだと思う。でも可愛いと有名になったのも最近の話だ。昔は霜月なんかじゃ足元にも及ばないほどの人が居たから

そう…二年前までは。

「神風…アンタって最低!」
「亜季にブスとか…ただの僻みじゃん。亜季、気にすることないからね?」
「アンタみたいに輪を崩そうとするやつが何でこの隊に来たのか全然わかんない。さっさとどっか移動すりゃいいのに」

そうして、他の連中は霜月をなだめ、詰所を出て行った。出て行く際に霜月がコッチをみて笑っていたのを知っているのは、恐らく私だけだ。他のギャラリーも私を睨みつけ、霜月を心配そうに見て散り散りになる。



そう…これが今からおこる悪夢の始まり…
九番隊、修兵、霜月亜季…
私の本当の苦しみは、ここから始まった



汚れた獣が制裁されるのはこれから。
(まだ悪夢は始まったばかり)


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