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甘く見ていた
九番隊を甘く見ていた
もう私は 三番隊に頼れない
だって 私は嫌われ者だから
三番隊の人たちに 迷惑はかけられないから
だから一人で立ち向かおう
あの 大嫌いな集団に



 ● ●



夕方、私は仕事を終え自室に向かった。私を見かける全ての人々は、みんな嫌そうな顔をする。昼間の事件があったからだろう、噂というのは広まるのが早い。

「はぁ…もう最悪…」

独り言を呟きながら自室に向かう。人とすれ違うたびに聞こえる悪口。

―――あれが亜季ちゃんにブスって言った子?
―――醜い僻みだよね
―――キモイ
―――最低
―――死ねばいいのに

でも、きっと、それで良かった。嫌われれば、みんなに避けられるから。一人孤独な毎日の方が、ずっと、楽だ。

私が自室の前に着いたとき気配がした。鍵が壊されている。確実に誰かが中にいるということ。そしてそれが誰かなんてすぐに分かる、良く知ってるから。

自室の扉を開ければ、そこには……

「こんばんわぁ神風サン♪」

霜月亜季とそのメンバーが、私の部屋に、居た。相変わらず分かりやすい、気持ち悪い気配を充満させている。

「今日は大変だったわねぇ、神風サン」
「ホントホント!ほとんどの隊から嫌われてるんだもんねー」
「あははは!!!チョーうける!!」
「マジあの時の顔最高だったよー!かなりビビってたもんねぇ?」

…ビビってねぇよ。

「ねぇ、神風サン。亜季たちぃ、アンタが超キライなのぉ」

だから、何?

「しかもぉ、亜季の檜佐木副隊長にベタベタしてさぁ?」

修兵にベタベタした覚えは一切ない。しかも彼はお前のものでは、ない。

「だからさぁ、亜季たちの気に障る事しないでくれるぅ?」
「…私は仕事をしていただけですが、それが気に障ったとでも?」
「そ、気に障るのぉ。アンタが生きてること自体不愉快よ」

私もお前が生きてることは不愉快だ。

「…だからどうしろと?」
「消えてよ」
「…」
「んー?怖いのかなあ?」

私は黙って、こいつの馬鹿な話を聞いていた。鼻で笑いたくなる。

「アンタみたいなやつに生きてる価値ないんじゃない?みんなに嫌われてさあ。だからぁ、消えてくれる?」

お前が消えればいい話だろう。

「消える勇気もないのかな?じゃあ亜季がお手伝いしてあげよっか?」
「…」
「ねぇー、何か言ってよぉ神風サン?亜季また泣いちゃうよ?」

クスクスと居心地の悪い笑い声。二年前から一切変わってないこの気持ち悪さ。九番隊の恥さらしという自覚を持って欲しい。

「あーあ、神風サンってば亜季が怖くて何も言えないのねー?」

お前なんか一秒で殺せる。

「ねぇ神風サン、提案があるんだけど…聞いてくれるよねっ?」
「…」
「これから檜佐木副隊長に近づかないでくれたらぁ…まぁ…仕方ないから多少は許してあげる♪」

お前は修兵のなんだっていうんだ。

「あ〜んっ!もう亜季ってば超優しい〜!」

平隊員が…元三席なめんなっての。

「ね、亜季のお願い…引き受けてくれるぅ?」
「お断りさせていただきます」

私はキッパリとこう答えた。霜月たちは酷くつまらなさそうに顔を歪めた。

「そろそろ自分の事に手をつけたいので、どうかお帰り下さい」
「何その言い方…亜季ムカついた…っ!」
「私を嫌ってくれるのは一向に構いませんが、今は忙しいのでお帰り下さい」

そう言った途端、いきなり四人は立ち上がり部屋を荒らした。そして入り口にいる私を押しのけて言った。

「…亜季を怒らせた事…後悔しなさい…っ!」

そうして霜月たちは廊下に八つ当たりしながら帰っていった。

「ったく…こんなに荒らして…」

私はすっかりぐちゃぐちゃに散らかってしまった部屋を片付け始めた。


数十分後、部屋は大分片付いた。私は風呂に入ってそのまま夕飯の支度。一人黙々と夕飯を食べていく。

昔ならここには修兵と『あの人』が居て、修兵と言い争いしながらうるさくご飯を食べて。そして『あの人』を困らせていた。

「…なんか懐かしいなぁ…」

一人ポツンと呟いた独り言。

「何が懐かしいんだ?」
「!」

どうやらそれを、今日一日詰所に居なかった修兵に聞かれたらしい。

「…今日は顔合わせは初めてですね、こんばんは」
「うわぁなんかいちいち余計…」
「他者の部屋に入るとき、声くらいかけて下さい」
「へいへい、すいませんでした」
「…で、何の御用でしょう?」

修兵は遠慮なく私の隣に座る。こんな所を霜月に見られたらどうすればいいんだ。

「まぁ特に用はねぇけどよ…今飯か?」
「…ご覧の通りです」

用もないのに何で来たんだ。すると修兵はいきなり私のおかずをつまんだ。

「あ!」
「…お前、料理下手だな」
「…勝手に食べておいて文句言わないで下さい」
「何だよ、虚退治終わってから、気になって真っ先に来てやったのに」
「虚退治だったのですか」
「何?心配でもした?」
「いえ、一日詰所に居なかったから不思議に思っただけです」
「…あっそ」

無愛想に、無愛想に。ただそれだけ。嫌われたいだけ。

「はぁ…お食事中お邪魔しました」
「いえ…」
「ま、元気そうだし安心した。んじゃな」
「…お休みなさいませ」

修兵は出て行った。私は、ほっと溜め息をもらす。今日はなんとか、笑わなかった。無愛想で近寄りがたいイメージを貫いた。

「…ごめん…修兵」

私にはこんなやり方で貴方から逃れるしかないの。でも、もう許されてもいいかなって、笑ってもいいかなって。そんなあり得ないことを願って、甘えてしまっているのも事実。


私は、一体今何を望んでいるのか
自分でもそれが分からないんだ
自分でも分からないのに、誰が教えてくれるんだ



私は『自分』を忘れた愚か者。
(許されたい、貴方に)


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