09 ギンside(11/35)


ボクは君に 何してあげられる?
ボクは君を どう慰めたらいい?
君の重い過去を どうやって軽くしてあげたら?
君の辛い過去を どうやって楽にさせてあげたらいい?
ボクは君を どうやって救ったらいい?
君を守るのが ボクの使命で アイツとの約束やのに…



 ● ●



「…いきなり檜佐木くんとなぁ…それは辛いなぁ」

ボクは蓮華ちゃんの話を、ただ聞いてあげることしか出来へんかった。どうやって楽さしてあげたらええんか分からんかった。自分が情けないと思うわ。

「ギン…私、辛いや」
「…ボクがもっと粘っとけば良かったなぁ」
「ギンは悪くないよ。東仙隊長も、修兵も…誰も悪くないの…」
「蓮華ちゃん…」
「悪いのは全部、私だよ…」
「蓮華ちゃんのせいやない。二年前のあの日かって、アイツの願い聞いただけやろ?」
「そうだよ。でもあの時…私が他の手段を選べていたら、こんな結果にはならなかった」

この子はホンマに優しい子、心の澄んだ綺麗な子。せやのにこの子は、あの日以来いつまでたっても自分を汚いと言い張る。そらあんな事があったし、そう思ってもしゃーない。ボクは事情を知ってる以上、この子を責める事は出来へんねんから。ボクに出来んのは、ただこうやって話を聞いて、傍におったる事だけや。

蓮華ちゃんはまだ泣いとった。不謹慎な話、青い瞳から流れてくる涙はホンマに綺麗で、文句のつけようがなかったわ。でもやっぱりこの子の涙見んのは辛いから、思わずこう言ってもうた。

「蓮華ちゃん、このまま三番隊に戻ってくるか?」
「え…」

流石に驚いたらしい。まぁ、そらそうや。ポカーンとした顔で蓮華ちゃんはボクを見る。そして申し訳なさそうにこう言うた。

「ありがと。でも無理だよ…」
「何でや?」
「だって…私がここに居れば、ギンたちに迷惑掛かっちゃうもん」
「そんな事あらへんよ」
「だって隊首会の決定覆しちゃうって事なんだよ?」
「ボクはそんな事気にせぇへんよ?」

この決定は覆されへんと、確かにボクは自分でそう言うた。でもまさか蓮華ちゃんがこんなにしんどい思いしてるなんて知らんかったから。少しでも蓮華ちゃんが楽になるんやったら、ボクはどうなろうがそれでいい。

「まさか檜佐木くんが面倒みることになるなんてボクも思ってなかったからな、ボクの想定ミス。せやから蓮華ちゃんが望むなら隊首会の決定力づくでも覆すよ」
「無茶言わないでよ…」
「蓮華ちゃん守る事がボクの一番の仕事やからね」

ニッコリ笑ってそう言ったら、蓮華ちゃんはまた苦笑いした。

「ちゃんと普通に仕事しないとイヅル倒れちゃうよ?」
「今はイヅルより蓮華ちゃんの方が大事や」
「私は大丈夫だよ」
「大丈夫ちゃうから、こうやってここに来たんやろ?」
「…」
「だいぶ疲れとるみたいやし、ゆっくり休み」

嘘つくん下手くそで強がりで、ほんま可愛らしい子や。でもちょっとは人に甘えたり頼ったりすること思い出さなアカンな。サラサラの細い綺麗な髪を撫でたると、一気に疲れが押し寄せたんか、蓮華ちゃんは直ぐに眠りについた。



蓮華ちゃんが眠り始めてから結構時間がたった。ボクは蓮華ちゃんの傍を離れへんかった。

まあ当然やろうね。アイツに「蓮華ちゃんはボクが絶対守る」って言うてもうたし。実際そのボクの言葉に偽りはないし、この子はボクにとっても大事な子や。こんな事言うんはガラちゃうけど、この子だけはまっすぐに、守ってあげたい思うんよ。

そんな事考えとったら、扉の前である霊圧を感じた。蓮華ちゃんも、アイツも大好きやった、この霊圧。

―――九番隊副隊長、檜佐木修兵。

少し間があいて、扉を叩く音がした。

「失礼します」
「誰やー?」
「九番隊副隊長、檜佐木修兵です。入っても宜しいですか市丸隊長?」
「んーええよー」

誰が来たかなんてほんまは分かってたけど、あえて知らんフリをした。

何でかって?そんなん簡単や。

ボクはコイツが大嫌いやから。

「失礼します、市丸隊長」
「ん、で?何か用?」
「神風蓮華を引き取りに来ました。…彼女を起こして下さい」
「そんな可哀想な事、ボクには出来へんわぁ。こんなに気持ちよさそうに寝てんのに」

…コイツはいつでもそうや。蓮華ちゃんの身になんかあるんが嫌やから、こうやって探しに来る。そのくせ守りきれたこと、一度でもあったか?結局アイツさえおればそれで良かったんやろ、君は。例えそうじゃなかったとしても、アイツと蓮華ちゃんを天秤にかけたら、君は迷いもせんとアイツを選ぶんやろ?

そして蓮華ちゃんもそれを分かってた。それでいつも蓮華ちゃんが寂しそうにしてたんを、ボクは誰よりもよう知ってる。

だから、ボクはコイツが大嫌いや。守る守るは口だけで、一番近くにおったくせに取り巻く異変に気付きもせんと、恨みや憎しみを抱いて生きる、コイツが。はっきり言って、鬱陶しい。

「なら俺が起こします。ご迷惑をおかけしました」

俺が起こす?ふざけとるなぁ、残念ながら、今の君に蓮華ちゃんは渡したらアカンねん。ボクは近寄って欲しくないから思わずこう言った。


「それ以上近づいたら殺すよ、檜佐木クン」


ボクは檜佐木クンにだけ殺気を放った。この状況で蓮華ちゃんが起きたら困るどころの騒ぎやない。

「ですが市丸隊長…蓮華は俺の隊の隊員ですので…」
「やから何なん?他の隊に遊びに行ったらアカンとでも言うん?」
「…そういう…わけでは…」
「ならええやん」

ボクは笑顔でそう言うた。

「…ならせめて、起きたら九番隊に帰るように伝えて下さい」
「そんな約束したトコでボクがそれ守るとでも思う?」

檜佐木クンは、何も言わんと俯いた。こういうところも嫌いやね、はっきりしてほしいわ。

「なァ、檜佐木クン」

自覚がないんなら教えたる。

「…なんですか?」
「君、蓮華ちゃんに避けられてるって自覚してる?」

まぁ、コイツの返事なんて分かってるけど。

「…自覚はしてます…でも、コイツは俺の隊の「そんなん唯の言い訳やん」

ほらやっぱり「自分の隊の子」やからって言い訳する。正直に言えばええのに。

どうせ君、

「この子が二年前の神風蓮華に似てるから気になってしゃーない、そうやろ?」

面倒みるなんて口実で、押し殺した憎しみをもう一回思い出すためだけに蓮華ちゃんを利用してる、ボクにはそうとしか思えん。自分で決めて塞いだ気持ちやったら、何があってもそのまま塞いどき。君の「優しいフリ」は、こうやってこの子を苦しめるだけや。

「そんなんじゃ…」
「あんなァ、蓮華ちゃんは二年前のあの子とちゃうで?」
「それは、分かってます」
「分かってないからこうやって蓮華ちゃんを追い回すんやろ?」

また俯いてモノ言わんようになった。男気のカケラもあらへん。

「図星やね?」
「…」
「いつまで過去に囚われてるん?君もアホやなあ」
「…」
「そんな後ろ向きで弱々しい君見たら、絶対アイツ大泣きして悲しむで」
「…っ、」
「帰ってくれる?蓮華ちゃんが起きるやろ?」

檜佐木クンは、何も言わんとそのまま隊首室を出た。

そう、これでいい。ボクは檜佐木クンを嫌って、檜佐木クンはボクを嫌えばええんや。そうせんと蓮華ちゃんを守れんから。

ボクらが嫌い合ったら、蓮華ちゃんは必ずボクのところに来る。そうすれば蓮華ちゃんを傍に置いて、自分の手で守れる。

「…ごめんな蓮華ちゃん…」

ボクはそっと蓮華ちゃんの頭を撫でた。柔らかい髪が心地よかった。

「ボク、こんなやり方しか出来へんねん…」

こみ上げる感情を堪えるかわりに拳を強く握れば、ポタポタと赤い水滴が床を濡らした。



それから暫くして、蓮華ちゃんが目覚ました。誰か迎えに来なかった?と何気なく聞かれて内心焦ったけど、誰も来うへんかったと嘘をついた。嘘は十八番や、でも、蓮華ちゃんに嘘つくのはどうも胸のあたりが痛い。

その後、蓮華ちゃんの気晴らしになればと思ってお昼に連れて行くことにした。三番隊に居る時もボクやイヅルとご飯食べてる時は、少しだけやけどホンマの笑顔見せてくれたから。

ただボクは笑って欲しかった。

―――だけやった。

ボクのこの選択が蓮華ちゃんを苦しめることになるなんて、このときは思ってもみんかったわ。



行き付けの店に蓮華ちゃんを連れて行った。薄暗くて小ぢんまりした小奇麗な店で、何故か妙な安心感があるそんな空間。ボクは奥の方の席に行こうと足を進めた。やけどそこで、一番会いたくない奴に会ってしまった。

そう、檜佐木クンや。

ボクはこのままこの店を出ようとしたけど、それは少しだけ遅かった。擦れた声で、蓮華ちゃんが声を上げる。


「…しゅう、へい…」


蓮華ちゃんが檜佐木クンの存在に気付いてもうた。気付かれずに店を出ようと思っとったのに、それは叶わぬ願いになった。振り向いた檜佐木クンは一瞬目を丸くした後、次第にその瞳に怒りをにじませていく。

「蓮華…に、市丸隊長…」
「さっきぶりやねぇ、檜佐木クン」

こういう状況であっさり逃がしてくれるほど楽な相手でもない。ここは突っかかってくるであろう厄介で面倒な相手が引くんを待つしかなかった。

「何で蓮華を連れてるんですか?」
「ボクの隊の子やで?ボクが連れまわしたってええやないの」
「それは過去の話ですよ、今蓮華は九番隊の隊員なんです」

檜佐木クンは立ち上がってこっちに歩いてくる。

一体君は何様や?
何を気取っとるんや?

ついつい苛立ちを募らせていると、ふと耳に入った蓮華ちゃんの小さい声。

「どう…しよう…」

ちらっと蓮華ちゃんを見下ろすと、焦った様子で自分の顔を覆っている。あぁ、あのメガネ置いてきてしもたんか、すっかり忘れとった。

気付いてやれんかった自分にも苛立ちながら、少しでも壁になれるように蓮華ちゃんを完全に背中に隠す。
ボクの背中にすっぽり隠れてしまうくらいの小さい体は、ひどく怯えていた。

「蓮華、出て来い」

アイツがおらんようなってから、君ホンマに変わったわ檜佐木クン。ホンマ、うっとうしなった。ボクに嫌われて当然やろうね。

「蓮華」
「―――っ、」
「やめやめ、蓮華ちゃん嫌がってるやろ?」

嫌がってる女の子を無理矢理連れて行こうなんて最低な男の鑑やな。

「…蓮華を怒ったりはしません。でもそいつは俺の隊の隊員です。返してください」

お構いなしに近寄ってきた。ボクは腹が立ちすぎて、本気で一回殴ったろか思たわ。

その時やった。



「近づかないで!!!!」



蓮華ちゃんが涙声でこう言うた。いきなりのことやったし、ボクはただ驚くしか出来へん。

「私は九番隊の隊員です…心配せずとも必ず帰ります…だから……だから今は、私に近づかないで下さい…!」

そう言うて、蓮華ちゃんはボクの手をとって店を飛び出した。

「蓮華ちゃん…」
「…っ」

蓮華ちゃんは何も言わんかった。ただハッキリとは見えんかったけど、その目からは涙が溢れていたように見えた。

ボクは自分が守ろうと思ってた子を、泣かせる事しか出来へん。ボクはこの子を守るフリをしてるだけかもしれへん。でもこの子はそんなボクを頼ってくれる。この小さな背中に、大きな過去を背負ってる、この子は、



ボクは約束を守られへん、頼りない男。
(ギンside。どんな手を使ってでも守りたい人がいる)


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