「ほらぁ、健二っ!もっと速く漕がなきゃ日が暮れちゃうよ!!」

ケイの笑い声が、夏の空の下に響く。

「やっぱり流石の健二君も、上り坂はキツイー?」
「うるさい、降ろすぞ」
「そんな事言っても、結局降ろさないんでしょ?健二の優しいとこ!」
「…………」
「ほら、図星ー!」

ケラケラとケイは笑った。今、夏目健二とその彼女であるケイは、久々のデート。健二は毎日部活ばかりだった為、当然なかなか時間がとれない。

そして今日は久々の休み。ずっと海に行きたいと言ったケイを誘って、海に行くことになったのだ。

ケイは滅多にわがままを言わない。が、ここ何ヶ月かは見て取れるように寂しがっていた。あまり表に出さないようにはしていたようだが、もちろん健二は気付いていたようで。

「うわぁ!健二、海見えてきたよ!」

無邪気にはしゃぐケイを乗せて、健二の自転車はどんどん坂道を登っていく。

「そうじゃな」
「今日晴れて良かったね!」

上り坂を漕ぎ続ける健二は当然疲れているが、ケイはそんなことお構いなしの様子。まあそれがケイらしい、と健二は少しだけ微笑む。

「それに健二と二人っきりも、久しぶり」
「…そうじゃな」

ケイはそう言うと、健二の背中にぎゅっと抱きついた。寂しいとは決して声に出さない彼女の不器用さ。それをこれ以上なく愛しいと感じさせる、背中の、温もり。



「ケイ」



名前を呼べば、ケイは体を離して、健二の顔を覗き見ようとする。

「何?健二」
「そのまま」
「え?」
「そのままつかまっとれ。下り坂じゃ」
「え……っ、きゃああああ!?」

上りきった坂道の先は、結構急な下り坂。二人を乗せた自転車は、一気にその坂を滑り落ちるようにして下りていく。あまりの急なスピードに、思わずケイは健二にきつく抱きついた。

「ぶ、ブレーキかけて!!怖い!」
「掴まっとったら大丈夫じゃ」
「無理!!怖いってば!!私が絶叫系苦手なの知ってるじゃん!!ばか!」

今にも泣きそうな声で後ろで騒ぐケイ。悪戯心で、ついスピードを緩めるという行為をしたくなくなる。しがみつくケイの温もりを、健二はこのままにしておきたかった。

「おぉ、一番急な下り坂じゃ」
「平然としないで止まって――――!!!」
「止まるかボケ」
「やだやだ…きゃあああああああ!!!!」
「お前が重いから速ぅ進むんとちゃうか?」
「っ、こ、これでも1キロ痩せたもん!!」
「1キロだけか?まだまだ子豚じゃの」
「〜〜〜〜健二のバカッ!!」

夏の風を全身に浴びながら、ふたりを乗せた自転車は海を目指して進んでいった。



海へ行こう、丘を下ろう。
(こ、怖かったー…)
(半泣きの顔、ぶっさいくじゃのう)
(う、うるさーい!)
(嘘、可愛い)
(…ばか)


2006.03.01
2011.09.15 修正


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