『プルルルル…プルル…ガチャ』

「もしもし?」


アタシは電話に出る。
家の電話が鳴るなんて珍しいなあ、なんて思いながら。


『ケイか?ワシじゃ。』


そしたらその電話の主は、随分と聞きなれた声で。でもホンマ久々に聞いた声で。あんまり懐かしいから、アタシも流石に唖然としたわ。

「……健、二…?」
『せやったら何か問題あるんか?』
「…大有りじゃクソったれが」
『なんじゃ、いきなり喧嘩腰か』

電話の主は、アタシの幼馴染の夏目健二から。まーよくこんなに堂々とアタシの家に電話出来るもんじゃね。

まー何て言うか、つまりアタシと健二は恋仲だったワケで。あ、恋仲だった、わけじゃ。過去形じゃ過去形。

「で、何の用じゃクソったれ」
『誰がクソったれじゃ、誰が』
「お前以外に誰がおるんじゃ?」
『…まだ怒っとるんか?』
「当たり前」

コイツは、アタシという彼女を置いて、ひとりでさっさと東京に行きよった。
しかも、何の連絡もなく。

あの時は、まだアタシは幼かったワケで。健二が居らんようになっただけで泣いとった。今はもう、涙も出ん。

出んはずやのに。


「で、何の用じゃクソったれ。」
『あー…ちょっとな』
「別れるとか言う気か?それならもうええで。アタシは別れた気満々で今まで生きて来た」
『人の用件も聞かんと、勝手に話進めとんとちゃうぞボケ』
「ボケとちゃうわ!」
『五月蠅い、大人しい聞け』

わりと真面目に言うもんやから、アタシも思わず口を噤んでしもた。

しかし何が嬉しくて健二の話なんか聞かないかんのじゃ?
ほんで、何が嬉しいんじゃ、アタシは。

何で健二の声聞いただけでこんなに泣きとうなるんじゃ?

『ケイ』
「…なに」

名前呼ばれただけやのに、むっちゃ会いたくなってまう。



『明日、ワシのおるトコ来れるか?』



「…はぁ!?」



…とか思ってたのもつかの間。
いきなりの健二の発言に困惑するアタシ。

明日って、一体何をしに、わざわざ、東京なんぞにいかないかんの!?
会いたいとは思った、でも、何で会いに行かないかんの!?

「何言うとるん?」
『言葉通りじゃ』
「何の為に、アタシがそんな遠い所まで行かないかんの」
『明後日試合あるから、それ見に来い』
「はあ?何の」
『バスケ』
「却下」
『無理』
「嫌」
『来い』
「大体明後日やったら別に明日行かんでもええじゃろ」
『明日がええんじゃ』
「なんで」
『ワシの誕生日じゃけえの』
「…それとこれとは関係ない」
『ある』
「なんで」


『ワシがお前に会いたいんじゃ』



息の仕方を、忘れるかと思った。

なにを、いまさら。


「…そんな言葉で騙そう思たって無駄じゃよ、アタシはもう、あんたのことなんて、」
『…何とも思ってない?』
「…」

なんで、なんでそんなに、ずるいん。

「………お金ないし」
『そう言われるとは思ってた。こっちで交通費は負担したる、あとは実費で出せ』
「……そんなん、そんなん言われたら、」

行こうって、思ってまうやんか。

『…来るんじゃの?』
「…行けたらな」
『着く時間だけ連絡して来い、迎えに行く』
「…なんか、悔しい」
『なにが』
「結局あんたには勝たれへんのが、むっちゃ悔しい」

そう言うたら、電話越しに健二がちょっとだけ笑った。

『もうちょっと素直になるんじゃな』
「そうやって余裕ぶってるんが何より腹立つわ」
『ケイ』
「なに」
『やっぱり、お前のこと、』


忘れられそうにない
(それはアタシもじゃって、明日言うてあげる。)

2006.03.01
2011.09.15 修正


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