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そこには思った以上の“殺風景”が待っていた。
ベッド1つ、小さなガラステーブルが一つ、その下にカーペットが敷かれただけの、殺風景な部屋。
モデルルームでももう少しあるぞ。
「少ないな」
素直に感想を述べれば、彼女はニコリと笑った。
「モノが多いと窮屈で仕方なくて」
「・・・」
彼女のソレは病気レベルだと悟った。窮屈な部屋は過去の事件を呼び起こすものになるらしい。
洋服は?と問えばクローゼットだと言う。
キッチンで湯を沸かす彼女に了承を得てクローゼットを開けると、そこもまた殺風景だった。
「生活感が無いな」
「はなから死んだような生活してますからね」
蓄えだけはあるんですけど、の肩をすくめ、紅茶を入れる。
優しいカモミールの香りが鼻をくすぐる。
「苗字さん、私の話も聞いてくれるかい?」
小さなテーブルに向かい合わせに座ると、私は口を開いた。
苗字さんは特に驚いた表情もせず、どうぞ、と開口を許した。
そして私は難しい性、どうしようもない性癖を持った人間だと告げた。
顔色を一つも変えずにこの話を聞く彼女は、やはり“普通ではない”のだろう。
「大変ですね」
そう、ぽつりと呟いた。
その言葉はまるで私の過去を見透かしたような物言いだった。
「吉良さんには見えますかね?私の“能力”」
「何?」
苗字さんの後ろで“灰”が舞った。
いや、違う、目を凝らすとその灰は塊となった。
御伽噺に出てくるようなドレスを着ているのに、頭からは葬式のようなベールを被った貴婦人のような“ソレ”
両手をそっと重ねているが、その手首の内側からは鋭いナイフが生えていた。
手首の血管が耐えかねて手のひらを伸ばしてもそれを越える長さのナイフに成長したように見える。
「スタンド、というらしいですけど…そのご様子だと見えてますね」
「・・・ああ、私もいる」
意識的にキラー・クイーンを呼び出せば、今度は明らかに顔が変わった。
「ねこちゃん?」
苗字さんはキラー・クイーンに駆け寄り、その頬を美しすぎる彼女の手で挟む込むようにさすった。
感覚がわずかながらに私にも伝わる。高揚する気持ちを抑えながら彼女を見ると、とても嬉しそうな笑みを溢していた。
「あの、この子の名前は?」
「ああ、キラー・クイーンだ」
「キラー…キララ!」
何故そうなる。
その言葉を飲み込み、嬉しそうな彼女を見つめる。
自分のスタンドながら無表情なヤツだと思っていた。
しかし、キラー・クイーンはいかにも困惑という表情を浮かべ、自分に抱きつく人間の娘を傷つけないように左手は彼女の背中に、右手は彼女の頭をなでるように置かれていた。
ああ、そんな目で私を見るんじゃあない。私もお前のしまい時がわからないんだ。
「ねえ吉良さん、私、この子のことキララちゃんって呼んでいいですか?昔ネコを飼ってて名前がキララだったんです!」
「ああ、それはかまわないよ。そろそろしまっても良いかね」
「あ、失礼しました。キララちゃん、またね」
「・・・」
キラー・クイーンは“恥ずかしそうに”目を逸らし、小さく彼女に礼をすると姿を消した。
彼女のスタンドは今だ手を組んだままコチラを見ている。
その風貌から西洋の幽霊が日本のマンションに現れたようにも見れた。
「君のスタンド名は?」
「『チェネレントラ』、シンデレラって意味です」
この町にはもうシンデレラってスタンド使いがいるので、と彼女は付け足した。
チェネレントラも彼女の紹介を受けると小さく礼をし、また灰となって消えた。
「能力は?」
「彼女の刃で傷つけたものは部分的に灰にできます」
「そうか、私のキラー・クイーンはふれたものを爆弾に変えれる」
“お互い完全犯罪向きな能力だね”と私が言えば彼女も“そうですね”と頷いた。
仕事のパートナーだったのに、何故ここまで近しい関係になったのだろうか。
平穏な生活こそ私のすべてだったのに。
「苗字さん、今日と言わず、ずっと私の家に泊らないか?」
「え?」
「何、利害の一致だよ。私は君の手が好きだ、見たところ君もそうだろう?まあ会社に言うのはまだ先にしよう。無論、君がよければだがね」
苗字さんは少し悩むように顎に手を当てた。
その仕草は愛らしく、顎に触れるその手も実に魅力的だった。
「そして願わくば君の手のケアもさせて欲しい」
「手ですか?」
「ああ、君の手はもっと美しくなる」
「人殺しなのに?」
「それは私も同じだ」
「それもそうですね」
苗字さんは肩を竦めて笑うと私と住むことを了承した。
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