愛の天秤は180゚
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薄桜高校に通う一年生の千鶴は、ただいま絶賛恋愛中。
『な...筈なのに、』
どうしてこうなってるの!
私は、小さく不平不満を言い内側に会議中の札を下げたその部屋のガラス越しからホワイトボードに何やら書いていく彼の姿を見ていた。
白いボードには、風紀の改善と書かれ次々に挙手で出された案がズラズラと続いている。
斎藤一先輩、彼は真面目で容姿端麗、成績もトップそれでいて剣道が強く朝は校門前で厳しく生徒の態度を取り締まる風紀委員長。
私がそんな良い人とお付き合いできたのもきっとこの高校は女が私一人だけだからよ、調子に乗っちゃ駄目!...なんて自分を否定してきたのも何回目だろう。
唯一女子生徒な私に気遣い微笑んでくれた斎藤先輩。
もし、他の女の子が私より先にこの高校にいたら...そんなの嫌!
千鶴は、自分の悪い考えに頭の中で反発し肩を落とす。
「何故落ち込んでいるのだ千鶴?」
『さっ、斎藤先輩!』
「すまない、会議が思った以上に伸びるかもしれない。待たせてしまった侘びはする...今日は、先に帰っていて欲しい」
いきなり会議室の窓から顔だけを出し、大好きな声が聞こえたと思ったらそれだけを言うと気をつけて帰るんだぞ、と窓を閉めふんわり微笑まれ背を向け何時もの優秀な斎藤先輩に戻ってしまう。
あれ...なんか違う...。
私の思っている恋愛って小説に出てくように...いや其処までいかなくてもいい。ただ、その人と喋ったり手をつないで帰ったりそれだけでいい。
これって、欲張りな事なの?
自分の思い描く物と今の温度差に悲しくなってくる。
告白だって私から、ファーストキスだって私がして欲しそうだからした、に近い形で実際には彼から私を求める事はない。
キスだってそれっきり、私って斎藤先輩にとって何?
それからも、無意味な自問自答を繰り返し返ってくる筈のない答えを探しながら家路をとぼとぼと歩いた。
彼が忙しいから、私と居れる時間がないのは分かっている。付き合っているからといって私にばかり時間を割けば風紀委員としての顔が丸つぶれで、斎藤先輩を模範に慕っている後輩もがっかりするかもしれない。
全てわかりきった事なのに、我侭な自分を堪える事ができないでいる自分がとても嫌だ。
やはり私は欲深い。
『ごめんなさい...斎藤先輩』
私は歪んだ心であることを決心し、明日の事を考えながらベッドに潜った。
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