愛の天秤は180゚
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「なぁ、あの子って1年生の...」
チラホラと千鶴に向けられる視線と驚くような男子生徒の声。
何時も通りの朝、何時も通りの道、何時もと違うのは――…
「ああ、凄い雰囲気変わるんだな」
男子生徒の目を引きつけるのは、なんと言っても校則破りの肩を越したゆるふわの甘いカールの掛かる黒髪。
スカート丈は少し短めで、胸元を開ける勇気がなかった私は些細な抵抗とばかりに指定以外のチェックのリボンタイを止め唇には薄く色付きリップを引く。
流石の彼もきっと私に時間をさかなければいけないはず。
いつから自分がこんな弄れた人間だったかなんて知らない。
気が付けば、戸惑う心を捨て斎藤先輩に見て欲しいと鏡の前に立ち慣れない手でコテを握っていた。
お陰で綺麗に巻けたセミロングの髪に指を通す。
すると、肩に影が落ち振り向くと面白そうに細められた翡翠色とかち合った。
「なに、その格好...襲って欲しいの?」
冗談に聞こえない冗談を言う沖田先輩に困り、一歩後ろに下がれば続けられる弾んだ声。
「ねぇ、君もそう思うよね...一くん」
私の後ろに目を細め遊ぶかのような口ぶりで問いかける沖田先輩はわざとらしく手を振りじゃあね、と直ぐ横をするりと通りすぎていく。
斎藤先輩が...今私の後ろにいるの?
自分で招いた自体なのに今更怖気づく訳にもいかずゆっくりと振り向けば瞳の奥を鋭く尖らせた斎藤先輩がいた。
私が知っている先輩は優しく微笑んでくれて、時に叱られる事はあるけどこんなに酷く冷めたい視線を送られた事は初めて。
思った以上に言葉がでず、言い訳すら唇を動かさない。
怯えきる千鶴に俺は低く怒りを帯びた声で、来い...そう言って震える手を掴みつかつかと校門から遠ざかる。
こんな姿を、他の奴の目に等晒して堪るか...と私欲だけが黒く染まる心を突き動かす。
俺も風紀委員を名乗りながらも千鶴のことになるとそっちの方が最優先になりがち。
だが、今回はあんたが悪い...。
斎藤先輩が向かったのは風紀委員がよく使う、私が昨日中を除いていた会議室。
委員長である先輩しか持てない鍵でカチャリと開けると私を引きずり込む。
丸見えの窓の端にある黒いカーテンで仕切るように廊下側から内側を見えなくすると、再び射抜くような瞳に見据えられる。
「何故、そのような格好をしている」
ドンッ、と鈍い音が私の体を鋏逃げ場をなくす。
なんでこの格好かなんて分からないはずがない。
だからって、貴方の気が引きたかった、斎藤先輩との時間が欲しかったなんて言える筈のない我が儘。私は泣きたいのを堪え、対抗心をむき出すように視線を鋭くさせ、思ってもない言葉を吐いてしまった。
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