誰よりも愛してる
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薄暗く静まり返った一室。
私は、半ば荒々しく先輩のベッドの上で部屋の主に組敷かれていた。
何故、このような状況に置かれているのか分からない。
朝の沖田先輩はいつも通り私と他愛ない会話をしていた筈なのに、帰り道では歩幅も合わず重々しい空気を纏う先輩にただ後ろをやや小走りで歩く。
一度も、口を聞いてくれずそして今に至るのだ。
先輩は家に私をあげるなり強引に千鶴の手を引き自室へと連れ込み電気も点けず勢いに千鶴の身体をベッドに押し付けた。
...どうやら私は彼を怒らせてしまったらしい。
怒りを含んだ瞳は翡翠色を細め、怯んでしまうくらいの鋭い視線が私を見下ろした。
体はベッドに縫い付けられたかのように身動き一つ取ることが出来ず圧迫感が喉を無意識に上下させた。
緊迫した空気の中、先輩の瞳が怖いほどに冷ややかな眼差しを向けるのに気がつけばポロポロと涙を溢していた。
重力で横のに滑り落ちる光る粒を沖田は追いかけるように唇を這わせた。
『うっ、く...お、沖田先輩っ?』
拭うように柔らかく刺激する薄い唇は先程の先輩の表情からは推測出来ないくらいに優しくて、心地よくて安堵した心音がトクトクと脈を打つ。
「ごめん...千鶴。嫉妬してるんだ僕、君の周りに」
『えっ?...沖田先輩がしっ...と?』
いつも余裕な感じで構えてる沖田先輩が嫉妬なんて、と考えると可笑しくて唇を半開きにきっと驚いた顔をしていたのかもしれない。
ピトッ、と先輩の人差し指が千鶴の唇の上に置かれ困ったように沖田先輩が笑う。
「千鶴ちゃんてば傷つくなぁ、僕だって嫉妬くらいするけど。...今日だって、クラスの男子に抱きしめられてたじゃない」
『そ、それは私がよろけたからでっ』
「ふぅ〜ん、まぁそう言うことにしてあげるけど、次は許さない。それと、僕に言うことあるでしょ?」
絶対に有無を言わせない笑顔に私は狼狽えながらも微かに呟くように唇を動かした。
『ごめんなさい...っ』
いつの間にか狭まる距離に二人の息が絡まるくらいに近い唇。
ベッドがキシリッ、と軽いスプリングを効かせた後、互いの唇は自然と吸い寄せられるように重なった。
緊張しがちな彼女のきつく結ばれた唇に優しく歯を立てれば、ぴくりと肩を震わせ声を洩らす。
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