にゃんにゃんな日
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ふふふふッ...遂に完成しました。
獣のようになる薬。この薬を飲めば嗅覚や聴覚、あらゆる神経が研ぎ澄まされ...もしかすると今後の新撰組にも必要になるやもしれない。
「鬼や羅刹が出歩く京を守るためにもこのままでは...ですが服用してみないことにはなにも...」
眉間に皺を刻み持ち上げた眼鏡の奥が鋭さをもつ。
山南の手に握られた小瓶には濃い紫色の液体が月明かりを受け、妖しく光っている。
散々考え、うーんと声を洩らすと月明かりが覗く襖に手を伸ばし、唇が下弦の月みたく持ち上がる。
「さて、この薬の事は明日に持ち越しにしましょうか」
誰に言うでもない言葉は夜の闇に溶け、襖を閉める音だけが小さく辺りに広がった。
***
『...雨、降ってますね』
「そうだね」
襖を締め切った居心地が良いとも言えない部屋の外ではざあざあと大降りを意味する激しい雨音が地面を叩いている。
「あのさー、僕暇なんですけど」
つまらなさそうに胡座をかき後ろに持たれるような姿勢で手を付き沖田さんが目を細め、ねぇと言ってくる。
いったい、暇だなんだと入って来てこの人はなんなのだろうか。
呆れながらお茶を啜りながら何度目かのため息が零れた時、襖が開き目を光らせ凄い形相の土方さんが其所にいた。
「おい、総司!!てめぇは呑気に茶なんかしてんじゃねぇよ...全く他の隊士に示しがつかねぇだろうが...それと、俺のアレどこに隠しやがった!」
沖田さんを目で捉えると土方さんは勢いのまま怒鳴り始める。低く怒りの滲むようなその声は外の雨にも負けていない。
「おい、総司。聞いてやがんのか」
「はいはい、聞いてますよ...だけど僕、アレって言う物は知らないですよ♪嗚呼、宝玉発句集とか言う物はしってますけどね」
背を向けたまま私の淹れた茶を飲み終えると首だけで振り返りにっこりと嫌味な笑顔を浮かべ土方さんとの間に見えない花火が散ったような気がする。
「総司、今から一緒に来やがれ。その歪みきった態度叩き直してやる」
新撰組の鬼とも言われた男を遊べるのも沖田さんぐらいだと私はこの時思った。
「はーぁ、仕方ないですね。じゃあね千鶴ちゃん。僕この頭の凄く固い...そのせいで俳句も面白く書けちゃう人に怒られてくるね」
“だからいい子で待っててね”っと隣で再び怒鳴りだす土方さんを放置し私に囁き込んだ。
掠める唇に心拍数が上がったのも一瞬で、はいはいと土方さんの後を付いていく姿に笑みが零れた。
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