短編2 | ナノ


▼ 無表情×特殊能力平凡2

リクエスト


『高坂くんの家ってどこらへん?』
ニコッと笑って尋ねると数秒置いてから地名を言われた。

保健室を出る瞬間に聞こえてきた心の声の数々、あの無表情の高坂くんからの熱烈すぎるほどの本音に思わず驚き固まってしまった。
だけど『あの高坂くんが……』とさっきまで無表情で読めないと思っていた高坂くんの本当の姿に僕は一気に興味が湧き、一緒に帰ろうとお誘いをした。


学校から出てからもお互い会話はなく、高坂くんから話しかけられることもない。
隣を歩きたまに横目で高坂くんの様子を伺うが、表情の変化も特にない。
だけど意図的に心の声を聞くと『今俺の隣に和人がいる』『近い』『可愛い』と甘い呟きが止まらない。
無表情なのに心の中ではお喋りで、僕のことが好き過ぎる高坂くんに思わず笑えてしまう。
僕としてはずっと心の声を聞いているだけでも楽しいが、周りから見たら無言なのに1人笑っている僕の姿はおかしく見えるだろうなと考え、高坂くんへと話しかけた。

「同じクラスだけど高坂くんと話すのって初めてかもしれない」
「……ああ」『違う。入学式の時に一度話したことがある。だけどその時の和人はすごく体調が悪かったからきっと覚えてないんだ』
え……?僕、高坂くんにと話したことなんてあったっけ?しかも入学式?
思ってもいなかった返答に驚いたが、確かに入学式の日は高坂くんが言っていた通り体調が悪く、あの日も今日みたいに力の制御ができなくていろんな人の心の声が嫌でも聞こえてきた。

『あの時、俺はただ和人の背中を撫でていただけなのに『ありがとう、すごく優しい人なんだね』と褒めてくれた。いつもこの無表情と無口なことで周りには冷たいやつだと言われることが多かったのに、そんなこと初めて言われた』

そういえばそうだ。体育館の端で座り込んでいた時に『大丈夫か?』『体調が悪い?』『何か俺にできることはないか』と誰かが背中を撫でてくれながらそう言っていたが、あれは高坂くんで、しかも心の声だったのか。
一見、無表情な高坂くんは冷たい印象を持たせるが、心の声が読める僕としてはその冷たさは今は一切感じさせない。
それに

「高坂くんってカッコいいしもしかして恋人とかいる?」
「……いない」
『和人にカッコいいと思われていた』『嬉しい』『恋人?いるわけがない。できるなら俺は和人の恋人になりたい』『和人好き』とめちゃくちゃ僕のことが好きな高坂くんが冷たい人間なわけがない。

高坂くんの心の声が聞きたくて聞いた質問だったが、こんなに僕のことを好きでいてくれたのかと照れてしまう。

「高坂くん、喋りすぎ」
思わず小さい声で愚痴りたくなるほど僕への愛の言葉が止まらない。
相変わらずの無表情なのにこんなにも中身と違うとは

「あ、ここでバイバイだね。また明日」
「ああ明日」『まだ帰りたくない。和人と一緒にいたい』『ああ好きだ』『触りたい』
また明日と言っているのに心の中では名残惜しいと伝えてくる高坂くんにキュンときてしまう。
可愛いな。明日会えるって言ってるのに……

「じゃあね」
『連絡先聞きたかった』
最後に聞こえてきた心の声に我慢できなくなり、再び高坂くんの元に戻って、「ごめん。最後に連絡先教えてくれない?」とたずねた。
直ぐさま連絡先を交換し、このまま高坂くんの心の声を聞いていたらいつまでたっても帰れないと、もう高坂くんの心の声を聞くのはやめて家へと帰った。









次の日、昨日の友達が形だけ心配した様子で話しかけてきたが、心の中を知ってしまった今は不信感しかわかない。
早く高坂くん来ないかな?と待っていると、『和人、おはよう』という誰かの心の声が聞こえてきた。

「あっ!高坂くんおはよ」
「……おはよう」
軽い挨拶を交わし僕よりも4つ前の席に向かった高坂くんは、そこで腰を下ろした。
『和人が挨拶してくれた』『今日はラッキーだ』と心の声が聞こえてくる。

その後も事あるごとに高坂くんの心の声を聞いていたが、その時に何度か高坂くんのことが好きな女の子達の声も一緒に聞こえてきた。
『高坂くん、今日もカッコいい』『好きです』とやはりモテる高坂くんに、僕はなんとも言えない気持ちになった。
高坂くんは僕のことが好きだから、高坂くんのことが好きな女の子達は高坂くんと付き合うことはできないことに申し訳なく思ってしまうが、そんなみんなからモテている高坂くんに好かれていることに得意げにもなってしまう。
性格悪いなと思いながらもその優越感に浸った。




なんの因果か、LHR時に行った席替えで高坂くんは僕の後ろの席になった。
心の声を聞いていないが、きっと高坂くんがとても喜んでいることがなんとなくわかる。

「高坂くん、これからよろしく」
「ああ」『嬉しい!嬉しい!嬉しい!』『これから毎日和人を見て生活できる』
ほらやっぱり。
想像していた通りで思わずニッコリ笑ってしまう。






補足

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