短編2 | ナノ


▼ ノンケ×ゲイ

男が好きだと自覚したのは高校生の時だった。

夏の暑い時期、サッカー部が上半身裸で部活している姿を見て、俺は胸を高鳴らせた。
小麦色の肌、滴る汗、うっすらと浮き出た筋肉。
その姿に俺はひどく興奮した。







自分がゲイだと気付いてから十数年。いまだ恋人はなし。
そのため守りたくもない童貞処女を守り通し、今日で俺は30歳を迎えてしまった。
今までに何度か有名なハッテン場や2丁目に行こうと自分を奮い立たせたが、小心者な俺はあと一歩が踏み出せず、身体の関係すら至らなかった。

けれど誕生日を迎えた俺は『今日こそは!』と覚悟を決めた。




仕事が終わった午後6時過ぎ、家には帰らず、そのまま最近できたばかりのスーパー銭湯へと俺は向かった。
有名なハッテン場では『いかにも』という感じがして、やはり俺にはハードルが高い。
そのため第一歩として、ゲイが好むと言われているサウナのある施設、スーパー銭湯で俺は出会いを求めた。

「……広い!」
フロントからもう広くて綺麗だと思っていたが、お風呂場は想像していたよりもさらに広くて驚いた。
男漁りをしに来た俺は脱衣所ではソワソワと挙動不審な動きをしてしまったが、中に入ってからは目的も忘れ、炭酸泉や露天風呂など夢中でお風呂を楽しんだ。
一通り入り終わった後、ロッカーキーを左足首に付け直し、『よし』と自分に気合を入れてサウナ室のドアを押した。

中へ入ったと同時に体中に熱が行き渡る。
けれどカラッとした暑さは嫌な感じはせず、むしろ徐々に身体が温まっていくのは気持ちいい。

適当に空いている場所に腰を下ろした。
周りを見渡して見ると、中校生ぐらいの子どもと50代のおっさんの2人だけがいた。
この2人も出会いを求めに来ているんじゃないかと一瞬考えたが、直ぐに『そんなわけないか』と冷静になった。
スーパー銭湯にはファミリー層が多く、純粋にお風呂を楽しみに来ている人がほとんどで、俺みたいに出会いを求めている奴は見当たらなかった。
サウナ=ゲイというわけでは無いのかとガッカリしつつも、楽しめたしいいやとサウナで汗を流した。


中学生もおっさんもサウナから既に出て1人ボーッとしていると扉の開く音が聞こえ、無意識にそちらを顔を向けると、ガッシリとした身体つきの若者が入ってきた。
背は高く、筋肉がしっかりと付いた身体は俺の好みそのままで見惚れていると、若者とバッチリ目があった。
少し甘めの顔立ちで、モテるだろうその顔は俺と目が合うとニコリと笑った。

「こんばんは」
「えっ?……あっ、こんばんは」
たくさんスペースは空いているのに、若者は何故か俺の隣へと腰を下ろし挨拶をしてきた。
チラッと見た若者のロッカーキーは右手首に付けられており、もしやもしやと胸が高鳴り始めた。

「お家はこの辺なんですか?」
「ええ……そうです」
「あっ、お名前聞いてもいいですか?俺は塚本志信(つかもとしのぶ)と言います」
「原井護(はらいまもる)です」
積極的な塚本さんに確信をだき、こんなカッコいい人が俺の初めになるかもしれないということに感謝した。

「……塚本さん、身体すごく引き締まってますよね。触ってもいいですか?」
「ええどうぞ」
おそるおそる腹筋を触ると固く、滴る汗で肌がしっとりとしていた。
他人の肌を触るのだって初めてなのに、その上好みの身体に、タオルで隠している下半身が少し反応し始めた。

「俺の身体好きですか?」
「……え?!」
「ウットリしてるから……」
驚いて顔を上げると視線を彷徨わせて笑う塚本さんがいて、さすがに触りすぎたかと慌てて手を戻した。
塚本さんの様子をうかがうとそっぽを向いており、気まずくて今すぐにでも立ち去りたいがその気持ちをグッと抑え、少しだけ突っ込んだ質問をしてみた。

「塚本さんは恋人はいるんですか?」
やっとこっちを見てくれた塚本さんは少し考えた顔をし、「ここ2.3年は居ないですね」と答えた。

「身体だけの関係は?」
「か、身体だけ!?いや……いないですよ」
恋人もいなくて身体だけの関係もいないなんて、こんなカッコ良くてもゲイ界は大変なんだなと身に沁みる。

「このあとどうしますか?俺初めてなんでわからないんですが……」
「このあと?」
「やっぱりラブホテルとかに行くんですか?でも男同士で入れるんですかね?」
考えようとするが、さすがに十数分もサウナに入っていたせいで暑さで頭がクラクラしてきた。
塚本さんの返事を聞く前にサウナから一旦出て、身体をシャワーで冷やしに行った。
火照った身体は徐々に冷えていき、気持ち良さに目をつぶりながら浴びていると、トントンと肩を叩かれた。
振り向くと後ろには塚本さんがいたが、その顔はサウナの熱さのせいか真っ赤になっていた。

「さっきの話なんですけど、まずお互いを知ってからにしませんか?」
「あっ、はい。普通そうですよね」
こういうことは初めてだからわからないが、やはり会って直ぐにはヤらないのか。
ヤル気満々でガツガツしていた自分が恥ずかしい。


「もうお風呂から出て、一緒に食事でもしませんか?」
塚本さんからのお誘いに無言で頷き、脱衣所へと向かった。
着替えている間、このあとどうすればいいんだろうかと悶々としながらドライヤーで髪の毛を乾かしていると、お風呂場の時と同じく、トントンと肩を叩かれた。
振り向くと後ろには前髪で目元がほとんど隠されている、眼鏡姿の男性が立っていた。

「……おまわりさん?」
「はい。警察官の塚本志信です」
「えっ……塚本さん?」
「はいそうです。あっ……もしかして気付いていませんでした?」

駅へ行く途中にある交番のお巡りさんはいつも通行人には必ず挨拶をする。
毎朝のことなのでお巡りさんの顔を自然と覚えるようになり、自分からもよく挨拶をしていた。

「いつも挨拶してくださる方がサウナ室に居たんで声掛けたんですけど、途中から話が噛み合ってないなとは思ってたんですけど、そもそも俺だとは気付いてなかったんですね」
「……え?じゃあ塚本さんってゲイじゃないんですか?……てっきり俺のことを誘うために声掛けてきたんだと……」
勘違いしてた恥ずかしさと落胆で力が抜ける。
でもまぁそうだよな……あんなにカッコ良い人がゲイな訳ないよな。
それに仮にゲイだとしても俺なんか選ばないか。

「いや、すみません……あの、全部忘れてください」
「……忘れたくないです。ゲイではないですけど、少しでも仲良くなれないかなという下心は最初からありましたし、このチャンスを逃したくないです。だからその……まずは原井さんのことを教えてください」
さっきと違って今の塚本さんはモサい姿なのに、眼鏡の奥の顔を知っているからか、その一言に今までないほどに胸が高鳴り始めた。







補足

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