短編2 | ナノ


▼ 真面目委員長×平凡

そりゃ告白してくれるならもう誰でもいいと思っていたさ。
だけど、
「好きだ!!その……付き合ってくれないか」と前髪を7:3分けにした分厚い眼鏡を掛ける、見るからにガリ勉そうな”男”は想像してなかったよ。



生まれてから17年。
山も谷もなく、至って平凡に生きてきた。
それなりに女の子には興味があったが、いつも俺が好きになるのは見た目が良い、可愛い女の子ばかりだった。
そんな平凡な自分とは不相応な相手を好きになるので、ほとんどの人には相手にされず、いい感じかもと期待し告白しても「ごめんなさい。山本(やまもと)くん、タイプじゃないから……」とフラれてしまう。
俺がイケメンだったらと自分の顔を恨んだが、世の中顔が平凡でも可愛い彼女はいるからと友人に諭された。

そんな追いかけてばかりで追いかけられたことがない人生だったが、俺は生まれて初めてラブレターをもらった。

朝いつも通り登校し、下駄箱を開けるとテンプレ通りのハートのシールがついたピンクの手紙が入っていた。
中を見ると『放課後、裏庭で待ってます』と書かれており、告白だと確信した。

この学校に今、俺のことが好きな奴がいるのか……!どんな子だろ。可愛い子だったらいいな!あーでも、告白してくれるならもう誰でもいいや
とルンルン気分で放課後を待ち、いざ指定された場所に行くと、我がクラスの委員長である花谷賢(はなやけん)くんが緊張した面持ちで待っていた。
まさか……な?と思いつつも近付くと、俺に気付いた花谷くんは「好きだ!!その……付き合ってくれないか」と俺を見てそう告げた。

「あの……花谷くん?君も俺も男だよね?」
「ああそうだとも!だけど僕は君のことを好きになってしまったんだよ。好きになってしまったら性別など関係ないだろう」
やや頬を染めてそう告げる花谷くんに、確かにと納得してしまった。
相手が同性だとしても好きになったのなら仕方ないよなと思ったが、だからと言って同性はなぁ……と渋ってしまう。
これが女の子なら即OKするつもりだったが男はなぁと悩んでいると

「こんなに人を好きになったのは初めてなんだ。僕は君が好きだ」と真っ直ぐな目で見つめられ、思わず照れてしまった。
同性だとしても誰かにこれほどの好意向けられたことはないし、正直そう言ってもらえて嬉しいとも思っている自分もいる。

「わかった。付き合おう。だけど俺、花谷くんのことそんな知らないし、正直好きだとか思ってないから。それでもいい?」
付き合うことがどんな感じなのかを知るためのお試し。飽きたら直ぐに別れればいい。
そう自分に言い聞かせ、告白には了承した。

「ああもちろん。頑張って君に惚れてもらえるようアピールする」
どこからどう見てもガリ勉くんな花谷くんが、どんな風にアピールするのか、想像しただけでも面白くて笑えてしまう。


「まずは一緒に帰ろう。確か君の家は隣の市だったな」
「よく知ってるな。もしかして家も知ってる?ストーカーした?」
「違う!!ただ、君と友達が話しているのを聞いて知っていただけだ!断じてストーカーはしていない。家も知らない」
冗談で言ったのに真面目に返され笑ってしまった。
俺とは合いそうもないんだろうなぁと同じクラスだったがあまり花谷くんとは話したことはない。
だけど今こうやって話したことで案外面白いやつなのかも、とこれからの付き合いに思わず期待してしまう。





予想は的中した。
花谷くんとの毎日はそれはもう面白いものだった。
次の日の朝、学校へ行くと律儀に俺の元まで訪れ、「今日の君も可愛いな」とどこのキザ野郎だよと思う挨拶をかましてきた。
突然のことに思わず膝から崩れ落ちるほど笑ってしまい、『何が面白いんだ?』と花谷くんには不思議そうな顔をされた。
笑いが落ち着いた頃、どこで仕入れた言葉なのかと聞くと、「本に、『可愛い』と言うと相手に好意をもってもらえると書いてあった」と真剣な顔で言われた。
何故平凡男に対してその言葉をチョイスしたんだとさらに笑えてしまった。

「男に対して可愛いはないだろ」
「いや、君は可愛いぞ?」
「待って……いや、え?待って……」


他にも放課後デートの時にアイス屋さんに寄り、俺が買ったアイスを分けると、
「なんだこれは?歯磨き粉の味がするぞ」とチョコミントのアイスを不思議そうな顔で見たり、
自転車通学の俺に合わせて自転車を買ったはいいものの、ハンドルが左右に揺れて全然乗れてなかったり、毎日これでもかってほど笑わせてもらい花谷くんといるのは楽しかった。
それに「破廉恥なのは承知の上だが、君と手を繋いでみたい」といつもの真剣顔ではなくやや頬を染めて恥ずかしそうに告げる姿にキュンとするようになった。

何をしてても花谷くんが俺のことが好きなんだなとすごい伝わってくる。
俺に好かれようと一生懸命だが、どこかズレてるのもまた俺をキュンとさせた。

「いいよ。はい」
「失礼いたします……」
恥ずかしいが本当に握りたいと思っていたのか、勢いよくガシッと手を掴むので思わず笑ってしまう。
ゆっくり握り返しながら花谷くんを伺うが、恥ずかしいのかこっちに顔を向けてくれなかった。



白状しよう。
もう俺は花谷くんを好きになっているんだと思う。
今まで山も谷もない平凡な日常だったが、花谷くんがいるだけで明るく楽しいものへと変わった。
それに告白された次の日に「男に可愛いは違う」と伝えたのに、あれからも花谷くんは飽きもせず「可愛い」と俺に愛を囁き続けた。
最初は笑っていたそれも、今は言われるたびに照れるようになった。






「ダッサ!!」
初めての休日デートに少しドキドキしていたのに、待ち合わせ場所で待っていたのは相変わらずの見た目に加え、ジーンズにチェックのYシャツをインしたダサい格好の花谷くんだった。

「そうか?僕はお洒落などわからない」
「俺だっておしゃれとかわかんねぇけど、それでも花谷くんがダサすぎるのはわかる」
ダサいと言われてショボくれる花谷くんに今日行く予定だった映画をやめ、同じショッピングモールの服屋へと向かった。

「こんなペラペラしたTシャツが1万!?何にこんなにかかるんだ!?」
「なんでだろねぇ。あっ、向こうの店の方がカジュアルだし安いわ」
いちいちオーバーに驚く花谷くんが面白く、あっちへこっちへと花谷くんを連れ回した。


「は?花谷くん……、君は俺の敵じゃないか」
「何を言ってるんだ?」
服屋のついでに眼鏡屋さんに行き、花谷くんの分厚い眼鏡を外すと切れ長の目が出てきた。
眼鏡を外したまま1歩下がり、よくよく花谷くんの顔を見るとイケメンだった。

「今俺は花谷くんにムカついている。こんなギャップを隠し持っているなんてズルいだろ。もし俺が女だったならこのギャップで絶対好きになっていたわ」
「よくわからないが、男である君はそのギャップとやらで僕を好きになってくれないのか?」
「っ!クッソ!!!」
好きだわバーーーカ!!
何も気付いてないくせに真面目な顔でそんなこと聞くなよ。
危うくキュン死にするところだっただろうが。


実はイケメンだというギャップに見事やられつつ、八つ当たりから眼鏡からコンタクトに変えさせ、ついでにショッピングモールに入っていた美容室にも行かせた。






補足

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