短編2 | ナノ


▼ クズ×放任

「隼(しゅん)はさぁ、なんで浮気すんの?」
「えー!? 俺、浮気はしてないでしょ」

親同士が仲が良く、お互い一人っ子同士で幼稚園の頃からいつも一緒に過ごしてきた隼。
そんな隼とは気が付けば恋人同士になっていた。
小さい頃から同い年だが何をするにも『正(せい)ちゃんと一緒じゃなきゃやだ〜!!』とワガママを言ってきた隼のことを俺は手のかかる弟だなと思いながらも世話してきた。
歳を重ねても甘えっ子なところは変わらず、幼い頃は根気よく厳しく隼に言ってきたが、昔から容姿の良い隼に周りが何をしでかしても『いいのいいの』と甘やかしたせいで、隼は25歳にもなって夢を追いかけるダメンズフリーターになってしまった。
それこそどクズと言っても過言ではない程に。

学生時代は寝坊や忘れ物をする隼を叱り、一緒に登下校をしたり、荷物チェックや宿題の手伝いをしてきた。
だけどある日、俺が宿題を手伝う前に隼が1人で宿題を終わらせてきた。
その時に俺は『あの隼が!』と褒めて褒めて褒めまくった。
だけど後日、実はその宿題は隼のことが好きな女の子に写させてもらったと知り、俺は怒りを通して呆れた。
それとなく隼には写すのは自分のためにならないと説明したが、『だって向こうから見せてくれたんだよ?』と理解してもらえなかった。
それにいくら隼を厳しく叱っても、周りが隼に甘いので防ぐことができないと俺は早々に諦めた。

中学に入ってクラスが別れ、お互い登下校以外は別々に過ごすようになった時、『俺、正ちゃんのこと好き!!!!だからあの女と付き合わないで〜〜』と委員会で少し仲良くしていた女の子と俺がイイ感じに見え、勘違いした隼に泣きながら告白された。
もちろん隼からの告白はお断りした。
今まで顔が良い隼は色んな女の子にモテてきた。
そして告白してきた女の子と付き合っているのに他の子に告白されるとその子にもOKを出し、その子とも付き合い始める。二股三股は当たり前。
だけど顔が良いからと大抵ことは許されている。
そんな最低野郎の恋人になんてなりたくもない。
だけどどクズな隼は既成事実を作り、俺に愛を囁いた。
それに絆された訳じゃないが、しつこ過ぎる隼に俺が折れてしまった。

一応恋人同士になったことで隼に浮気はするなと約束させたが、さすがどクズ。
1日も経たずに他の女の子と遊びに出掛けた。
理由を聞くと、『美味しいカフェがあるから一緒に行こうって誘われたから』とのたまう。
呆れた。本当に呆れた。
それからも女の子とは遊びに行くわ、セックスするわ、突然『バンド始める』とバンドを始めるわ
隼に振り回されるのは疲れるので、早々にどうぞご勝手にと思うようになった。

高校を卒業してから俺は大学に進学し、その後中小会社に入社した。
隼は大学には行かず、バンドマンの道へと進み、フリーターをしながらライブをする生活。
相変わらずファンの子や他のバンドの子に手を出したりしてると風の噂でよく耳にする。
そして俺はというと『またか……』と嫉妬よりも呆れが先に来る。



「ヤッてる時点で浮気だろ」
「好きなのは正ちゃんだけだし、浮気じゃない。それに正ちゃん以外とはただの性処理だとしか思ってないし」
「最低だな。女の子可愛いじゃん」
「っ!?正ちゃんは女の子褒めないで。嫉妬する」
「はいはい」
なんでこんな奴と今も一緒にいるのかなんて俺にもわからない。

「それよりも明日のライブこそ絶対絶対ぜーったい来てよ」
「わかってるって」







今も夢を追いかけてバンド活動をする隼。
その実、俺は隼が歌ったり弾いている姿を見たことがなかった。

会場に着き、受付でお金を払うとドリンクの引換券をもらった。
なんだか酒を飲む気にもなれず、適当に烏龍茶を頼みライブハウスを見回してみると思っていたよりも人は多く、女の子も多かった。
烏龍茶を飲みながら会話に聞き耳を立てると、何人かが隼の話をしていた。
やはり顔がいいからここでも隼は人気者らしい。


何組かバンドが終わった後、ようやく隼が出てきた。
するとここ数時間で1番の歓声が上がった。
マイク前に立ち準備をする隼はいつもとは雰囲気が違い、その姿にピリピリと体に痺れが回る。
烏龍茶を近くのテーブルに、姿勢を正した。

ドラムバチでリズムを取り、客の歓声に上回るドラムやベース音が鳴り響き、隼が歌い出した。
その声に圧倒される。隼はいつものヘラヘラ顔ではなく、真剣な面持ちでマイクスタンドの前に立ちギターをかき鳴らした。
そこからは圧巻だった。
そして初めてかもしれない。隼がカッコいいとそう思った。
今まで見に行かなかったことが勿体無かったと心からそう思った。
そしてあのステージで歓声を浴びている人物が自分の恋人だと叫びたかった。
かつてないほどドキドキする。
こんなに隼がカッコ良かったなんて知らなかった。




女の子達をかき分け、関係者以外立ち入り禁止の扉を開け、中へ入り込んだ。
舞台から袖へと戻って来た汗だくの隼を捕まえトイレへと連れ込み、個室の鍵を閉めた瞬間深いキスをした。
足りなくてさらに深くすると、正気に戻った隼が俺の後頭部を支え、応戦してきた。



「隼、カッコ良かった……もっと早く見に行けばよかった」
「正ちゃんは最高にエロかったよ」
トイレでのキスだけじゃ足りなく、ライブ衣装を着たままの隼を連れて家へと帰り、玄関の扉を閉めた瞬間から激しく求めあった。
俺から求め、さらに上に乗ったのも初めてかもしれない。
喜ぶ隼に俺も調子に乗り、お互い精魂尽きるまでヤリ続けた。








正ちゃんは気付いてなかったけど、正ちゃんの初恋は高校時代の軽音部の先輩だった。
それを正ちゃんのことが好きな俺だけが気付いていた。
単純な俺は正ちゃんにその先輩より俺の方を見て欲しくて、対抗するようにバンドを始めた。
正ちゃんはその先輩のバンドを見て「カッコいい」と呟いた。
だから俺も正ちゃんに「カッコいい」と言われたくずっとバンドを続け、何度も正ちゃんにライブを見に来て欲しいと頼んだがなかなか予定が合わず来てもらえなかった。

だけどやっとライブに来てもらえ、しかも正ちゃんからキスをされた。
嬉しくて嬉しくて、頭がほわほわする。
やっと先輩に勝てた。








補足

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