短編2 | ナノ


▼ 高校生×会社員

同じ電車に乗る高校生と会社員。
それだけの接点なのに、僕は同じ電車に乗る高校生を好きになってしまった。

昔から同性が好きで、そのことに思春期の間は悩み続けた。
マイノリティのためどんなに仲の良い友達でも自分がゲイであることは公表はできないし、自分を偽って女性とも付き合えない。
親には孫を見せてあげれないなとずっと薄暗い思いを抱えていた。
誰かを好きになるということは度々あったが、そのたびにこの思いは絶対に告げちゃいけないことだと心の奥底にしまってきた。
ゲイ友達には告白するだけでもしてみなさいよと言われたが、自分に全く自信が持てず、しかも年の差や男同士ということもあり、告白出来るわけがなかった。
見ているだけで十分で、それだけで満足だった。

だけどある日、彼はいつも1人で電車に乗っているのに、その日は女の子と一緒にいた。
お互い楽しそうに会話している姿にツキンと胸が痛んだ。
彼も若い男の子なんだし、彼女がいてもおかしくないとそう言い聞かせるが、その光景が一日中頭から離れず、仕事に支障をきたすほどだった。
いつのまにか僕はどうにもならないぐらい彼に惚れてるのだと気付いてしまった。
気付いてしまったら気持ちが止められなくなってしまった。
彼に僕を見て欲しい。視線に気付いて欲しい。少しだけでもいいから話したい。

どうしようもない想いに初めて僕は告白しようと決めた。
今日電車で会ったら声をかけよう。変な人だと思われてもいい、彼に僕の気持ちを知って欲しい。
気を引き締めて駅まで向かっている途中、僕は車に引かれ、気が付いたら幽霊になっていた。






幽霊になった僕は自分の葬儀を見守った。
死んだ僕を見つめながら涙を流す親に申し訳ないことをしたとそう思った。
やっぱり孫の顔は見せてあげられなかった、そのうえ親より先に死ぬなんて親不孝者だなと落ち込んだ。
ふよふよと浮きながら最後まで見届けたが、成仏することはなかった。
後悔があるせいで成仏出来てないんだと自分でもわかっている。
覚悟を決めたのに好きな人に告白出来ないまま死んでしまったことが悔しくてたまらない。
こうなるならもっと早く自分気持ちを彼に伝えてればよかった。
名前も何も知らない、本当に同じ電車にたまたま乗り合わせるだけの接点しかないそんな彼のことを、死んで供養されても成仏出来ないぐらい好きだったなんて……。

後悔が尽きず、僕は意味もなく好きな人のもとへと向かった。
僕が死んだとしても、彼はやっぱりいつもと同じ電車に乗っていた。
いつもは遠くから見ているだけだったが、今日は彼の目の前に立ってみた。
だけどやっぱり見えていないのか、全然気付かれない。
だけど逆にそれは僕にとってはラッキーだと思った。
見えないことを良いことに、生きてるときに出来なかったことを死んでから満喫しよう。
俺はそう決めた。

「はじめまして、結城昇(ゆうきのぼる)です。ずっと君が好きでした」



いつもは彼が降りるのを見送るだけだったが、今日は彼と共に電車から降りた。
音楽を聞きながら高校へと向かうが、その道中色んな女子から視線を向けられていた。
やっぱり彼はカッコいいからすごくモテるんだなと実感した。

「羽山(はやま)くんおはよう。昨日のドラマ面白かったね」
前に彼と同じ電車に乗っていたあの女子がコソッと声を掛けてきた。
やっぱり彼女なのかと落ち込んでいると、「おはよう真野。ああやっぱ、山口先生カッコいいよな!」と楽しそうに語った。
2人の会話を聞く限り、昨日やっていた教師が主人公の学園モノのドラマが2人は好きなようで、彼は主人公の教師の性格が好きで毎週楽しみにしているらしい。
会話から甘い雰囲気はなく、直感でこの2人はただの友達なんだと知った。

彼は羽山進(すすむ)と言い、高校1年生の16歳だった。
イケメンな見た目から、一見冷たいようにも見えるがその実、正義感があり熱血ものが好きなようだ。
友達は多くもなくだけど少なくもない。
彼女もいないらしい。

生きていた頃に知り得なかったことを、今こうやって少しずつだが進くんのことを知れていけるのがとても嬉しい。

「このドラマ話題になってるとは聞いてたけど面白いね」
「……」
「この人が進くんが好きだっていう先生か……確かにかっこいい。こんな先生いたらいいのにね」
進くんから返事をもらえないとわかっていながらも、こうやって話しかけることで会話ができているようで楽しい。
そして進くんの隣を歩くことで擬似デートが出来てしまい、意味もなく喜んだ。

その日1日ずっと進くんと居て、色んな進くんを知ってしまい、諦めようと思っていた気持ちは消えなかった。
だけどしたいことができ、俺は満足した。

「今度は絶対に進くんに声をかける。だから待っていて!」







きっと前世で悲惨だった僕を神様は哀れんでくれたんだと思う。

「先生!はじめまして、結城昇(ゆうきのぼる)です。ずっとあなたが好きでした」
何の因果か記憶を持ったまま、また現世へと僕は生まれ変わり、名前も前と同じだった。
そしてたまたま僕の選んだ高校には、進くんが教師として働いていた。







補足

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