短編2 | ナノ


▼ 元同級生×引きこもり

あけましておめでとうございますと喜ぶテレビに映る芸能人を見つつ、僕には関係ない話だと寝室へと向かった。

大学を卒業してから職につかず、引きこもり歴は2年。また僕は無駄に歳を取ってしまう。

昔から相手に強く言えず、言いたいことを我慢する引っ込み思案な性格で小学生の頃からよくいじめられていた。
そのせいでさらに人に何か言えなくなり、自分を表現するなんて出来なかった。
最初は他の人と同じく僕も就職活動を頑張ったが、こんな何も出来ない僕を取ってくれるところなんてなく、就職出来ないまま大学を卒業してしまった。





朝目が覚めると、既に11時を過ぎていた。
仕事で忙しい両親も年始は休みらしく、のんびりと共に朝昼兼用のご飯を食べた。
お雑煮に蟹と豪勢な料理に腹を満たし、幸せな気分でいると、母親に「多分もう年賀状届いてる頃だから取りに行ってきて」と頼まれた。
めんどくさかったが僕を養ってくれている両親には頭が上がらず、渋々ポストへと年賀状を取りに行った。
リビングの椅子に座り、父親宛と母親宛に仕分けしていると『砂原圭太(すなはらけいた)様』という僕宛の年賀状があった。
友達が居ない僕に誰が送って来たんだと差出人をみると『宮地直生(みやちなお)』という中学生の頃の同級生からだった。
確か彼はとてもカッコよく、いつもクラスの中心にいるような人物で、何故彼が僕に年賀状を送ってきたのか……と裏を見ると『結婚しました』という文字があった。

しかし驚くべきなのは彼の隣に立っていたのは女性ではなく、僕だった。……どういうこと?


「ピンポーン」
思わずビクッと震えた。
両親を伺うと2人とも忙しそうに作業をしているので、仕方なく宮地くんからの年賀状を持ったまま恐る恐るインターホンの画面を見ると、スーツ姿の宮地くんが立っていた。
ヒイイイイイと無意識に言葉が出てしまい、腰が抜けた。
母親に何やってんのよと驚かれ、必死にインターホンを指差すと、インターホンを覗いた母親は「あらイケメンねぇ!圭くんのお友達?」と嬉しそうに玄関へと向かって行った。

友達?そんな訳ない。だって宮地くんと話したことなんて片手で数えられる程度しかない。
それなのになんで宮地くんはこんな年賀状を送ってきて、そのうえ我が家に訪ねてきたのかなんて考えてもわかるわけがない。


四つん這いになり、そのまま玄関へと向かいそろりと顔を出すと、ニコニコ笑う母親と照れ笑いしながら頭を下げる宮地くんがいた。
中学校卒業以来会ったことがなかった宮地くんだが、面影はそのままで相変わらずキラキラしており、見ているだけで眩しい。
ジッと二人の様子を見ていると、こちらに気付いた宮地くんと目が合い、笑ってヒラヒラとこちらに手を振ってきた。

「圭太、あけましておめでとう。最近はずっと寂しい思いさせちゃってごめんな」
「もぉ、圭くんったらいつの間にこんなイケメン捕まえたの?お母さんビックリしちゃったじゃない」
「……」
逃げ出そうと、四つん這い状態で後ろを向くと、新聞片手の父親と目があった。

「?圭太何やってんだ?」
「……」
「お父さん聞いてよ!圭くんったら私達の知らないところでこんな素敵な旦那さん捕まえてたのよ〜」








玄関じゃ寒いし入って入ってと宮地くんを我が家に入れ、今までどれも理解できず固ったままの僕も無理矢理立たされて四人で和室へと向かった。

「圭太と付き合わせてもらっている宮地直生です。息子さんと付き合っているうえに籍も入れて、それなのに挨拶が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした」
「直生くん頭を上げて……まさか息子の恋人が同性だってことに驚きはしたけど、この子は仕事はしてないし家に引きこもってばかりで友達も居ないでしょ?だからお父さんと毎晩『どうしよう』って話をしてたの。だけど直生くんのような素敵な相手がいて私達今すごくホッとしているの」
「ああ。いつまで経っても私達にとっては可愛い子どもで甘やかしていたが、そろそろ厳しくしないとなと話し合っていたところだったんだ」
宮地くんの隣に座らされ、俯いたまま話を聞いていたが、二人でそんなことを話し合ってたんだと知り、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「全然気付かなかったんだけど、圭ちゃんとはいつから付き合ってたの?」
「同性ですからね、頑張って隠してたんです。ええと、中学時代からなんでもう10年は経ちますね」
宮地くんの返答に驚いて思わず俯いていた顔を上げ、まじまじと宮地くんの顔を見るが、目が合った宮地くんに「ね?」と微笑まれてしまった。
相変わらずのイケメンで、その顔は全く嘘を付いてる様子がない。

「そんなに?キッカケはなんだったの?」
「あれは確か……」


小学生の頃、俺は弱い者を守るヒーローに憧れていた。
ある日の放課後、家に帰る途中の公園でいじめを見掛けた。
3人がかりで1人をいじめている状況に、ヒーロー魂から直ぐに間に入っていじめられている子を助けた。
いじめられていた子は涙を浮かべながらも一生懸命「助けてくれてありがとう」と伝えてくる姿に、俺は一目惚れをした。
名前を聞くと「砂原圭太」と言い、同じ学年だということを知った。
「何かあれば俺に言ってくれ!直ぐに助けにくるから」と伝えると嬉しそうに満面の笑みで頷いた。
その姿もいじらしく、この子をどんな時でも助けられるようにと、今まで好きではなかった勉強を頑張り、運動にも力を入れた。
いつの間にかヒーローになりたいということよりも、圭太に相応しい男になりたいという気持ちが強くなった。
だけどそんな頑張りとは反対に、あれから圭太は俺に助けを求めることはなかった。
結局学年が上がっても同じクラスになれたことはなく、中学に入ってからも中々接触できるタイミングはなかった。
けれど歳を重ねるごとに想いは膨らみ、見ているだけじゃ我慢出来なくなって、中学2年の時に圭太を呼び出して告白をした。
圭太は小学生の頃俺が圭太を助けたことをずっと覚えててくれてたようで、「僕も助けてくれた時からずっと好きだった」と言ってくれた。
同性同士だということや照れから連絡し合うのが主で、デートはあまり出来なかったが楽しい中学時代だった。
けれど一緒に決めた高校は圭太が受験で落ちたことで、バラバラになってしまった。
高校に入ってから圭太は高校で出来た友達を優先するようになり、それに嫉妬した俺は圭太に冷たく当たるようになった。
やっと高校に入って友達が出来たことに喜ぶ気持ちもわかるが、友達より恋人を優先してくれと言ったがわかってもらえず、売り言葉に買い言葉で別れてしまった。
俺も圭太も意地になってお互い連絡を取らずにいたが、別れてからちょうど2年が過ぎた頃、どうしても圭太を諦めきれなかった俺から連絡をした。
すると「ずっと連絡が来るの待ってた」と言われ、俺と圭太はヨリを戻した。
一回別れたことで圭太の大事さを再確認し、何があっても圭太と居ようとその時に決意した。
残念ながら大学もバラバラになってしまったが、時間が許す限り圭太に尽くした。
大学の時にはもう圭太との結婚を視野に入れていた。
海外に移住してそこで結婚か、それか日本で養子縁組でもいい。
結婚後は圭太には家で俺を待っていてほしいと思い、就活に力を入れ、給料の良い第一志望の大手企業に内定をいただいた。
大学卒業し、入社してからの1年で優秀さを買われ海外支部への海外研修にも行かせてもらった。
そして海外から帰ってきて何もかもが安定した今、ずっと忙しい俺を支えてくれていた圭太にプロポーズをした。
圭太は喜び、事前に準備していた養子縁組書類を記入し、「すぐにでも提出したい」と言い一緒に提出しに行った。
本当は両親への挨拶をしてから書類を提出しようと思っていたが、嬉しそうな圭太を止めることが出来ず、俺は圭太の両親に怒られる覚悟をした。





「圭ちゃんを好きになってくれてありがとうね……」
「怒ったりなんてするわけがないだろう。むしろこんな好青年に息子をもらってもらえて嬉しいぐらいだ!」
「お義母さん……お義父さん………。こちらこそ、圭太を産んでくれてありがとうございます……」
「……」
泣き出す母親に喜ぶ父親、感謝を述べる宮地くん。
そして口をあんぐりさせることしかできない僕。

宮地くんの話を聞いていて思い出したが、確かに内向的な僕は小学時代いじめられていてそれを1度だけ誰かに助けてもらってお礼を言った覚えはある。
だけどその助けてくれた人が宮地くんだったなんて今知ったぐらいで、話も最初の方以外は全く知りもしない話だった。
宮地くんに告白された覚えも、付き合った覚えも、そもそも僕は宮地くんの連絡先すら知らない。


「圭太は俺が幸せにします」
「ああよろしく頼むよ」
「圭ちゃん。これからも直生くんを頑張って支えるのよ」
和やかな雰囲気の今、『これは全部宮地くんの妄想だ』なんて言えるわけがなく、無言で僕はコクンと頷いた。








補足

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