短編2 | ナノ


▼ 平凡×平凡

幼馴染で親友の真咲(まさき)に『スキーに行こうぜ』と卒業式の日に誘われた。

「いいけど誰来んの?」
「まだ利樹(としき)以外決まってなーい」
卒業式が終わった今、しんみりとした空気が流れる教室で突然思い付いたらしく、まず一番に俺を誘ってくれたようだ。
多分楽しいこと好きな真咲は暗い雰囲気が嫌で、ずっと楽しいことを考えてた結果がそれなんだろうなと、長年の付き合いでなんとなく察した。
誰を誘うにしろ、友達の多い真咲ならきっと高校最後を締める卒業旅行に、最高のメンバーを呼んでくれんだろうと期待した。


期待通り、いやそれ以上かも
卒業式の2日後に真咲から『車出してくれる奴誘ったから、明後日の朝の5時に駅で待ち合わせな』と連絡が来た。
急なのはいつものことで『了解』とだけ返し、いざその日を迎えると、真咲は俺と真咲を含む男5人、そして女子5人をスキーに誘っていた。
可愛いと人気な長谷川さんや、美人の秋本さんと最高すぎるメンバーだった。
真咲よくやった!と心の中で真咲を賞賛し、これを機に女子といい感じになれるかもと意気揚々とスキー場へと向かった。
道中さりげなく長谷川さんに持参したお菓子をあげたりとポイントを獲得し、スキー場へ行ったらもしかした2人でぐふふと想像した。


何故なんだ……
男子5人、女子5人なら必然的に男女であまりなくくっつくはずが、何故俺は余っているんだ。
道中のポイント獲得だけじゃやはり長谷川さんは無理なのは仕方ないが、余らないはずの人数配分でなんで俺は余っているのかと周りを見渡し、元凶を見付け睨みつけた。
どうやら真咲は人気女子に飽き足らず、人気男子であるイケメン七倉(ななくら)までもを呼んだせいで、七倉に長谷川さんと秋本さんの2人を一気に取られてしまった。
俺以外の男子は他の女の子とちゃんとくっつき、「雪綺麗だね」「滑り方わからなーい」「もう少し上から練習してみようか。俺が教えるよ」と仲良くスキーを楽しんでいる。

真咲に文句を言いに行きたいが、いかんせん女子と楽しそうにしてちゃそれを邪魔するのは野暮だ。
コノヤロー……!という怒りを必死に抑えつけ、大人しくリフトに乗って、山の上へと1人寂しく向かった。



「たっけぇ……」
下から上を見たときはそうでもなかったが、上から下を見ると思っていたよりも高く、急斜面で滑るのが怖くなって来た。
小さい頃に一度だけスキーはしたことがあるし、一気に上級者向けのコースでも大丈夫だろうと来てみたがこれは無理かもしれない。
引き返そうかどうしようか悩んだが、まぁなんとかなるだろうと、勇気を振り絞って思い切ってスタートを切った。
滑り出しは順調でこれは行けるかもと思ったが、斜面が急なせいで思っていたよりもスピードが出てしまい、スピードを緩めようとするが思ったようにいかない。
転けて止まるしかないのかと頭によぎりつつ、何か良い方法はないか必死に考える。

「止まりたいなら足をハの字にズラして」
どこからか声が聞こえ、とりあえず内股にすると減速していき、そのうちピタッと止まった。
『おお』と感動していると、「大丈夫?スキーは初めて?」と、まだまだ若そうなお兄さんが雪を弾かせ、隣にやって来た。

「昔1回やったことがあるんで出来るかと思ったんですけど、もうやり方は何となくだけしか覚えてなかったみたいで……」
「そっか。上級者コースは危ないから初級か中級ぐらいから始めた方がよかったかもね」
着けてたゴーグルを上にズラし、そう助言してくる男の人にキュンと胸が痛んだ。
白い歯に切れ長の一重まぶた、俳優さんかと思うほどカッコいい……
ボーッと見惚れていると、『どうしたの?』と声を掛けられた。

「あの!俺、槙野(まきの)利樹って言います。18歳です」
「ああ、僕は倉見(くらみ)はじめです。20です」
優しくてイケメンで、そのうえいい年の差
ああすごい……男に一目惚れするなんて、ゲレンデマジックの威力、凄過ぎだろ。



「倉見さんはここら辺の人なんですか?」
「いや、関東だよ」
「じゃあお友達と遊びに?」
「そうだよ」
「あの……少しでいいんで、簡単なスキーのやり方教えてもらってもいいですか」
僕でいいならいいよとニコッと笑う倉見さんは、雪の白さより眩しく、ドキドキが止まらない。
カッコいい……好き……

教えてもらっている間、ワザと出来ない振りをして倉見さんに丁寧に教えてもらったり、軽いボディタッチをしても倉見さんは怒ることはなく、むしろ大丈夫かと気遣ってくれた。
素敵……
一緒にいればいるほど倉見さんの良さがさらに見えてしまい、何をするにもドキドキしてしまう。
俺を気遣ってくれるところとか本当もう最高。
スキーはやめて倉見さんについて質問していると「いたいたやっと見つけたぞ利樹!探したんだからな」と真咲が迎えにきた。

七倉に長谷川さんと秋元さんの2人を取られて余ってしまった怒りも、倉見さんといたことで綺麗さっぱり忘れていた。
そんなこともあったなぁと迎えに来てくれ真咲に近付き「悪い悪い、七倉に女の子取られて余ったから遊んでた」と謝った。
チラッと倉見さんを見ると目が合い、「ん?」と言いたげな表情をしていた。
スキーは今日だけで、明日は市内観光をする。
だからもうこれで倉見さんとはお別れしなければならない。
真咲には先に行っててもらうように言い、再び倉見さんの元へと戻った。

「短い間でしたけど、ありがとうございました」
「俺こそ楽しかったよ、ありがとう」
倉見さんにはお礼だけを言って、そのまま別れるつもりだった。
これはただのゲレンデマジックで、きっと一時的な恋。
だから家に帰る頃にはこの気持ちはなくなってるだろうとそう思ったから。
だけど俺はどうしても我慢できず、再び倉見さんのところへと戻った。

「あの!連絡先をおしえてください!」







スキー旅行から帰ってきても倉見さんの事を忘れられなかった。
むしろどんどんと膨らんでいく想いに、ああもうだめだと俺は倉見さんに連絡を取ってしまった。


出会ったのは何県も隣だが、住んでる場所は電車で大体30分の距離だと連絡を取り始めて知った。
あれから2週間も経っているのに、やっぱり倉見さんのことが好きで、どうしてもまた倉見さんに会いたくて、大学生について知りたいという名目で倉見さんと会う約束をした。

前日から服装を考え、少しでもよく見えるように当日も朝から張り切った。
そのため待ち合わせ場所には30分も早く着いてしまい、今か今かと倉見さんに連絡を取りながら待った。


「おまたせ」
倉見さんの声が聞こえ顔をあげると、ん?と顔を傾げたくなった。
あれ?なんか顔が違う……
スキー場ではとてつもなくカッコ良く見えていた顔だったが、今はカッコ良さはなく普通の顔だった。
なんだそれ、やっぱりゲレンデマジックすげぇとそう思った。


「まずは適当にお店でも入ってお茶しながら話す?」
けれど不思議な話だが、カッコ良さはなく普通だとそう思っているのに、スキー場と同じく俺は倉見さんと会ってからドキドキが止まっていない。
はぁ……、やっぱり好きだ。







補足

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