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女の子の作戦会議

今日はカナメちゃんと二人で薬草の採集。
人気のない森の中。
私はこの機会を心待ちにしていた。
そう、それは恥を忍んで相談するために。
この現状を脱却するには、もう私一人の力では無理だ。

私はツワブキの根を掘り起こしていた手をとめ、ビワの葉を採集するカナメちゃんに勇気を出して話しかけた。

「カナメちゃん……、どう?たくさん採れた?」
「もう少しで今日の必要分が採れますねー。」
「…そう。……たいしたことじゃないのだけどね、ちょっと相談があるのよ…。」
「どうしたんですか?今、聞きますよ。」

チラリと一度目線を私に向けつつ手は休むことなく作業を進めるカナメちゃん。
こんな熱心に採集に励んでいる彼女は今から私が言うことにきっと驚くのだろうな。
私は立ち上がり一度大きく深呼吸してから、思い切って切り出した。

「あの、カナメちゃん!!いや、カナメ先輩!!!」
「…名前さん、どうしちゃったんですか?」
「……その!…あの、その、…男の人ってさ、…ど、どうしたらさ……む、ムラってくるのかな?」

勢いに任せてなんとか口に出した。穴があったら入りたい。
すると、カナメちゃんは手にしていたカゴをバサリと落とした。
ほら、やっぱり驚いている。
せっかく集めた薬草があたり一面に散らばっちゃったよ。

「名前さん!ついに…ついに、その気になったんですね!凄い成長ですよ!!」

うん。何ヶ月か前からね、処女のくせに、その気満々なんです。
ああ、顔から火が出そう。

「まあ……、ちょっと色々と心境の変化が、ね……でも、どうやって先に進んだらいいのかよくわからなくて…。」

私はとりあえず地面にしゃがみ込み、落ちてしまった薬草を集めながら答えていた。
気恥ずかしくてしょうがなくて、とてもじゃないがカナメちゃんの顔をまっすぐ見ることができないんだもの。
すると彼女も一緒に地面に座り込んだ。
そして私に顔をずいと寄せてきた。

「つまり、名前さんから誘いたいってことなんですね!!!」

…………その赤裸々な表現、恥ずかしすぎる。

「そ、そうなるのかな。」

私の告白に彼女はちょっと興奮気味。
熱心に相談に乗ってくれるのは大変ありがたいことであるが、私の目は思わず泳いだ。
だって、かなり恥ずかしい。
私の人生で、抱かれたいんですって人に打ち明ける日が来ようとは思いもしなかったよ。

「外食にしようかって言われても私の家に来てもらう流れに無理やり持って行ったり、あえてヤマトさんの隣にぴたって座ってみたりね、努力したんだけど。なかなか上手くいかなくて……。」
「名前さん、結構積極的に頑張ってるじゃないですか。偉いですよ。」
「そうでしょ?精一杯やったのよ!でも、惨敗。なんかいい感じかなってタイミングでいっつもね、彼、帰っちゃうのよ。」
「きっとあれでしょ。ヤマトさん、名前さんのこと大切にし過ぎて手を出すタイミング見失っているんでしょ。」

カナメちゃんは淡々と1+1=2でしょ?当然でしょ?とでもいったように簡単に答えてのけ、散らばったビワの葉をカゴに戻しだした。
でも、私はそんな単純な問題にとてもじゃないが思えない。

「……そうかなあ?」
「そうですよ。たまに薬局に来るヤマトさんから名前さんのことスキーてオーラがいつも出てますもん。」

なんだそりゃ。

「でもね、最近キスすらしてないの。おかしいと思わない?きっと私、魅力ないんだと思うの。セクシーな服とか着た方がいいのかな?思わず手を出したくなるようなやつ!そんな服持ってないけど!」

あああああ、ずっと一人で心に溜め込んでいた不安が止まらない!
だんだん悲しくなってきた。

「とりあえず落ち着いてください。名前さんはそのままで問題ないですから。きっとヤマトさん、タイミングを図り損ねているだけですよ。どうしたらいいかなあ。」

手を休めて、真剣に悩んでくれるカナメちゃん。頼みの綱は貴女しかいないんです。

「思ったんですけど、いつも名前さんの家で会うんですよね?」
「そうね。あとはたまに外食のこともあるかな。」

ご飯作るのって使い慣れたキッチンがやりやすいし、いつも私の家だ。
たまに家に誘うのを失敗して外食の時は送ってくれるけど、お茶でもどうですかって聞いてもこのところ断られて帰ってしまう。

「ヤマトさんの家で会ったらいいじゃないですか?そしたら、帰られちゃうことないですし。居座って一晩共に過ごしたら流石になるようになるでしょ。」
「なるほど。目から鱗の発想だよ。」

さすが私の恋愛の先輩。カナメちゃんは天才かもしれない。

「でも、どうにかなるかなぁ……私は何も起きずに一晩終わる気がする……。」
「どこまでも後ろ向きですね。据え膳食わぬは男の恥っていうでしょ。流石に大丈夫ですって。でも、名前さんからそんな積極的な発言が出る日が来るとは思いませんでした。いったい何があったんですか?」

何があったか、か。
長期任務に出る前に彼が私を求めてくれたのがきっかけではあった。
あれからというものの、今までとは違う視点で彼の魅力に身体が疼くばかりだ。
でも、ここ最近は焦りみたいな気持ちもある。
何も起きない私たち。
キスがないことを除いてはいつもどおりなのだが、ヤマトさんを遠く感じて仕方がない…
そして私は…彼の唇で身体で、この寂しさを埋めてくれたらなって思ってしまう。
もちろん経験ないわけだし怖さも大きい。
もしかして、このまま今日こそ先に進めるのかもって思うと緊張で身体は強張るけれど…それでもヤマトさんの心も身体ももっとそばに感じたい。
今の現状はさみしくてたまらない。

「名前さん?聞いてます?」
「…あ、ごめん。…つまりはあれよ。好きで好きで好きで不安ってことかな。」

思っていたよりも、自分の声は頼りなげに出ていた。

「大丈夫ですよ。私の見る限りヤマトさんは名前さんにベタ惚れです。一晩居座ってみて下さい。」
「ありがとう。そうだといいのだけど……頑張ってみる…。本当にありがと。」

優しく笑って励ましてくれるカナメちゃん。
こんなお子様な私の悩みに真剣に向き合ってくれる彼女には感謝の言葉をいくら言っても言い足りないな。
心が少し軽くなったよ。勇気を出して相談してよかった。

「次、会うのはいつですか?ヤマトさん宅に入り込めそうですか?」
「今週の土曜なの。久しぶりに二人ともオフだから、映画を見に行く予定。」
「いいじゃないですか。その日の夜に頑張って押しかけて問題解決です。」

そんなにスムーズに事が運ぶとは思えないけれど。
まず押しかけるってどうすればいいのかもわからないし…。
あれやこれや彼の家に入り込む算段を立てていると、私の頭にふと一つの願望が生まれた。

「どうせ押しかけるなら…。」
「なんですか?」
「二人の休日が重なることって凄く稀なの。せっかくだし…デートの前日の夜に押しかけちゃえば一緒に過ごせる時間がもっと延びるなって思ったの。」

するとカナメちゃんは少しばかり目をぱちくりさせた。
なにその反応……気まずいじゃない。

「貴女、本当に名前さんですよね?」
「名前です。なに?私そんなに変なこと言った?」
「いや、なんだかもう名前さんの成長に涙が出そうなんですよ。やっと普通の人の感覚に追いついたんだなあと思って。」
「…………失礼しちゃう。」
「すみません。押しかけちゃえばいいじゃないですか。その案、採用です。」
「でも、忍のお仕事って私の想像を遥かに超える大変なものだろうし、約束の日の前日に急に訪ねられたら迷惑かな。カナメちゃんならどう?任務から帰ってきて、くつろいでいる時に急に恋人が来たら嫌じゃない?」
「もう何年も薬剤部所属だから任務に出ることは少ないですけど、私は嬉しいですよ。でも、ヤマトさんは私とは違って想像を絶するハードな高ランクの任務をされているとは思います。」
「だよね、やっぱりやめとく。」
「でも、反対の立場で考えてみてくださいよ。もし急患が物凄く続いて名前さん今にも倒れそうなほどお疲れだとするじゃないですか。そんな時にヤマトさんが現れたらどう思います?」
「私は疲れ吹っ飛ぶよ!」

間髪入れずに思わず口から出ちゃった。
ああ!恥ずかしい。

「ヤマトさんもそう思われるんじゃないですか?ハードな任務でお疲れのところに大好きな恋人が来たら癒されますよ、きっと。」
「そうかなあ?」

急に訪れた私を見て目元を優しくほころばせる彼を想像してみた。
それが現実になったら……凄く嬉しい。

「まず、彼氏の家を訪ねるのにそこまで気を使わなくてもいいですよ。」
「そっか…恋人同士なんだもんね。でも、なんて言って押しかけたらいいと思う?」
「会いたくて来ちゃった、はーと、とかどうです?」

なるほど、できる女子は男性をそうやって自然と誘惑していくものなのか。
ヤマトさんにそう告げる自分をイメージトレージングしてみる。

「……………。」

…けっこう恥ずかしいな。
これまた私にはハードルが高い。

つづく