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一人の朝

なんて豪華なご飯。
普段は朝ごはんなんて前日の残り物を適当に食べておしまい。
でも、昨日はヤマトさんと夕食をともにする約束だったから、もしかしたら今夜こそ私の家にお泊りって展開になるかも……いや、そうしたい!て意気込んでいた。
で、私は夕食の下準備だけでなく、次の日の朝食の準備まで抜かりなくしてしまった。
だけど結果、手を出されないまま。

そして今、一人で寂しく豪華な朝食を取っている。
朝からこんなにきっちり一汁三菜用意しちゃって…馬鹿だなあ。
ヤマトさんと食べたかった。

会うたびに悶々として、あの夜を相変わらず思い出してしまう。
だけど、特に進展なんてない。
いや、むしろ後退?

昨日もそうだった。
勇気を出して、食後に彼の隣に腰を下ろしてみた。(これでも頑張ったのよ!)
そしてヤマトさんの肩に頭をコテンってのっけてみた。
私としては精一杯のアピールだったの。
本当は…………き、キスの一つでもしたら……
彼もそういう気分になるかなって考えていたんだけど…
久しぶりの至近距離に心臓がバクバク煩くて。もたれかかるだけで、もうこのまま倒れるんじゃないかと思った。

ずっと一人で思い描いていた貴方の胸板がすぐそこにある。
私は今までどうしてヤマトさんを目の前にして、のほほんとしていられたのだろう。
一度ヤマトさんを男だと、いや、雄だと、はっきり認識してしまってからというものの、一緒にいると以前とは違う息苦しさにさいなまれる。
彼の目が指が声が、すべてが私を欲情させてたまらない。
心臓が口から飛び出そうだった。
胸のドキドキがおさまらない。

いろんな欲望が沸々と湧きあがってしまう。
抱きしめて
キスして
そして、今夜、私を貴方のものにして
すると、彼は立ち上がった。

「そろそろ帰ろうかな。」
「もう帰っちゃうんですか?」
「ああ、明日朝早いんだったよ。」

思わず出た私の本音に爽やかに笑顔で返し、そのまま玄関に直行。
嘘でしょ…。
で、帰っちゃった。
昨日も惨敗。

シジミのお味噌汁をずずっと啜ると、その音は一人の部屋に寂しく聞こえた。
ヤマトさんに飲んで欲しかったなあ…。

なんかもう最近は物足りなさ過ぎて泣ける。
よくわかんないけど、キスすらないし…。

でも、その割には
次いつ会えるかな?とか、会いたかった、とか
名前のご飯は本当に美味しい、とか
相変わらず私が喜ぶことをたくさん言ってくれる。
だからヤマトさんの気持ちを疑っているわけではないのだけれど。

手を繋いで
一緒にご飯食べて
楽しくおしゃべり
お茶してさようなら。
これじゃあ、アカデミー生の交際みたいなものじゃない?
いや、最近の子はもっと進んでいるかもしれない。
キスの一つや二つしてるかも……?

私はこんな清い関係じゃなくてさ、まあ、あれよ。
もうちょっと大人な情事をヤマトさんとしてみたいというか……

キスの時みたいに彼は私の事を待ってくれているのだと思っていた。
だから、心の準備ができたらきっと喜んでくれて自然とそうなるものだと思っていた。

……あの夜、あんなにも熱く私を求めてくれたのに。
どうして?
最近、ヤマトさんがよくわからない。
そして、遠く感じてしまうのは気のせいだと思いたいけど、きっと事実、遠い。

あの夜より前の方がずっと彼の心を傍に感じていた気がする。
お互いが思いあっていて、心に隙間なんて1ミリたりともないように以前の方が思えた。

どうして私は今、こんなに寂しい気持ちを抱えているのだろう。
一緒にいてもヤマトさんが足りないって思っちゃう。
あの日もし身体を繋げていたら…こんな心にポッカリ穴が開いたような気持ちは味あわなくてすんだ?

すごく、すごく好きでたまらないから、身も心もヤマトさんに寄り添いたいだけなのに。

つづく