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8月10日 3

家に着くと、すぐ出せますんでちょっと待ってて下さいね。
と、言われダイニングテーブルに座った。
すると、次から次へと僕の好物が並べられ向かい合って食べた。

「ありがとう。凄く美味しい。」

僕の言葉を受け、彼女の目元はまた潤み指で涙を拭っていた。

「食べてもらえないんだろうなって思いながら作ったから…凄く嬉しくて。」

こんな手の混んだ沢山の料理、そんな気持ちで作るのはどれだけ辛かっただろう。

「本当の本当に美味しいし嬉しい。僕の好物ばっかりだ。」
「涙腺が今日は壊れちゃったな。」

食事を終えると名前はロウソクに火が灯ったケーキを出してきた。

「ヤマトさん、フーてして!」
楽しそうに言う君は本当に可愛いよ。

「クルミがたくさん入ってて美味しい。もしかして、手作り?」
「そう。市販のものの方が綺麗だし美味しいかなって思ったんだけどね、クルミをこれでもかってぐらいいっぱい入れたの出したいなと思って焼いたの。」

はにかんで言う君を見て思った。
もしかしたら、僕は来ないかもしれないって思ってたんだろう?
それなのにケーキまで焼いたの?

本当に僕は馬鹿だ。
君はこんなにまで思ってくれているのに、なんで疑ったんだろう。
あの日の自分を殴ってやりたいよ。

「凄く凄く凄く嬉しい。」
ケーキをフォークで刺しながら、口からポロリと出ていた。
「ヤマトさんは大げさだなぁ。」
言葉とは裏腹に名前もとても嬉しそうだった。

ケーキも美味しく食べ終わった頃に彼女は言った。

「あとね、もう一つあるの。」

えっ、もしかして、先輩が言ってた………
男なら絶対に一番喜ぶからってやつですか!?
いや、まさかな、名前だ。それはないよ。
でも、力説しといたって言ってたし………
もしかすると、もしかするかも!

変な期待でドギマギする僕にポケットから小さな紙袋を取り出し渡してくれた。

「いろいろ凄く悩んだの。こんなのだけど凄く気持ちは込めたから。」

そうだよね。やっぱりプレゼントは私よ、なんてことはないよな。
でも、これは何だろう。
小さくて、薄い。

「開けてもいい?」
と、問えば彼女は頷いた。

カサリ、と袋を開け中を見て驚いた。
それは僕の意表をついて喜ばせるものだった。

「お守りだ。しかも手作り?」
「そう、手作り。だから御利益は怪しいけど、ヤマトさんが無事に帰ってくるようにって気持ちは凄く込めてあるから。」

彼女は恥ずかしそうに髪を耳にかけながら言った。
そして、首にかかるネックレスに触れて続けた。

「ヤマトさんがこれをくれたのが、私とても嬉しかったの。だから、何か渡したいなってずっと考えてて。でも、こんなのでごめんね。」

こんなの、なんかじゃないよ。
上手く言葉にできないほどの喜びだった。

だって、ずっと欲しかったんだ。

まだ子供の頃、親の手作りのお守りを持っている子が結構いた。
いいなって、僕もあんなの欲しいなってずっと羨ましかった。
でも、僕は孤児だしそんなの作ってくれるような人はいなくて。

さすがにここ10年ぐらいは、そんなことすっかり忘れていたけど。

「ずっと、欲しかったんだ。本当に欲しかった。」

大人になった今ならはっきりわかる。
帰りを心待ちにしてくれて、この人のところに帰るんだって思える存在。
心から僕の身を案じてくれる絆のある人がずっと欲しかった。

幼き日の僕に教えてあげたい。
大丈夫だよ、僕の無事を祈ってくれる人は現れるよって。

「大切にする。本当にありがとう。」

これからはもっとちゃんと君のこと大切にする。
だから、僕の帰りを待っていて。

ーー

よくわからないけれど、私のお手製のお守りにとても感動しているようだった。
彼はまだ大事そうにお守りを見つめている。
ここまで喜ぶとは思わなかった。

もし仲直りできて受け取ってもらえるなら、何が良いのか凄く悩んだ。
彼は気持ちとか、思いを大切にする人だ。
だから、お金を出して買えるものより、手作りの何かの方がいいかなって思ったのだけれど、それは正解だったみたい。
もう子供じゃあるまいし、お守りってどうなんだろうとも悩んだ。
だけど彼の身にもし何かあったらと考えると不安で眠れない夜もあるし、本当に心を込めて一針一針縫った。

「生まれてから一番幸せな誕生日だ。」

ヤマトさんはお守りを宝物をしまうかのようにベストの内ポケットに入れた。

御利益も怪しい私の手縫いのお守りだよ?本当に大げさな人だ。
でも、そんな彼を見て私は思う。

愛おしいなって。

こんなに喜んでくれるなら、お守りだって料理だってなんだって作るよ。
もっともっとヤマトさんの喜んだ顔が見たいよ。

すると、ふとカカシさんの言葉が頭をよぎった。

“男は絶対にそれが一番喜ぶから”

そうなんだろうか。
ヤマトさんは私を欲しいと思っているのだろうか。
カカシさんが言うように私を丸ごともらって下さいとはできそうにないけど、キスぐらいなら頑張れそうな気がしてきた。
というか、私が今ヤマトさんにキスしたいのだ。
彼にもっともっと心も身体も近付きたい。

立ち上がって、椅子に座る彼の横に立つと
「どうしたの?」
と、彼は私を見上げた。

私は身をかがめ、サッと彼の唇に唇を合わせて直ぐに離した。
ヤマトさんは何が起こったのか理解できないとでもいった顔で呆然としている。
今の私じゃこんな掠め取るぐらいのキスが精一杯。
でも、我ながら大きな一歩だ。

「お誕生日おめでとう。」

すると、彼の頬にはどんどん赤みが刺していく。
可愛いな。
こんなヤマトさんが見れるなら頑張った甲斐がある。
まだまだお子様な私だけど、ちょっとずつ前進していくから、もう少し待っててね。

ーー

何が起こったのか一瞬よくわからなかった。

「お誕生日おめでとう。」

イタズラが成功したとでもいう顔で彼女が言ったのを聞いて
ああ、今、キスされたんだって、気付いて

…………………名前からキス!?!?
嘘だろ!?

「えっ?えっ?えっ?」

顔が熱くなっていくのがわかる。

「ヤマトさん、可愛い。」
と、彼女は笑っていて。

どうしよう、嬉しい。
念願のキスだ。しかも彼女からだなんて!
最高のプレゼントだよ!

でも、一瞬過ぎてよく覚えてない。
すると僕は自然と口走っていた。

「もう一回して。」

彼女はぎょっとした顔をした。

「だって、いきなりだったしよく憶えてないのが勿体無いんだ。」
「無理。」

間髪入れずに言われた。
なんだいそれ?

「ケチだな。」
「ケチで結構。」
洗い物してきます、と逃げようとする彼女の腕を思わず掴んだ。

「じゃあ、いいよ。僕からする。」

そのまま立ち上がり、手を彼女の肩にそっとのせた。
君の唇の感触をもう一度確かめたい。
顔を近付けていくと、彼女の顔がどんどんと赤く染まっていく。
本当はこのまま君を丸ごと食べたいぐらいなんだよ。

すると、彼女は僕の予期せぬ行動に出た。
ガッと手で僕の顔を押し返してきたのだ!

「別日でお願いします。」
「どうして?」

酷くない?
さっきは自分からしてくれたじゃないか。

「さっきので私の頑張りゲージは使い果たしたの。渾身の一撃だったの。」

僕の大好きな赤い顔で君は言う。
ズルい。そんな可愛いことそんな顔で言われたら、僕が折れるしかないじゃないか。

「はぁ…じゃあ別日。約束だよ?」
「私、洗い物しなくっちゃ。」

彼女は顔を赤くしたまま目を泳がし、そして逃げていった。

名前は普段、手を繋いだだけでも照れてしまって仕方ないのに、不意に大胆なことをしてくる。
いきなり一緒の布団で寝たり
いきなりキスしてきたりとか
君は本当に僕を振り回す。
まっ、それがたまらなく幸せだったりするんだけど。
でも次は逃さないからね。
覚悟しててよ。


おしまい