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8月10日 2

凄くショックだった。
名前が僕に嘘をついたこともだけど。
何より悲しかったのは、先輩の話を出した途端に頬を赤く染めて慌てたことだった。
僕だけに見せてくれる顔だって思ってた。
僕のことを考えて頭がいっぱいになってるんだって。
そんな君を見るのが幸せでたまらなかったのに。
他の男を思ってそんな顔しないでよ。

それって、つまり…こういうことだろ?
カカシ先輩のこと、好きになったんだろ。

僕と名前が飲みに行く時、先輩が何度か冷やかしで付いてきたことがあった。
名前と先輩はそれがゆっくり話す初めての機会だったようだが、2人とも社交的だし話は盛り上がった。
僕としても大好きな彼女と尊敬する先輩の三人で飲むのは楽しかったりもして、たまにはこういう機会も悪くないって思ったんだけどな。
こんな結果に繋がるなんて思いもしなかった。

ライバルがカカシ先輩、か。
敵いそうにないよ。
仲間思いで、強くて、カッコよくて、僕が一番尊敬している人だ。
しかも今、火影。

やっと名前を手に入れたって思ってた。
でも僕が好きで好きでたまらなく好きで、頑張ってアプローチしてなんとか付き合えたようなものだから。

僕は早く君の唇も身体もすべてが欲しくてたまらないけど、手を繋ぐだけでもいっぱいいっぱいの君で。
僕のほうが圧倒的に好きが多いんだ。
だから、いつも不安でたまらなくて。
でも、君が頬を染めて笑いかけてくれるから大丈夫だ。
ちゃんと恋人同士なんだって思えたのに…
もう、その顔さえ向けてくれなくなるんだ。
胸が張り裂けて死んでしまいそうだよ。

ーーー

一週間が過ぎた。
あれから、名前とは顔を合わせていない。

一度、夜に部屋を訪ねてきた。
会ったら別れを切り出されるかなと思うと怖くて扉を開けるのを戸惑う自分がいた。
すると、チャイムはもう一度鳴った。
玄関からも部屋の明かりが付いているのは見えるから、中に僕がいるのはきっと名前もわかっている。
でも、出たくない。
別れたくない、嫌だ、会いたくない。
しばらくして、彼女の気配は離れていった。

いつまでも逃げ回っているわけにはいかないけれど、彼女が自分のそばからいなくなることを思うと絶望だ。

今日は待機。気付けば溜息ばかり漏れてしまう。
こんな日の待機は辛い。時間が経つのが遅く感じる。もういっそのこと過酷な任務でも入らないかな。その方が何も考えなくてすむのに。

昼時になったけれど、僕はソファーに身体を預け無気力に座ったままだ。
何処かに食べに行く元気もないよ。
すると、銀髪頭の見知った顔が現れた。

「テンゾウまだいたいた。お昼行こうよ。」

先輩はこの一週間の間も、いつもの調子。
僕は今あんまり貴方と話したくないんですけど。

「お腹空いてないんでいいです。」
「せっかく今日ぐらいは俺が奢ってやろうと思ったのにさ。ほら、行くよ行くよ。」

どういう風の吹き回し?

先輩に無理やり引っ張られていつもの定食屋に入った。
いつものでいいでしょ?と、言って、先輩は焼き魚定食と和食日替りセットを頼んだ。

いやぁ、やっぱり俺ってホント優しい上司だな、とかブツクサ呟いてる。
なんなんだよもう。

料理が運ばれてきても、僕は食べる気分にはなれない。
だって今この人といるのは辛すぎる。
すると、そんな僕を見て言った。

「もしかしてオマエ今日の夜の御馳走のためにお昼抜く気だったの?」
「御馳走?なんの話ですか?」
「だってテンゾウ、今日は名前ちゃんと会うでしょ?」

さも決定事項を話すかのように言われた。

「会う約束なんてないですよ。」

僕は暗い声で返した。
先輩は顎に手を当てて考えている。

「おかしいな?」
「…喧嘩してるんで。」

なんでこの人にこんな話をしなきゃならないんだ。もうほっといてほしい。
すると、先輩は驚いた様子で目を大きく見開いた。

「喧嘩?なんでまた?オマエら見てるこっちが恥ずかしくなるほどラブラブでしょ?」
「いや…その、たぶん……名前は他に好きな人ができたんだと思うんです。」

今、僕の目の前にいる貴方です。

「オマエそれ絶対に思い違いだよ。」

先輩は笑う。

「確信しているんです。」
「いや、ないない。」

先輩はまた笑う。

「ホントに!」
「またまたー、ちなみに誰だと思うの?」

面白可笑しいとでもいった様子で目の前の男は笑っている。
もう、腹が立ってきた!

「先輩ですっ!」

すると、持っていたお箸をぽろりと落とし、身体を大きく揺らして笑いだした。

「テンゾウ、おもしろすぎでしょ!」

ヒーヒー言ってるし。
なんでこんな笑われなきゃならないんだ。

「僕、見たんですよ。先輩と名前が甘栗甘から出てきたとこ。」

まだ笑いがおさまらないのか、片手で腹を抑え身体を震わせている。

「名前、先輩を見て頬を赤く染めてました。僕が行ったらさもお邪魔虫な雰囲気でしたし…。」

笑いを落ち着かせるためか、先輩は一度お茶を流し込んだ。

「あっ、見てたんだ。それオマエの話してたんだよ。」
「でも名前、薬剤部の子とお茶してたんだって嘘ついたんですよ。それって僕にやましいことがあるからでしょう?」

自分で話してて悲しくなってきた。
すると、やっと笑いが落ち着いたのかコホンと一度咳払いしてから言われた。 

「テンゾウさ、今日、誕生日でしょ?オマエに何か渡したいけどどんなものが喜ぶかって相談受けてたんだよ。」
「えっ?」

一瞬頭が真っ白になった。
そういえば、そうだ。今日は誕生日だ。

そんな僕を見て、先輩は苦笑いしている。

「恋は盲目っていうけど、オマエ馬鹿過ぎでしょ。」
「……………。」

馬鹿すぎる。

「せっかく俺が頑張ってアドバイスしといてやったのに、プレゼントもらいそこねちゃうかもよ?」
「はあ。」

思わず気の抜けた返事がでた。

「名前ちゃん、テンゾウのこと喜ばしたいって言うからさ、男はやっぱりまるごと私を貰ってっていうのが一番だよ!て、力説しといてあげたのにさ。」
「……………………。」

うんうん、と良いことしたとでもいうかのように一人頷く先輩。
なるほどね、名前が頬を染めたワケがわかったよ。
あのウブな彼女がそんな話に動揺しないわけないじゃないか。

ーーー

昼食を終えて、待機所に戻ってからずっと考えている。
どうしよう。
僕はとんでもなく酷いことをした。
自分が吐いた発言を思い出し、激しい後悔に襲われる。
先輩とどんな話してたかなんて、そりゃ言えるわけないよな。
キスすらまだの僕らなのにさ。
しかも、過去のことまで攻め立てた。
村に帰るかどうか話さなかったことについては、彼女から心のこもった手紙を貰い凄く嬉しかったのに。
その上、せっかく僕の部屋まで訪ねて来てくれたのに、それすら無視だ。
最低だ。
もう、嫌われたかもしれない。
なんて詫びたらいい?

待機の終わりの時間がきて、待機所からは人が出て行っている。
僕ももう上がりの時間だ。

名前を見つけ出して、謝りに行こうとは思うものの、何て言えばいいのだろう。
怒っていて、会ってすらくれないかも。
答えが出せず、座り込んだままだ。

なんだか入り口のあたりが少しざわついているな。
すると、出て行ったはずのゲンマさんが戻ってきてニヤニヤとした顔で僕を呼んだ。

「ヤマトー。名前ちゃん、迎えに来てるぞ。」

なんだって!?
僕は慌てて椅子から立ち上がった。

―――

そろそろ、ヤマトさんの待機が終わる時間じゃないかと思うんだけどな。

私、今、不審者っぽいかも。
でも、こうでもしないと彼に会えないんだもの。
私は上忍待機所の入り口付近の茂みに隠れながら、扉の様子を伺っている。

ヤマトさんが出てきたら捕まえて、謝る。
そして、もしこの後、予定が無ければ私の家でご飯食べませんかって言う。

来てくれるかなんてわからないけど、今日は朝から料理を作って、ケーキを焼いた。
ささやかながら、いちおうプレゼントも用意してみた。

でも、きっと無視されちゃうんだろうな…
家にも一度行ったけど、出てきてくれなかった。
物凄く怒っているんだ。
自分の浅はかな行動のせいで彼を失うのかもしれない。
いや、もうヤマトさんの中では私と終わったことになっているのかも。
涙が出そうになるのをグッと堪える。

あっ扉が開いた。
ゾロゾロとたくさんの上忍の方が出てくる。
ヤマトさんを見逃さないよう、注意深く見ていると

「名前、何やってんの?」
アンコさんが近付いてきた!

あっ、そっか。そうだよね。
みなさん、忍だもんね。こんな不審者紛いの隠れ方してるの見抜いて当然だよね。
仕方ないから茂みからザバっと出た。

すると、
「ホントだ。」
「名前ちゃんじゃんか。」
「何隠れてんの?」
「頭に葉っぱついてるぜ。」

ワラワラワラと、上忍の皆さんに囲まれてしまった。
あぁ、この展開はまったく予想してなかった。
自分のバカバカバカ!

「あーえっと、ですね。…あの…その、あのですね…」
「どうせヤマトだろ?呼んできてやるよ。」

ゲンマさんが気を利かせてくれた。
心の底から感謝致します。

一週間ぶりに会う。
ヤマトさんは私の顔を見てくれるのだろうか。
話を聞いてくれるのだろうか。
なんて謝ったら許してくれるのだろう。
もう、私の事なんて嫌になった?

怖い。

ーーー

僕が慌てて待機所から出ると、みんなに囲まれて君は肩身狭そうに立っていた。

まさか、名前から来てくれるなんて思わなかった。
謝りたい。
とは、思うがこのギャラリーはなんだ…
行こう、とだけ言い急いでその場を後にした。

特にあてもなく足を進めた。
名前は僕と少し距離をとって後ろをついてきている。

なんて切り出したらよいのだろう。
彼女は今どんな思いなのだろうか。
もしかすると、もう僕のこと嫌になったかもしれない。
幻滅した?
確かめるのが怖い。

気付けば彼女の家に向かうときよく使う道に出ていた。
この前この道を通った時は今と違って幸せで倒れてしまうかと思ったのにな。
あの日、初めて彼女から手を繋いでくれたのだ。
驚いて彼女を見ると照れたように笑っていて、凄く嬉しくて思わずキスしたくなった。結局、額にしたのだけれど幸せで胸がいっぱいでたまらなかった。
こんな風にこれからも君が僕に歩み寄ってくれますようにって、暖かな気持ちになった。

また、あの時のように幸せな時間を刻みたい。
こんな僕だけど許して欲しい。
君なしじゃもう無理なんだ。

歩みを止めて、後ろを振り返り言った。

「ごめん。カカシ先輩から全部聞いたよ。僕のこと祝ってくれようとしてたんだろ。」

すると、君はうつむいた顔を少し上げてコクリと頷いた。

「その、本当にごめん。僕、いろいろと勘違いしてて酷いこと言った。ごめん。」

顔を上げた名前の瞳は不安で揺れている。

「もう、怒ってない?」
「怒ってないよ。」
「本当に?」
「凄く悪い事したなって思って反省してる。許して欲しい。」

すると、彼女の瞳にはどんどん涙が溜まっていって、ポロポロと泣き出してしまった。
しゃくりあげて泣きながら、彼女は言った。

「ごめん、安心したら、涙が出てきちゃって。」

こんな彼女初めて見た。
この一週間辛かったのは君もだったんだね。

「ごめん。本当にごめん。」

すると、彼女は首を振った。

「謝らないで。私が悪いんだもの。嘘付いてまた黙って、ヤマトさんのこと傷付けた。同じこと繰り返してもう嫌われたと思った…。」

嫌いになんてなるわけない。
好き過ぎて困っているんだから。

彼女の目からはダムが決壊したみたいに涙が次から次へと溢れ出す。
こんなに泣かせるだなんて、思いもしなかった。

「違うんだ。その…怒ってしまったのは先輩に焼いてて……だから泣き止んでよ。」
「焼きもち?」

彼女は意外そうな顔で僕を見た。

「そう、名前が先輩のこと好きになっちゃったと思ったんだ。家まで来てくれた時もきっと別れ話だと思って怖くてでれなかった。」

僕は正直に打ち明けた。自分がかっこ悪すぎて情けなくなるよ。
すると、名前は目をこれでもかとばかりに見開いてよほど驚いたのかちょっと大きい声を出した。

「私が!?私がカカシさんを好き!?」
「……そう。」

これ、凄く恥ずかしいな。

「ヤマトさん、馬鹿じゃないですか?」
「それ、今日、先輩にも言われたよ。」

そこからは、なんでまたそんな勘違いを、とか、ありえない、とか、しまいには
「なんかもう、ヤマトさんの思考回路がわけわかんなくて面白くなってきました。」
と、言ってえらく笑いだした。
お腹を両手で抑えて身体を曲げ我慢できないといったように、大笑いされてしまった。

「僕も今は馬鹿だなって思うけど、本当に真剣に悩んだんだよ。」
「すみません。でも、本当になんでそうなっちゃうのかなって思うと…。ふふ。」

またケラケラ笑ってる。
そこまで笑うだなんて酷いよ、とは思うものの、いつの間にか彼女の涙が止まっているから、まっ、良しとするか。

しばらくして落ち着きを取り戻した彼女は言った。

「ヤマトさんがもしよければ、私の家に夕飯食べに来ませんか?」
「もちろん行きたいな。」
「よかった。」

そして、どちらからともなく手を繋いで家へと歩きだした。