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お迎え3

ヤマトさんはやっぱり素泊まり宿ではなく温泉旅館を取っていた。

あの人にはお手上げた。
そこはかとなく優しい。

私は露天風呂で一人、肩まですっぽり浸かって先程のやり取りをあれこれ思い出していた。

宿に着くやいなや、部屋は2部屋取ってるから安心して、と優しく告げる彼。
勿体無いよーとは思うが彼氏いない歴=年齢をついこの間やっと卒業した私が同じ部屋に泊まる勇気はもちろんない。
せめて私の部屋代ぐらい受取って欲しいと申し出るがうまくかわされてしまうし…。

誠実で優しくてカッコよくて可愛いくて…
彼はどうして私がいいのだろう。
あぁ、好き過ぎて困る

そんなこと考えていたら、のぼせてきちゃった。
いい加減出よう。ゆでダコになっちゃう。
そう思い、ザバっとお湯から出た。

ほどよくお腹も空いてきたな。
夕食は今回も部屋食でヤマトさんの部屋に運ばれるらしい。
申し訳ない、お金勿体無い、すみません、と思う反面、温泉旅館のフルコースなんて自分じゃ作れないものばかり出るし凄く楽しみだったりする。
ここはヤマトさんの好意に素直に甘えさせてもらおう。

夕食は6時から。
まだちょっと時間があるが、彼の部屋で一緒に待つつもり。
迎えに来てもらったことは本当に申し訳ないとは思うがやっぱり嬉しいのだ。
私だってずっとずっと会いたかったのだから。

部屋を叩き中に入れば浴衣を着て窓際の椅子に腰掛けるヤマトさんがいた。
今更だが、好きな人。そして、彼氏(信じられない!)である彼と一つの空間に二人きりということに緊張してしまう。

それに、浴衣。
前回も見たけど、浴衣の破壊力は凄い。
忍服姿も好きなんだけどね、浴衣だと肩幅の広さとか胸板の厚さとかいつもと違う視点で感じてしまって、か、カッコイイ…
しかもヘッドギア外してる。レアだ!
あの胸に飛びつきたい!

ドアの前から動かないまま固まっている私に、彼は不思議そうな顔をした。

「名前さん、どうしたの?座ったら?」
「あっ、はい。失礼します。」

この私がそんな大胆な行動にでる訳もなく、おとなしく向かいの椅子に腰掛けた。
今まで部屋で二人なんてことは何度かあった。
でも“恋人”という関係になってからは今が初めてなのだ。緊張感とともに、こそばゆいような、それでいて幸せな気持ちに包まれる。

いいお湯でしたね、とか、
窓際に座っていたら凄く気持ちよくて寝てしまいそうだ、とか、
今日みたいな夏が来る前のまだ少しひんやりした空気が残ってるのが好き、とか
そんな話をしてまったり過ごしていたら中居さんが料理を運びにきてくれた。

私じゃ作れないものばかり!
幸せだ!ありがとうヤマトさん!
私があれもこれも美味しい、美味しいとはしゃいでいるとヤマトさんは笑っていた。

「僕に、美味しい美味しいと言えばいいと思ってるでしょって、言った名前さんも言ってるじゃないですか。」
「ホントだ。じゃあ、これも言わないと。美味しいものは美味しいんです!」
「真似しないで下さい。」

こんなとりとめのないやり取りができる距離に彼がいることがたまらなく嬉しくて。
デザートの柚子シャーベットをまた、美味しい!と私がはしゃぐと彼はまたクスクス笑った。

「名前さんが喜んでくれて嬉しいな。」

そして、小さくひとり言ぐらいの声で呟いた。

「来てよかった。」

その時、あれ?そういえば、私は彼に来てくれてありがとうって言ってないのではとフト気付いた。
忙しい彼がきっと無理に時間を割いてくれたのは明白で、申し訳ない、とか、すみません、ばっかりだ。駄目な彼女だな。
伝えなくっちゃ、ちゃんと。
嬉しいって。ありがとうって。

でも、いざとなるといやに気恥ずかしくて、どう切り出したらいいものかと、モジモジしてしまう。
そうこうしているうちに、中居さんが片付けに来てしまった。
中居さんが帰ったら言おうと思うけど緊張してしまうな。
そんな私はヤマトさんを直視できず、中居さんのテキパキした動きを眺めていた。

「では、失礼致しました。おやすみなさいませ。」

食事を片付け、布団を一組引いた中居さんがついに出ていってしまった。

言おう、言わなくちゃ、言うんだ。
でも、気恥ずかしい。
いったん落ち着こう!
そして私は口走っていた。

「お茶を飲んでいってもいいですか?」
「もちろん。」
「淹れてきますね。」

私は立ち上がり、急須にお茶葉をいれながら思った。
こういう気恥ずかしい発言をする時は勢いが大切だ。
席についたら、まず言おう。
イメージしてみる。
お茶をテーブルに置いて、向かいあって椅子に座り、彼の目を見てお礼を言う自分。
ちょっと照れるけど、大丈夫。
私は言える!やればできる子!頑張れ自分!
だが、自分を奮い立たせてお盆にお茶を2つ置き戻ると驚いた。

ヤマトさんは椅子に座ったまま寝ていたのだ。
びっくりだ。
あーもう!自分の馬鹿!ヤマトさんはお疲れに決まっているのに、お茶とか言い出さずサッサと部屋に戻るべきだったのだ。

「ヤマトさん?こんなところで寝たら風邪引きますよ。」
「ん?」

寝ぼけ気味の彼の肩を控えめにゆさゆさと揺すった。

「ヤマトさんったら!あっちのお布団で寝て下さい!」
「あっ、ごめん。…僕、今、寝てたね。お腹もいっぱいだし気が緩んじゃって。ごめん。」

ヤマトさんは姿勢を整えて座り直した。

「いえいえ、お疲れなのに、こちらの方がすみません。」

またお礼の言葉じゃなく、うっかり謝罪の言葉を述べてるし
ホント駄目だな自分。

「お茶飲もうよ?」

優しい彼はそう言うけれど、早く休ましてあげたい。

「やっぱりもう寝ましょ?」
「どうして?」

ちょっとムスッとした顔で問われた。

「明日もたくさん歩かないといけませんし。」
「少しぐらい、いいじゃないか。」

ヤマトさんなんで意地になってるのよ。
もう!
と、私は立ち上がり彼の手をひっぱった。

「えっ?なんですか?」

彼は黒目がちの丸い目をさらにまん丸くして驚き、私に引っ張られるがままに立った。

「お布団に連行します。ゆっくり休んで下さい。」

すると彼は駄々を捏ねる子供みたいに言った。

「もう少し一緒にいたいんだ。」

あぁもう!そりゃ私も一緒にいたいけど…
うっかりヤマトさんが寝ちゃうなんて初めて見たよ?
迎えに来てくれるために、きっとお休み無理してとったんでしょ?
でも、こんな子供みたいな彼を初めて見た。
それに私だって同じ気持ちなのだ。
うーん、と少し考えて、私は思いついた案を彼につげた。

「じゃあ…ヤマトさんが眠るまで一緒にいます。」

途端に顔が赤く染まったヤマトさん。

「そんなの緊張して眠れません!」

そんな可愛い反応されても私は流されないんだからね。

「さっき寝てたじゃないですか。それに私、寝かしつけ上手いんで任せて下さい!」

村の小さい子を寝かしつけたことあるし!昼寝だけど。
ぽかーんとして、なに言ってるんですか。とか、いやいや、駄目だ!とか騒いでるけど、無視だ、無視!
強引に腕を引っ張って、布団に連れて行った。

「さぁ、寝ましょう。トントンしてあげますよ?」

ヤマトさんは、あー、とか、いや、そんな、えー、とか、まだ赤い顔のままでブツブツ言ってる。
ふふ、可愛い、だんだん面白くなってきた。

「そんなに嫌ならわかりました。もう、部屋に帰りますね。失礼します。」

私が背を向けると彼は慌てて私の手を掴んできた。

「ちょっと待ってくださいー!!!」

よし、釣れた。成功だ。
電気をパチリと豆球にした。

「どうぞ、寝てください。」
「あぁ、なんでこんなことに…。」

彼は布団に仰向けに寝た。
そして、私は彼の方を向いて畳の上に身体を横たえ、彼の分厚い胸板にそっと手をおき、トントントン…と、優しく優しく叩いた。

「眠れそうにないよ。」
「じゃあ、子守唄もつけましょうか?」
「そんなことされたらますます眠れそうにない。」

本当に参った、というように言うので
クスクス笑ってしまう。

しばらく沈黙の中、トントントン…と、していると、すぅすぅと規則正しい寝息が聞こえてきた。
よかった。やっぱりお疲れだったんだろうな。

眠りに落ちた彼の横顔を見て思う。
どうしてわざわざ迎えに来てくれたのだろう。
というか、どうして彼は私がいいのだろうか。
いたって平凡で世界の違う非力な一般人の私を何故選んだのだろうか。わからない。
でも、一つ言えることは私は世界が違っても…もう引き返すことはできない。
彼が愛しくてたまらない。

ヤマトさんの寝顔を見つめていたら、幸せでたまらなくて胸が締め付けられる。
こんな気持ち知らなかった。
幸せ過ぎると胸が苦しくなるんだ。
この瞬間が永遠に続けばいいのに。
そばにいたい、離れたくないな…
私の体は自然と動いていた。そっと、彼の布団に潜り込んだのだ。
よく眠ってるし…大丈夫、だよね?
このまま朝まで一緒に眠りたい。
起きたらなんて言い訳しよう、と考えているうちに私は眠りに落ちていた。

―――

朝、鳥のさえずりで目が覚めた。

そして、僕の目に飛び込んできたのは、
名前さんの寝顔だった。

えっ!?えっ!?!?えっ!?!?!?
どういうことなんだい!?

昨晩の出来事を思い起こしてみる。
そうだ。夕食を済ませたあと彼女が淹れてくれるお茶を待っている間にウトウトしてしまったんだ。
このところの激務とおとうさんとの晩酌が盛り上がって睡眠不足気味だったのもあって、その上お腹がいっぱいでついつい気が緩んでしまい少し寝てしまった。
すると彼女が僕のことを寝かしつける!と有無を許さぬ勢いで言い出し、体を優しく優しくトントントンとしてくれたのだ。
初めの方こそ緊張のあまり眠れないだろうと思っていたが、予想以上に心地よいリズムで眠気が襲ってきたのは覚えている。

でも、なんで?
僕が眠るまでって言ってなかったかな?

えっ?えっ?
なんで僕らは一つの布団で向かいあって寝ているんだい?

それにしても彼女をこんなに近くでマジマジと見つめるのは初めてだ。
陶器のように白い肌に桃色の頬、赤い唇。
思わずゴクリと唾を飲んだ。

しかも、彼女の浴衣は胸元がはだけていて、柔らかでふくよかな二つの膨らみと谷間が見える。
淡いピンクのレースのブラもチラリと伺えた。

想像していたより大きいな。
目をそらせない。釘付けた。
自分の腰のあたりに重だるい熱が集中していく。

彼女の赤い唇、呼吸に合わせて上下する膨らみ、それを包むレースの下着

自身のモノが下着の中で窮屈そうに固く反り返って熱をカタチどっていく。

はぁ、と思わず甘めいた溜息が漏れた。

目の前の膨らみの柔らかさを想像してしまう。
触れたい。顔を埋めてみたい。

目を反らした方がいい、頭ではわかっているけれど、駄目だ。

駄目だ。
もう限界だ!
君の唇を塞いで、そのまま、身体を貫きたい!

と、思った時だった。
パチリと音が聞こえそうな勢いで彼女は目を覚ました。

びっびっびっびっくりしたー!
驚きのあまりこれでもかとばかりに目を見開いた僕と彼女はしばし見つめ合った。

そして、彼女はニコッと笑い
「おはようございます。私、着替えてきますね。」
と、言うやいなや、あっという間に布団からするりと抜け出し浴衣の乱れをさっと直し、
「じゃまた後で。」
と、部屋と玄関を区切る襖をガラリと開け、姿を消した。

なんだったんだ、いったい…
身体を起こしてようやく頭が働き出しふと気がついた。
襖の向こうに彼女がまだいる。

「名前さん?」

呼びかけるが返事がない。
どうしたのだろう、と思っていると、小さく彼女は声を出した。

「ありがとうございます。迎えに来てくれて。」
「…どういたしまして。」

なんで今更…?
彼女はまだ襖の向こうで動かない。
すると、躊躇いがちに言葉を紡ぎ出した。

「あの、その、私……凄く会いたかったんです。だから、……嬉しかったです。」

そして、バタバタと慌てて部屋から出ていった。
会いたかったって…名前さんもだった?
僕だけじゃなかったんだ。
そうか、なんだ。そうなんだ。
自然と口角が上がる。

朝から幸せな驚きの連続だ。
僕は本当に彼女に振り回されてばかりだ。だけど、それも悪くない。
好きな人と付き合うってのは、こんなにも幸せなものなのか。

ーーー

旅館の玄関を出ると、雲一つない青空が広がっていた。
気持ちの良い天気だ。
昨日の晩は久しぶりにしっかり眠れたし体調も万全。

それに、今朝の出来事が僕に少しの勇気をくれた。
タイミングを逃したままだったけれど、今の僕なら言える気がする。
ちょっと気恥ずかしいけどね。

「名前、行こうか。」

そして、君の手をそっと握った。
君は驚いた顔でこちらを見た。
「はい」と応えると幸せそうに微笑みぎゅっと握り返してくれた。

君もいつかヤマトと呼んでくれるのかな。
まぁいいさ、僕らは僕らのペースでゆっくり行こう。
一つ一つ大切に進めていくのはきっと楽しいから。


おしまい